若者の職業訓練と関連の取り組み
ドイツでは若者の学校から職業への移行に際して、伝統的に職業訓練を重視してきた。特にデュアルシステムによる職業訓練が中心的な位置を占めている。当該訓練については近年、人材不足が懸念される職種への参加を促す取り組みや、訓練時の超過勤務に関する改善要請、企業と若者のミスマッチの問題などが指摘されている。以下にその現状を紹介する。
中核となるデュアル職業訓練
デュアルシステムによる職業訓練は、ドイツで最も人気が高い訓練である。実務と座学を並行して行う二元的(デュアル)な制度が特徴となっている。約350ある公認訓練職種は、販売や事務から技術系まで幅広い。訓練は、企業における実務が週3~4日(7割)、職業学校における座学が週1~2(3割)と、実務の比重が大きい。企業と訓練生は「職業訓練契約」を締結し、期間中は訓練手当が支給され、社会保障の対象にもなる。主な対象者は、義務教育修了者や大学の入学資格取得者で、若者が労働市場に入るための主要な経路の一つとなっている。同訓練への参加は義務付けられていないが、実際に若者の過半数が訓練に参加している。
訓練内容は法律で規定されており、期間は職種や受講生が保有する資格によって2年~3年半となっている。最終試験は、訓練分野の実習と理論に関する筆記試験と口述試験から成り、管轄の会議所が実施する。
志向職種の違いとより若い層への働きかけ
図表1、2は、2012年から翌年にかけて締結された新規のデュアル職業訓練契約(計53.7万件)のうち、上位10の職種を男女別に示したものである。約350ある訓練職種のうち上位10職種に、約四割弱(男性)から五割強(女性)の職業訓練契約が集中していることが分かる。女性は営業補助や小売りなどの職種を志向する傾向が見られ、男性は自動車や産業機械などの技術系職種が多い。
職業訓練職種 | 新規職業訓練契約締結数 | 全新規訓練契約数に占める割合(%) | |
---|---|---|---|
1. | 営業補助 | 15,456 | 7.2 |
2. | 小売店員 | 14,637 | 6.8 |
3. | オフィス業務 | 13,854 | 6.4 |
4. | 医療助手 | 13,692 | 6.4 |
5. | 歯科助手 | 12,000 | 5.6 |
6. | 産業系事務 | 11,385 | 5.3 |
7. | 理容・美容師 | 10,008 | 4.7 |
8. | 広報アシスタント | 8,727 | 4.1 |
9. | 食品手工業専門販売職 | 7,680 | 3.6 |
10. | ホテル専門職 | 7,386 | 3.4 |
職業訓練職種 | 新規職業訓練契約締結数 | 全新規訓練契約数に占める割合(%) | |
---|---|---|---|
1. | 自動車工 | 18,594 | 5.9 |
2. | 産業機械工 | 12,729 | 4.0 |
3. | 小売店員 | 12,369 | 3.9 |
4. | 電気設備工 | 11,688 | 3.7 |
5. | 建築設備技術者 | 10,881 | 3.4 |
6. | 営業補助 | 10,413 | 3.3 |
7. | 情報技術者 | 9,843 | 3.1 |
8. | 倉庫物流管理者 | 8,796 | 2.8 |
9. | 卸売・貿易事務 | 8,775 | 2.8 |
10. | 調理師 | 7,953 | 2.5 |
注:図表1-2の対象期間は、2012年10月1日~2013年9月30日の1年間。
出所:職業教育訓練研究機構(BIBB)
技術系については、将来的な人材不足が懸念されるMINT (数学、IT、自然科学、工業技術)分野の職種が含まれており、問題解決のためには、不足懸念職種への女性のさらなる参加が鍵になると考えられている。
そのため、政労使は2001年から技術系職種や理工研究分野へ女性の参加促進を目指す「ガールズデイ」という大規模なイベントに取り組んでいる。ガールズデイは、政労使がアクションパートナーとなり、企業、大学、研究機関などの職業(訓練)・研究紹介イベントに、若い女性(主に小中高校生)を招待するものである。これまでに約150万人の女性が参加した。連邦雇用エージェンシー(BA)も参加しており、MINT分野の職業を選択した場合、他の職種よりもキャリアと賃金の展望が高い点などを強調している。
2011年から「ボーイズデイ」も開始されている。これは、より多くの男性の参加が求められている介護や教育(特に幼児教育)分野の職業紹介イベントに若い男性(主に小中高校生)を招待するもので、これまでに約10万人の男性がイベントに参加した。
訓練環境の違いと課題
ドイツ労働総同盟(DGB)が2014年に1万8000人のデュアル職業訓練生を対象に実施したアンケート調査によると、回答者の71.4%が自分の職業訓練に「非常に満足」または「満足」と回答しており、訓練参加者の満足度は高い。ただし、満足度の割合は年々減少傾向にあり(前年比1.4ポイント減)、2009年時の満足度は75.5%であった。
また、職業訓練の処遇について見てみると、職種によってかなり違いがある。製造業や銀行の訓練生は実習3年目で平均して月900ユーロ超の訓練手当を得ていたが、理容師の訓練生は同3年目で平均手当は、月525ユーロとなっていた。
超過勤務については、調理師とホテルの訓練生の6割強が、定期的な時間外労働をしていた。DGBによると、未成年の労働時間の法定上限は週40時間であるが、未成年の回答者のうち13%が週40時間を超えて勤務していた。さらに回答者の5%が職業理論を学ぶ座学時間分を、頻繁に実習先の企業内で残業しなければならないと回答しており、DGBは座学時間も職業訓練時間としてカウントするよう法律で明文化すべきだと要求している。
ミスマッチ —8万の空席と2万の進路未定
ドイツ商工会議所(DIHK)によると、2013年時点で、関連の職業訓練ポストは約8万人分が空席のままであった。学卒者の人数自体が前年より12万人減少する中で、職業訓練を希望せずに大学進学を希望する若者は増加し続けており、2013年には約51万人の若者が大学へ進学した。その人数は20年前と比較して約2倍近く増加しており(図表3)、結果として2社に1社の企業が職業ポストを埋められずに苦慮している。こうした企業は、大学中退者や短時間労働でしか職業訓練を受講できない若年層など、新たな応募者層も開拓して対応しようとしている。
しかし、空席がある一方で、連邦雇用エージェンシー(BA)によると、2013年9月の時点で、職業訓練ポストを求めても進路未定となったままの若者は2万人を超えている。さらに6万3000人は、職業訓練以外の代替経路(ボランティア役務(注1)や各種学校への進学)を得たにもかかわらず、継続して職業訓練ポストを探し続けており、訓練をめぐる若者と企業のミスマッチが起きている。
図表3:職業訓練と高等教育の受講者数の推移 (1994~2013年)
注:欧州29カ国の教育相によって採択された1999年のボローニャ宣言以降、高等教育への進学が増加。
出所:職業教育訓練研究機構(BIBB)
企業が求める社会的能力
ミスマッチには様々な要因が考えられるが、DIHKは「企業の要求と職業訓練生が保有する社会的能力の乖離が益々大きくなっているのが主な要因」としている。
企業側としては、訓練ポストの空きを埋めるのは誰でも良いというわけではなく、訓練生に求める知識、技能、意識を有した若者が見つからないのが現状のようである。
若者の「知識や技能」が不足している場合には、多くの場合、企業での補習等によって補うことができるが、「規律、忍耐力、労働意欲」といった意識面が不足している場合には、企業実習でこれを補うことは難しいとされる。DIHKによると、訓練実施企業の54%が若者の労働意欲不足を、46%が忍耐力不足を、45%が規律不足を報告している。
なお、BAによると、締結された職業訓練契約の2割強が修了せずに途中で解消されている。その主な理由としては、選択した職業訓練が、当該訓練生のイメージと異なっていた、あるいは企業と訓練生が合わなかった等が挙げられている。
「不安定世代」の訓練生
他方で、訓練生の立場からは、訓練後の採用保障がない点や長期間にわたり薄給で多くの業務をこなさなければならない点等について不満の声が上がる。ドイツでは、こうした若者のネガティブな生活感を表す「実習世代(Generation Praktikum) 」や、「不安定世代(Generation Prekär)」という言葉も生まれている。
なお、ドイツでは1月から全国一律の法定最低賃金(8.5ユーロ/時間)が導入されたが、デュアル職業訓練生は最低賃金の適用対象外である。大学生の実習ポストは、一部適用されるものもあるが、ドイツ使用者団体連盟(DBA)が実施した昨年の調査によると、企業の2社に1社は当該ポストを今後削減すると回答している。
このような状況について、労働組合からは、訓練生や実習生を安価な労働力として利用しているのではないかという疑念の声が寄せられている。
若者の職業訓練支援策
以上、若者の職業訓練をめぐる現状を見たが、ドイツにおける職業訓練、特にデュアル職業訓練の存在感は非常に大きい。今後、少子高齢化による人材不足が懸念される中で、若者の職種選択や職業訓練の在り方は重要性を増しており、政府は様々な取り組みを行っている。
例えば連邦雇用エージェンシー(BA)と連邦労働社会省(BMAS)が共同で行っている「(職業訓練)教育はものになる(AusBILDUNG wird was)(注2)」というプロジェクトは、2013年から2015年までに「デュアル職業訓練資格を持たない若者」に対して、資格の取得に向けた職業訓練の開始を促す大規模なキャンペーンを実施している。
また、政労使の三者は、2014年12月に「職業訓練協定(Ausbildungspakt)」を締結し、「2015年は前年比約2万人分増の職業訓練ポストを若者に提供する」等の様々な取り決めを交わしている
注
- ドイツでは、若者が社会福祉施設等で行う社会奉仕(ボランティア)活動を助成する制度が法律(Jugendfreiwilligendienstegesetz)で定められている。同法律で助成される原則一年間の社会奉仕活動を「ボランティア役務(Freiwilligendienst)」と呼ぶ。(本文へ)
- 「AusBILDUNG wird was」は、"Aus Bildung wird was(教育はものになる)"と、Ausbildung(職業訓練)が掛詞のようになっている。(本文へ)
参考資料
- BMAS(12.12.2014) Allianz für Aus- und Weiterbildung, Frankfurter Allgemeine(04.09.2014、21.08.2014、05.09.2014), European Observatory of Working Life(16 December 2014) Germany: Occupational choices of youths remain unchanged.
関連資料
- 資料シリーズNo.57(2009)『欧米諸国における公共職業訓練制度と実態 —仏・独・英・米4カ国比較調査—』労働政策研究・研修機構
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=130.81円(2015年4月6日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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