労働4.0
―関連議論が活発化

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2015年12月

連邦労働・社会省(BMAS)は4月、デジタル化や技術の進展に伴う労働課題を話し合うためのグリーンペーパー(討議資料)「労働4.0」を発表した。それを受けて現在、労使団体や研究機関等が様々な角度から、今後の労働市場で起こりうる問題解決の在り方を探っており、議論が活発化している。

インダストリー4.0がもたらす労働への影響とは

ドイツでは現在、政府、産業界、労使団体、研究機関などの関係者が参加し、製造分野のイノベーションを進め、第4次産業革命を目指すプロジェクト「インダストリー4.0(Industrie4.0)」が進行している(注1)

連邦労働・社会省(BMAS)のグリーンペーパーによると、「第4次産業革命が実現した世界では、運転手や郵便配達員に代わって自動運搬装置が活躍し、外科医に代わって優秀なロボットが手術を担い、建設作業員に代わって3Dプリンタが住宅を大量生産しているかもしれない」という未来を示唆した上で、考えるべき労働上の課題に言及している。

  • デジタル化や技術の進展は、異なる産業、生産工程、雇用レベルにどのような影響をもたらすのか。また、その結果、企業や労働者にどのような影響をもたらすのか。
  • デジタル化や技術の進展は、「労働」に対する概念をどのように変え、現在の標準的な労使関係や労働契約の在り方をどのように変えていくのか?例えば、勤務場所、労働時間概念、ストレスレベル、労働安全衛生上の課題、共同決定権、労使交渉の実施にどのような影響を与えるのか。
  • どのような技能・資格が必要になり、企業ニーズとのマッチングはどのように行われるのか。
  • フレキシブルな仕事や働き方は、どのようになるのか。クラウドワーキング(注)が典型的な働き方になるのか。その場合、社会保障制度や労働法はどのように、新世代の労働者や業務に対応させる必要があるのか。

(注)クラウドワーキングとは、企業外で働く手法で、企業が業務の一部を外部化(クラウド化、cloud migration)することで近年拡大している働き方である。インターネットなどのネットワークを通じて、請負労働者やフリーランサーが自宅などで作業し、成果物を提出することが多い。具体的な業務としては、WEB製作、システム開発、ライター業務等がある。

BMASは、上述の労働課題を検討するため、2つの討議グループ(プラットフォーム)を設定している。1つは、学識者、労使団体、社会福祉団体の代表などが参画する専門家グループ、もう1つは、フェイスブック等のツールを活用して、コメントやアイデアを公に募る一般市民グループである。

BMASによると、この2つの討議グループを通じて、未来の働き方に関する課題解決の糸口を探り、雇用レベル、労働者の賃金、労働条件の低下を回避し、技術の進展による、新しい雇用機会の提供や働き方の可能性を模索するとしている。

図:「労働4.0」のイメージ図 進化の過程にある労働社会
図表:画像

  • 出所:BMAS(2015)Grünbuch Arbeiten 4.0.

民間研究所の調査・分析

BMASの動きを受けて、デジタル化や技術の進展に関する調査や未来予測が相次いで民間研究所等から発表されている。

モバイルICT機器の活用により、労働者の仕事と私生活の境界線が曖昧になることへの弊害(例えばメンタルヘルスの問題につながる可能性等)について、ケルンにあるドイツ経済研究所(IW Köln)は、連邦職業教育訓練研究機構(BIBB)/ドイツ労働安全衛生研究所(BAuA)の労働力調査データを用いて分析を行った。その結果、「インターネットをベースにして働く労働者の約6割が、厳しい締め切りやパフォーマンスプレッシャーを経験していたものの、それが自動的にストレスレベルの上昇につながっているわけではない」ということが判明した。インターネットベースで働く労働者の4%はストレスが高く危険な兆候が見られたが、それは厳しい締め切りやパフォーマンスプレッシャーに対処する中で、"裁量性の欠如"が追加された場合にのみに生じていた。IW Kölnは「インターネットをベースにして働く労働者が、他の労働者グループと比較して、より頻繁にストレスを感じるわけではない。ストレスレベルは、上司や同僚との関係性や、業務の裁量性、仕事への達成感によって減る。インターネットをベースにして働く労働者の95%は、自らの裁量で仕事ができる場合、自身の仕事に非常に満足していた」と、結論づけている。

一方、ボストンコンサルティンググループ(BCG)は、インダストリー4.0の発展がドイツの産業に与える将来的な影響分析を発表している。それによると、分野ごとに異なるが、機械エンジニアなどのいくつかの技能職は今後一層ニーズが高まるとしている。ただ、一方で単純な繰り返しを伴う低技能職の雇用は失われる可能性が高く、労働者は、今後はより高度なITやソフトウエア技能を習得する必要があるとしている。BCGは結論として、今後10年間で39万の新たな仕事が創出され、生産性と収益性の向上によって産業ごとに異なるものの、全体で雇用レベルが6%ほど上昇すると予測している。

BCGの上述のような楽観的な予測が出る一方で、ドイツ最多の顧客数を誇るオンライン銀行ING-Diba の予測によると、デジタル化や技術の進展で、今後20年間で1830万人分の仕事が無くなる可能性がある。自動化やロボット化によって大幅に減る可能性がある仕事には、秘書、営業、郵便関連の単純業務、宅配サービス、倉庫業務、清掃、レストラン、ケータリング等が含まれる。一方で、経営・管理、学術研究、創作的(クリエイティブ)な仕事等は、自動化の影響を受けにくいとしている。ING-Dibaは、規模については不明だが、将来的には、特にIT分野において新しい仕事がつくられる可能性にも言及している。

これらの研究結果が示すように、今後数十年で、いくつの仕事が失われ、また作られるかに関する予測のコンセンサスは未だに得られていないのが現状である。

未来の規制の在り方をめぐり、労使は対立

労使団体も各々の考えを発表しているが、未来の労働規制の在り方については大きく対立している。

ドイツ使用者団体連盟(BDA)は6月、デジタル化に関するポジションペーパーを発表した。それによると、デジタル化とイノベーションは、ドイツの産業競争力を高め、新しいビジネスチャンスや、より良いワークライフバランスに関する展望を開くと評価している。その上で、今後ますます拡大する可能性が高い自由で高度に専門化した働き方については、これ以上規制を強化しない方が良いと主張。さらに、現在は1日単位で定められている最大労働時間の規制を1週間単位に拡充することを提案し、企業の労働時間配分に関する裁量の幅を広げることを求めている。また、オフィスや作業現場などで適用されている労働安全衛生は、自身の裁量で働くクラウドワーカーには応用適用しないよう、要請している。

ドイツ労働総同盟(DGB)は、BDAのこうした主張を真っ向から批判し、対立している。DGBは、特に最近急速な広がりを見せているクラウドワーキングといった雇用形態は規制する必要があり、「労働者」や「共同決定権(注2)」等の概念をこうした人たちにも拡大していく必要があると主張。DGBはクラウドワーカーの多くが偽装自営業者のような働き方をしており、今後は社会保障制度に組み入れ、保護すべき対象であると考えている。さらにデジタル化時代における雇用保護、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、適切な能力開発、労働者の健康と安全を守るための新たなルールを設定することを求めている。

連邦労働・社会省(BMAS)は様々な関係者の意見を集約し、調整した上で、2016年末に最終的な議論のとりまとめを行い、ホワイトペーパー(白書)を発行する予定である。

参考資料

  • BMAS (2015) Grübuch Arbeiten 4.0、ING-DiBa AG (2015) Die Roboter kommenIW Köln(2015) Bewältigung von Stress in einer vernetzten ArbeitsweltThe Boston Consulting Group (2015) Industry 4.0: The Future of Productivity and Growth in Manufacturing IndustriesPositionspapier der BDA zur Digitalisierung von Wirtschaft und Arbeitswelt (Mai 2015) Chancen der Digitalisierung nutzenDGB (Juni 2015) kommentar -Digitalisierung der ArbeitsweltSandra Vogel (21 October 2015) Germany: Effects of digitalisation on the labour market and working conditionsEurWORK

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