好調な労働市場の影で
―長期失業者問題

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2015年10月

連邦雇用エージェンシー(BA)が9月1日に発表した8月の統計値によると、労働市場は引き続き堅調に推移している。就業者数は前月比で2.6万人増の約4300万人に達し、失業者数は前月比で7000人減の279万人となった。失業率は前月比横ばいの6.4%と、東西ドイツ統一以来の最低水準だった(ともに季節調整値)。

しかし、このように好調な労働市場にもかかわらず、長期失業者の数はなかなか減らず、大きな政策課題となっている。

長期失業の推移

ドイツでは1年(12カ月)以上失業状態にある人を「長期失業者」と定義している。

IZA(労働の未来研究所)が7月に発表した資料によると、2005年から2009年にかけて長期失業者の数は180万人から110万人へ減少したが、その後は、ほとんど変化なく推移している。それどころか、失業における長期失業者の割合は2009年から2014年にかけて33.3%から37.2%に上昇しており、失業者の構成が少しずつ長期失業者へとシフトしていることが伺える(図表1)。

図表1:ドイツにおける失業と長期失業の推移 (2000年~2014年)図表1:失業者数と長期失業者数、長期失業者の割合の推移を表したグラフ

  • 出所:IZA DP No.9134(2015).

長期失業者の現状

長期失業者の9割は、通称「ハルツⅣ」と呼ばれる「求職者基礎保障給付」の受給者である。同制度は対象者の生活保障を目的としており、求職者本人に「失業手当Ⅱ」を、同一世帯の就労能力のない家族等に「社会手当」を給付する。なお、失業者手当Ⅱの標準給付月額は、以下の通りである(図表2)。

図表2:求職者基礎保障の標準給付額 (月額)
受給資格者 2015年1月1日からの給付額
単身者(成人1人あたりの標準月額)、 単身養育者(ひとり親)の受給資格者 399ユーロ
家計を一にして同居するカップル 360ユーロ
独自の家計を営まない、またパートナーと家計を一つにしない成人の受給資格者 320ユーロ
14歳から18歳未満の若者 302ユーロ
6歳から14歳未満の子供 267ユーロ
0歳から 6歳未満の子供 234ユーロ
  • 出所:連邦労働社会省(BMAS)2014.

100万人を超える長期失業者のうち、半数強の55万人は求職期間が2年を超えており、さらに20万人弱は4年を超えている。近年は経済が好調なため、失職リスクが低下し、短期失業者の再就職チャンスも増加しているが、長期失業者は手当(給付)に依存する期間が長くなればなるほど就職チャンスが減少する。

連邦雇用エージェンシー元役員のハインリヒ・アルト氏によると、①50歳以上、②健康不安(精神・身体疾患)あり、③職業訓練資格なし/資格価値の経年劣化あり、④ドイツ語能力不足、というマイナス要因のうち、いずれか3つが該当する場合、「求職者の就職可能性はほぼゼロになる」とされる。さらに同氏は、長期失業者の再就職がより困難になっている最近の要因として、EU域内の拡大等で高度な資格を有する外国人が多数押し寄せていることや、デジタル化が加速する産業社会の中で、単純労働や補助的な仕事自体が減少していることを挙げている。

長期失業統計の問題

長期失業者の問題が近年クローズアップされるにつれて、公式数値よりも実際の長期失業者数の方がはるかに多いのではないかという議論もなされている。

ドイツでは、「長期療養者(6週間以上)」や「向上職業訓練(Fortbildung)(注1)受講者」は、統計から除外される。また、58歳以上で少なくとも1年以上失業手当Ⅱを、求人の提案を受けることなく受給している人も失業者とみなされず、統計から除外される。こうした除外者を含めると2015年6月の長期失業者数は17万人近く増加する。この点について、野党「緑の党」は、与党の連立政権(CDU/SPD)に対して、「統計を粉飾している」と批判している。

さらに、長期失業者が少なくとも(何らかの労働市場政策措置等により)1日以上仕事をしたり、療養期間が終了したり、向上職業訓練が終了したりすると、失業は中断したと見なされ、測定は再びゼロから開始されて、短期失業者としてカウントされる。こうしたステイタス変更をされた長期失業者も含めると、2015年6月の長期失業者数はさらに8.3万人増加すると見られ、その他の試算が困難な中断理由も含めると、公式数値と実際の長期失業者数の差違は数十万人近くに上るのではないかと見られている。

連邦雇用エージェンシーの広報担当者も、その問題は認識しており、南ドイツ新聞(S・deutsche Zeitung)の取材に対して、「該当者の失業期間に関する個人的な感じ方と、失業期間の統計的数値が常に一致しているわけではないのは事実だが、統計は法的基準を遵守する必要がある」とコメントしている。

緑の党のブリギッテ・ポートマー広報担当官はこの問題について、「統計によって長期失業者の規模がきちんと把握できず、問題の本当の大きさが示せない場合、政治的な解決への圧力につながらず、長期失業者や長期失業の恐れがある人々が苦しむことになる」と批判している。

長期失業に関する効果的な施策

IZA(労働の未来研究所)のアレキサンダー・シュペアーマン労働政策部長によると、長期失業者を減らすための効果的な施策は、①失業の防止、②短期失業からの長期失業への移行を最小化する、③失業者の雇用と教育への移行を最大化する、という3本の柱が重要になる。

特に最後の「雇用と教育への移行を最大化する」ためには、①教育投資、②労働市場政策、③社会政策の3つが欠かせないとしている。

そのため、長期失業者の就労支援を担当する「ケースマネージャーの質の向上」が非常に重要で、長期失業者の就労支援は長期化することが多いことから、長期失業者とケアマネージャーとの間で一定の信頼関係を結ぶことが大切だとしている。シュペアーマン氏はさらに、多くの長期失業者の支援に欠かせない「借金、中毒、心理カウンセリング等の社会統合サービス」は、全国どこでも要支援の長期失業者が受けられるようにすべきだと提言している。その上で最後に「いったん就職できたとしても、また失業してしまう長期失業者のネガティブリターンズ(舞い戻り)を減らすための科学的な調査や分析も今後重要になってくる」と結論付けている。

参考資料

参考レート

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