シェアリング・エコノミーで働く人が1000万人へ
―新しい働き方の労働者をどのように保護するか

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年3月

企業と雇用関係を結ばずにインターネットを媒介にして働く、いわゆるシェアリング・エコノミーで働く労働者の数が1030万人に達したとJPモルガン・チェイス研究所が報告した。こうした労働者は、最低賃金や労働時間などの保護や、健康保険や年金などの社会保障の適用を受けないことから、新しい枠組みが必要だとする議論が活発になっている。

独立労働者(Independent Worker)

報告によれば、2012年から2015年にシェアリング・エコノミーで働く請負労働者の数は1030万人に達した。この数は労働人口の6.5%にあたる。

25歳から34歳の比較的に若い労働者が多く、平均月収は2800ドルで居住地域は西部が多かった。月収の内訳をみれば、シェアリング・エコノミーのみでは平均530ドルほどであり、全体の3割程度だった。このことから、本業の収入だけで生活することが難しい労働者にとっての副業となっており、18歳から34歳の大半が月ごとの収入が30%ほど変化するなど、不安定な状況にあると報告書は指摘している。

こうした請負労働者のことを、独立労働者(Independent Worker)という。派遣やテンポラリー、パートタイムなどの非正規雇用労働者に独立労働者を加えて、非典型労働者(Contingent Worker)とよび、労働省労働統計局は数の把握を行っているが、調査は予算の関係から2005年以降行われていない。非典型労働者数の正確な把握のために、調査の再開を求める声が高まっており、連邦労働省は2017年に調査を実施したいとしている。

AFL・CIOがシェアリング・エコノミーをターゲットに

拡大するシェアリング・エコノミーで働く労働者の数を前にして、アメリカ労働組合総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)は、こうした労働者を請負ではなく雇われて働いているものとして扱うべきだとする政策方針を2月24日の役員会で採択した。方針では、労働運動は不安定な状態にある労働者を援助し、悪い状況にある仕事を良いものへと変えてきた歴史があるが、そうしたことを全ての産業に拡大し、地域コミュニティおよびコミュニティを支える家族を支援するような運動に変えるとする。

独立労働者に新しい法的地位を

独立労働者を雇用労働者に区分し直すことで、権利を守ろうとする動きがある一方で、発展するシェアリング・エコノミーの活力はそのままに、新しい法的枠組みで労働者の権利を擁護しようとする方向もみられるようになっている。

コーネル大学労使関係研究所は2月2日のインターネット上のウェブカンファレンスを開催したが、そこで元労働副長官セス・ハリス氏が、「①独立労働者に適切であり②経済効率的で ③自発的に独立労働者を選択することを尊重する」ことをかかげたうえで、「雇用労働者と異なる時間管理を認めるとともに、経済効率性もあわせて確保しなければならない」と発言した。

また、独立労働者の権利擁護や健康保険と年金などのサービスを提供する組織、フリーランサーズ・ユニオン代表のサラ・ホロビッツ氏は、「うまく機能している仕組みを取り除くのではなく、創造的であるべきだ」と発言するなど、シェアリング・エコノミーに対応した新たな法的枠組みの必要性を強調した。

ウェブカンファレンスでは、コンサルタント企業や大統領経済諮問会議元議長、アラン・クルーガー氏の発言もあった。彼らは、フランチャイズ事業におけるフランチャイジー従業員に対するフランチャイザーの雇用者の適用を拡大しようとする全国労働委員会(NLRB)の近年の動きに触れながら、旧来の雇用労働の枠組みを独立労働者に拡大すれば、シェアリング・エコノミーの発展を阻害するとともに、経済発展や失業率の低下にとって良くない結果となると主張した。

労働組合の方向性や独立労働者の法的地位の問題に加えて、企業としての社会的責任も含めたかたちで、シェアリング・エコノミーについての議論が活発化している。

(国際研究部 山崎 憲)

参考

  • Martin Berman-Gorvine (2016) ‘Independent Workers': Wave of the Future?, Daily Labor Report, 2016, Feb.4.
  • Tatiana Darie,(2016) More Americans Work in Gig Economy Than Live in Georgia, Daily Labor Report, 2016, Feb.19

  • Michael Rose,(2016) AFL-CIO Says Gig Economy Workers Should Be Employees, Daily Labor Report, 2016, Feb.24.

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