平均約15億4千万円のCEO手当は市場価値に連動せず
―経済政策研究所

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2014年7月

アメリカ企業の最高責任者(CEO)の手当額は1990年代から急上昇を続けている。2013年には、上位350社平均で約15億4千万円(1520万ドル)に達した。一般労働者との差は295.9倍にのぼる。

経済政策研究所(Economic Policy Institute)は、CEOの手当額が、いつ、どのように伸びてきたのかについて分析し、CEOの市場価値とは無関係に上昇していることを明らかにした。

その結論から、近年のCEOの手当額の伸びは非合理的であり、だからこそ課税を強化するなどの規制を加えても企業の生産性を損ねることはないとして、一般従業員との格差を解消する政策を提案している。

1990年代からCEOの手当額が急伸

CEOに与えられる手当とは、年俸と業績連動給のほか、自社株購入権(ストック・オプション)と株価連動給がある。つまり、企業業績と株価に連動した部分がある。

アメリカの上位350社のCEOの手当額の平均は、2013年に1520万ドルだった。一般労働者の賃金との比較では295.9倍に達する。この差は2000年に383.4倍となり、史上最高を記録していた。2008年のリーマン・ショック以降はCEOの手当額が大きく下降したが、2010年から再び上昇に転じていた。

一般労働者の賃金に対するCEOの手当額の差は昔から大きかったわけではない。1978年に29.9倍を記録したが、それ以前は20倍程度だった。

1989年は58.7倍で、1995年には122.6倍だったから、そこからわずか5年ほどしか経っていない2000年に400倍に近くなるほどCEOの手当額が急増した。

一般労働者に対して、CEOの手当額が大きく開いたのは20年ほど前の1990年代からであり、それ以前も差があったものの、現在ほど極端なものではなかった。

株価との連動がないCEO手当額の上昇

CEO手当額の伸びについて、「ストック・オプションや株価連動給が急増したからではないか」との指摘があるかもしれない。CEOの手当にはそうした部分が含まれているからだ。

しかし、実際には、株価とCEOの手当額は連動していない。

たとえば、1965年から1978年までで、株価の指標をあらわすスタンダードアンドプアーズ(S&P)500社、ダウ平均は50%程度低下していたが、CEOの手当額は78.7%の増額となり、株価とは反対の傾向を示していた。

同じく、1978年から2013年には、S&P500が422%、ダウ平均は458%上昇したが、CEOの手当額は937%と株価をはるかに上回る伸びを示した。同じ時期に、一般的な労働者の賃金は10.2%ほどしか上昇していない。

手当額の差は開いていない―ケイトー研究所

経済政策研究所は、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)とも関係の深いリベラル系の研究所である。今回の報告は、新自由主義を標榜するケイトー研究所の結論を否定するという意味ももっている。

ケイトー研究所はシカゴ大学カプラン教授によるCEO手当に関する報告を2012年に発表していた。

カプラン教授は、「21世紀の資本論」を著したトマ・ピケティらによる論文を引用し、1989年から2012年のCEOの手当額は上位0.1%の従業員の世帯収入の0.72倍であり、差が縮まっているとしていた。この結果から、CEO手当額は市場価値と連動しない実質的な(中世領主の)地代のようなものだと結論づけたのである。

ケイトー研究所の結論を否定

カプラン教授が上位0.1%の従業員の世帯収入を用いたのに対して、経済政策研究所は賃金を比較対象とした。世帯収入は、不動産や株式などの賃金以外の部分を含むために正確さを欠くことが理由だった。

CEOの手当と上位0.1%の従業員の賃金は、1989年には2.68倍だった。その差は、2012年には4.75倍と、ほぼ倍増している。

もし、CEOの手当の伸びが能力などの市場価値の上昇と連動したものならば、直近下位の従業員と同様の傾向を示すはずだということが経済政策研究所による報告の仮説である。

カプラン教授の使う世帯収入でみれば、直近下位の従業員と同じか、もしくは伸び率は低くなっているかのようにみえる。

賃金で比較すれば、CEOの手当の伸び率は上位0.1%の従業員を大きく上回る。

より明らかにするために、報告では高卒に対する大卒の賃金比をあげている。その差は、1989年が1.57倍、2012年が1.79倍と、大きく開いているわけではない。

これらから、CEOの手当額は能力などの市場価値と連動していないとする。

カプラン教授と結論は同じようにみえながらそこに至る道筋は異なっている。

CEOの手当額を削減することで一般従業員の手当額を引き上げる

経済政策研究所の報告は、市場価値と連動せずに、根拠なくCEOの手当額が急増しているからこそ、政策的にその額を引き下げても雇用を減らすことなく一般従業員の賃金を引き上げることが可能だとする。

具体的には、「クリントン政権期に実施した富裕層向け減税の撤廃」、「ストック・オプションやその他の業績連動給に対する控除課税の強化」、「CEO対一般従業員の手当額が一定水準を超える企業に対する法人税増額」のほか、「株主がCEO報酬の是非を判断する機会と権限の付与」といった施策を提案している。

そのうち、「CEO対一般従業員の手当額が一定水準を超える企業に対する法人税増額」については、カリフォルニア州議会で審議会中であることを報告は伝えている。

(山崎 憲)

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