働く母親・父親を取り巻く状況
―実際の保護の欠如が課題、ILOが報告

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2014年6月

ILOは5月13日、『働く母親及び父親に係わる世界の法及び実際』と題する報告書を発表した。世界185の国と地域を対象に、子を持つ労働者に付与される休暇、給付、雇用保護に関する法と実態を調査している。その結果、全体的な改善は見られたものの、依然として妊娠や出産関連の差別が世界中で残っていることが分かった。ILOは更なる改善に向けて、対象労働者への実効的な保護や支援策に取り組むよう各国政府に要請している。

課題は「実際の保護の欠如」

報告書『働く母親及び父親に係わる世界の法及び実際(Maternity and paternity at work: Law and practice across the world)』は、5月15日の国際家族デーに合わせて発表された。

ILOには、労働者に対する妊娠・出産時の保護と差別防止を目的とした母性保護に関する3本の条約(注1)があり、産前産後休暇、その間の金銭的給付、解雇されない権利などを規定している。

調査によると、多くの国が3本の条約のうちいずれか1本を批准していたが、未だに世界の約8億3000万人以上の女性労働者が適切な保護を受けておらず、さらに全ての国で母性差別が実態として残っていることが明らかになった。

報告書を執筆したローラ・アダチ母性保護/仕事・家族問題専門官は記者発表の中で、「世界中の国が母性保護の促進や、仕事と家庭の両立に関する政策を策定しているが、調査から見出された最大の課題は『実際の保護の欠如』だった」と述べ、各国政府に対して法制度と現実のギャップを再認識した上で実効的な保護や支援に取り組むよう求めた。

働く父親に対する支援の拡大

報告によると、現在、多くの国が働く母親のみならず、働く父親に対する支援にも取り組んでいる。1994年には当時調査可能な141カ国のうち40カ国のみだった父親休暇(Paternity leave)(注2)が、2013年の調査では167カ国中78カ国になり、うち70カ国は有給だった。制度内容について見ると、例えばフランスの父親休暇は3日から11日に期間が拡大し、オーストラリアは7日の無休が14日の有給になるなど、20年前と比較して様々な改善が見られた(表)。

表:各国の法定父親休暇・両親休暇(1994年、2013年)<抜粋>
  父親休暇
(Paternity leave)
両親休暇
(Parental leave)
1994年 2013年 1994年 2013年
日本 52週
(給付なし)
52週だが、両親とも取得すれば14カ月まで延長可能(従前賃金の50%)
フランス 3日
(従前賃金の100%)
11労働日
(従前賃金の100%)
156週
(定額給付)
156週
(定額給付、世帯単位)
スウェーデン 10日
(定額給付)
10日
(従前賃金の80%)
両親とも取得すれば75週(450日)(当初5週間は従前賃金の90%、残りは80%給付) 両親とも取得すれば80週(480日)(390日は従前賃金の80%、90日は定額)
オーストラリア 7日
(給付なし)
14日
(最低賃金)
52週
(18週は最低賃金)
  • 出所:ILO(2013)Maternity and Paternity at work.
  • 注:現行制度と異なる可能性あり。例えば日本の両親休暇は「従前賃金の上限50%」から「育児休業開始後180日目までは従前賃金の上限67%、その後は上限50%」へと、2014年4月1日より給付率が改善された(筆者)。

夜勤免除や育児時間など日本の制度も紹介

日本については、労働基準法や育児・介護休業法によって妊娠中や育児中の労働者に対する夜勤免除が保障されていることや、1歳未満の子を持つ労働者に対して1日計1時間の育児時間が法律で保障されていることなどが報告書で紹介された。

今後に向けた政策提言

ILOの報告書は、今後の展望として以下のような政策を提案している;
  • 必要とする全ての労働者が母性保護や仕事と家庭の調和を得られるようにすること。
  • 出産前後に必要不可欠な母体の健康・安全の確保と、基盤的な社会保障の一部として所得を保障すること。
  • 家庭責任を有する男女労働者に対する差別を防止・撤廃すること。
  • 社会保険や公的資金を通じた基金などを活用して、母性保護に関する使用者の負担を軽減すること。
  • 柔軟な働き方の取り決めなど、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)のための選択肢を全ての従業員に拡大させ、もって支援的な職場環境・文化を醸成すること。
  • 男女の平等な家庭責任負担を可能にすること。

以上を示した上で、調査を統括したILOジェンダー・平等・多様性部のショウナ・オルネイ部長は、「男女平等が達成されるには、まず母性保護が重要であり、家庭内で平等が達成されなければ、職場でそれを得るのは困難だ」と述べ、その観点からの父親給付の促進や保育の整備、家庭と仕事を調和させるための政策的取り組みの重要性を強調した。

参考資料

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