所得分配制度の改革に向けた取り組み

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年4月

政府は近年、低所得層の収入増加、中所得層の拡大、富裕層の収入抑制などの所得分配制度改革に力を注いでいる。2013年に「所得分配制度の改革の深化に関する若干の意見」を発表し、2020年までに都市部と農村部の個人所得を倍増させる目標を掲げた。所得分配の格差縮小、所得分配秩序の改善および所得分配構造の合理化を目指している。

所得格差縮小のための政策

政府は、所得格差を縮小させるため、いくつかの政策を実施している。

第1は、低所得層の収入増加に向けた政策である。政府は2011年、「就職の促進に関する計画(2011~2015)」を発表し、2015年までの5年間の最低賃金の年平均上昇率を13%以上にするとともに、各地域の最低賃金水準を当該地域の都市部従業員の平均賃金の40%以上に引き上げる目標を掲げた。人力資源・社会保障部の統計によると、最低賃金の上昇率は、2011年22%、2012年20.2%、2013年17%、2014年14.2%であった。また、各地域が発表した統計データによると、各地域の都市部従業員の平均賃金に占める最低賃金の割合は、持続的な上昇傾向が見られる(図1)。

図1:北京、上海、深圳、天津市の暦年最低賃金と平均賃金水準 
(単位=元/一人当たり月、%)

図1:中国4市の暦年最低賃金と平均賃金水準を表したもの

資料出所:各市の人力資源・社会保障局の発表資料から作成

注:①平均賃金は、当該地域の都市部従業員の平均賃金
②各市の2014年度の平均賃金は推測値

国務院は2014年2月、所得格差の1つの原因となっている戸籍制度に関し、『統合した都市・農村住民基本年金制度を建設することに関する国務院の意見』を発表した。この意見には、都市部と農村部の住民基本年金を統合した後の適用範囲や財源、基金運用等に関する詳細な内容が含まれている。さらに、同年2月24日、住民年金と都市従業員年金との相互切り替えを円滑にするための法規制として、『都市・農村間の年金制度の移動暫定方法』を公表した。その他、同年2月末に「社会救助暫定方法」を発表した。暫定方法は、これまでいくつもの分野に分かれていた社会扶助に関わる制度を1つの規則に統合し、最低生活保障、特別困難者扶助、自然災害扶助、医療扶助、教育扶助、住宅扶助、就職扶助、臨時扶助の各種社会扶助制度について規定している。

第2は、中所得層の拡大に向けた政策である。政府は、2015年まで10年続けて民間企業の定年退職者の公的年金給付額を毎年約10%引き上げ、2014年には1人月額2070元に到達させた(図2)。一方、公務員や政府系事業組織従業員と民間企業従業員の所得格差を縮小させるため、国務院は2014年5月15日に「事業単位(政府系事業組織)人事管理条例」を発表し、政府系事業組織と民間企業で異なる年金制度を一元化する方針を示した。

図2:民間企業の定年退職者の公的年金の平均給付額の推移 
(単位=元/1人月額)

図2:民間企業の定年退職者の公的年金の平均給付額の推移を表したもの

出所:中国統計局の発表資料から作成

第3は、富裕層の収入抑制に向けた政策である。「中国住民所得分配年度報告(2013)」によると、中国の高所得層は現在、主に独占・寡占業界や国有企業に集中している。一部の業界や企業、特に独占業界の大手国有企業では、隠れた手厚い福利厚生や所得以外の「グレー所得」が存在し、従業員の所得、特に管理職層の所得は民間企業よりも遙かに高い。それを抑制するため、「中央管理企業責任者の給与制度改革方案」を2015年1月から施行し、中央管理企業の主要責任者の給与制度の調整や給与情報公開制度の確立をめざしている。

格差は縮小、乏しい実感

中国統計局が2015年1月に発表した所得分配に関するデータによると、2014年の全国住民の1人あたり可処分所得の増加率はGDP成長率(7.4%)を上回った。2014年の全国住民の1人あたり可処分所得は2万167元で前年比名目増加率は10.1%、物価変動の影響を除いた実質増加率は8.0%であった。そのうち、都市部住民の1人あたりの可処分所得は2万8844元で前年比名目増加率は9.0%、実質増加率は6.8%であった。農村住民の1人あたりの純所得は9892元で前年比名目増加率は11.2%、実質増加率は9.2%であった。1985年以降、農村部の年間1人あたり純所得と都市部の年間1人あたり可処分所得の格差が拡大し続け、2007年にはピークの3.33倍をとなった。2011年以降、格差の拡大を抑えるための政策が実施され、格差は縮小傾向を示している(図3)。2014年の全国住民所得のジニ係数は0.469で、2003年以来の最低値を記録した(図4)。

図3:都市部と農村部の所得と所得格差の推移
図3:都市部と農村部の所得と所得格差の推移を表したもの

出所:「中国統計年鑑」中国統計局の発表より作成

図4:ジニ係数の推移出所
図4:ジニ係数の推移を表したもの

出所:中国統計局の発表資料から作成

ここ数年来、低所得者の所得増加が加速しており、所得格差の縮小が数字にも表れている。しかし、実際に生活水準が上がったと実感している人は少なく、むしろ生活水準が下がったと感じている人も多い。その原因として、住宅価格や医療費などの継続的な上昇が住民所得の増加分を上回っていることが挙げられる。地価や住宅価格、医療費の上昇は、その受益者が地方政府、不動産業者、医療機関などのわずかな階層に限られ、中所得のサラリーマン層や新都市住民層にとっては経済的重圧となっている。

中国社会科学院の地域経済専門家は、ジニ係数の低下は所得格差の縮小傾向を示しているが、その変化は十分でなく、中国経済の所得分配には未だ大きな改善の余地があると指摘している。

中国政府は、所得分配制度の改善を慎重に進めている。人力資源・社会保障部は今後、賃金の範囲、基準、手続等を具体的に示した「同一労働同一賃金に関する規定」、賃金交渉制度の執行等の労働者権益の保護に関する条項を明確に規定した「賃金支払条例」、賃金の集団協議制度について規定した「賃金集団協議条例」を公表する予定としている。

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