韓国における職業資格の現況
―運営実態と就職への影響

カテゴリー:人材育成・職業能力開発若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2016年9月

職業資格は学歴、学業成績、外国語能力等とともに、企業が大卒者を採用する際の重要な評価指標となっている。これらの評価指標は「スペック(Specificationの略)」とも呼ばれ、韓国の大学生は、激しい就職競争を勝ち抜くため、懸命にスペックの積み上げに努力している。このように職業資格は需給の両面でその持つ意味が大変大きい。また、韓国では多種多分野にわたる資格の大半に何らかの形で国が関与する仕組みを持っている点で特色がある。

韓国職業能力開発院(KRIVET)の韓国における職業資格の状況等についてのレポートを基に、以下その概要を紹介する。

資格の種類と概要

2015年末基準で、韓国における職業資格の数は約20,000種である(表1)。これらは、国が管理する資格と民間が管理する資格に分けられる。

表1:韓国の資格の種類と概要
所管 名称 内容 具体例
国が管理 国家資格 149種 国家資格関連法令に基づく資格 医師、看護師、弁護士、公認労務士、観光案内士、航海士、等
国家技術資格 526種 国家技術資格法に基づく産業と関連がある技術・技能に関する資格 起重機運転技能士、建築技師、理容師、美容師、等
民間が管理 登録民間資格
 うち公認民間資格
17,956種
101種
国に登録
優秀な民間資格を国が公認
(以下公認民間資格)家具設計製図士、情報システム管理士、手話通訳士、パソコンに関する能力試験、各種外国語試験、漢字検定試験、等
事業内容 129種 事業主等が人材を養成するために新設・管理・運営
その他 不明 外国法人等が独自に管理
  合計 約20,000種    
  • 出所:韓国職業能力開発院(KRIVET)の資料を基に作成。

国が管理する職業資格は675種で、「国家資格」と「国家技術資格」があり、各々数は149種と526種である。「国家資格」とは、国の主務官庁において国家資格関連法令を定め、それに基づく資格であり、「国家技術資格」とは、国家技術資格法に基づく資格で、産業と関連がある技術・技能に関する資格である。

一方、民間が管理する職業資格には、国に登録されている「登録民間資格」の17,956種と、事業主等が事業現場に適合した人材を自主的に養成するために新設・管理・運営する「事業内資格」があり、129種が認定されている。また民間にはこれ以外に外国法人等が独自に管理している職業資格もあり、それについての正確な数は把握されていない。なお、「登録民間資格」は国民に正確な情報を提供し、民間資格が際限なく新設されていくのを抑える意図で2008年より登録制を導入したことに始まる。また「登録民間資格」17,956種のうち、国が公認する「公認民間資格」が101種ある。これは社会的需要に適った優秀な民間資格を国(主務官庁)が公認するというものであり、資格名称の独占権が付与される等国家資格に準じた扱いを受けることができる。

近年の資格数、受験者の推移

近年の推移の中で特徴的なこととしては、まず、登録民間資格の数は急増している(2008年582種→2015年17,956種)一方で、公認民間資格の増加は緩慢(2008年77種→2015年101種)であることが挙げられる。これは、公認を受ける際の審査基準が厳しい(公認率9.2%)というのも理由のひとつであるが、“登録”という名称が既に信用を付与した印象を与えており、したがって、民間の資格管理機関は公認申請をするまでもなく、登録資格であることを広報することによって、資格の商品価値を維持しているとKRIVETは分析している。しかしながら、実際のところ登録は資格基本法の欠格事由に該当しなければ誰でも登録が可能であることも指摘している。

約20,000種に及ぶ全資格の受験者は年間で約400万人に至るほど大きいが、最近の動向としては、国家技術資格の受験者が2013年以降減少している(2003年286万人→2014年99万人)ものの、青年層(29歳以下)では技能士等の資格受験者は、就職のための資格証の取得の必要から2013年以降は増加に転じている。

公認民間資格の受験者についても、2011年の212万人をピークに減少する傾向にある。2012年から2014年の3年間における主要主務官庁別公認民間資格の受験者数も、企画財務部と文化体育観光部を除き、減少している(表2)。ただし、こうした中でも、20代の受験者は60万人前後と比較的一定水準を維持している。また、公認民間資格について、その分野を見ると、最も多い分野が語学・国語分野(30.9%)、次が経営管理分野(24.7%)、技術・技能分野(13.4%)、コンピュータ・情報技術分野(12.4%)、基礎事務分野(9.3%)等と続く(図)。これに関しKRIVETは、公認民間資格の受験者の大部分は学生で、語学や基礎事務といった分野の職業資格は就職のためのスペック積みに活用される傾向があり、今後は職業能力開発に結びつけることが可能な分野の資格の拡大が求められる、と提言している。

表2:主要主務官庁別公認民間資格受験者数の推移(単位:千人)
  保健福祉部 行政自治部 金融委員会 企画財務部 文化体育館後部 産業通称資源部 雇用労働部 教育部 未来創造科学部
2012年 5 7 33 24 63 98 274 519 924
2013年 5 7 34 31 71 104 273 416 887
2014年 5 5 32 48 79 97 248 319 858
  • 出所:出所:韓国職業能力開発院(KRIVET)

図:公認資格の分野別割合
グラフ:画像

出所:韓国職業能力開発院(KRIVET)

スペック積みが就職へ及ぼす効果

就職競争に勝ち抜くため、大学生は少しでも自分の評価を引上げようと、その指標となる要素を積み上げる。これがいわゆる「スペック積み」である。スペックの主な要素には 「学歴」「学業成績」「英語能力(TOEIC点数)」「語学研修への参加」「インターンへの参加」「留学」「資格証」「取得資格証の数」等がある。

KRIVETは2012年、就職先として韓国の大学生の多くが希望する大企業・公共部門への就職にスペックがどの程度影響を与えているのかを、大企業・公共部門への就職した者とそうならなかった者を比較して調査している。

これによると、スペックのうち、「学業成績」「大学の特性(公立・私立の別、ソウル所在か否かの別)」「留学経験」の要素の差異は企業・公共部門への就職には影響しないが、その一方で、「英語能力(TOEIC点数)」「インターンへの参加」「資格証」等の要素は影響する、と結論づけている。

また、KRIVETは大学生の家庭の所得水準とスペックとの関係についても調べている。

その結果、「学業成績」と家庭の所得水準との相関関係は見られないが、「英語能力(TOEIC点数)」は高所得家庭出身者の方が高くなることを明らかにした。これは、語学研修や留学の経験が得られるためとしている。更に、インターン経験についても、高所得の家庭の学生は政府支援のインターン制とは別に、企業自体の運営によるインターン制度への参加率が高くなるなどの違いが現れたとしている。

以上から、KRIVETは家庭の所得水準の違いが就職に影響を及ぼし、また世代間の遺産として引き継がれていくならば、今後両極化が進んでいくだろうという懸念を示すとともに、その対策の必要性を指摘している。

参考

  • 「KRIVET Issue Brief」2016 99号
  • 「KRIVET Issue Brief」2015 84号
  • 「KRIVET Issue Brief」2012 16号
  • 雇用労働部ウェブサイト

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