移民への警戒感の高まり
―人種差別に関する報告書を政府が発表

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2014年5月

人権諮問委員会(CNCDH)(注1)は4月1日、人種差別・ユダヤ人排斥主義・排外主義の対策に関する報告書を政府に提出した。移民が社会の不安要因と考える国民の割合は調査が始まって以来、最高になるなど移民を忌避する傾向が明らかになった。また、ロマ人やムスリムに対する人種差別の風潮が国内で高まっていることを警告している。

「移民が多すぎる」7割強

人権諮問委員会が行った世論調査に基づく『人種差別、外国人排斥およびユダヤとの闘い』と題する報告書が公表された。この調査は、フランスの居住する18歳以上の1026人を対象として、2013年12月2日から12日の間に実施された。同報告書によると「移民」を経済や社会の不安要因として挙げた人が全体の16%に上り、前回調査から6ポイントの大幅上昇となった。2002年にこの調査が始まって以来で最高となった。また、「フランスには移民が多すぎる」と回答した人は全体の74%に上る。この割合は年々上昇しており、2009年と比較して27ポイント上昇したことになる(図表1)。「移民は過去10年間の間に増加している」という認識を示したのが76%で、この数値は2012年から1ポイント、2011年から7ポイント増加している。さらに、「移民は社会的保護を受けるためだけにフランスへ来る」と回答したのが77%で、2012年から4ポイント上昇している(報告書34ページ参照)。

図表1:「移民が多すぎる」との回答者割合

図1

  • 出所:同報告書33ページの記述に基づき作成

滞在ビザ発給数の増加、「家族移動」の入国の多さ

だが、実際の移民の割合に大きな変化は見られない。国立統計経済研究所(INSEE)の統計数値によれば、移民の割合は8.1%から8.5%で推移しており、外国人は5.8%程度、人数では移民が500万人強、外国人が370万人前後でほとんど変化していない(図表2)(注2)。なお、この調査の実施にあたって、回答者の居住地における実際の外国人の人口密度は、回答に影響が出ない程度の無作為性は確保されている。このことから、フランス国民の意識の中で移民や外国人に対する寛容の度合いが低下している傾向が窺い知れる。

図表2:外国人・移民の数及び割合

図2

  • 出所:INSEE資料より作成

ただ、人口に占める移民や外国人に変化は見られないが、2013年までの数値が公表されている国籍取得者数と外国人へのビザ発給数、入国理由別人数、それぞれの推移を見てみると、違った一面が見えてくる。国籍取得者数は、2013年には5万2207人で、9万4573人であった2010年からは減っている。その一方で滞在ビザ発給数は2013年には251万4994人で、2009年以降、増加傾向にある(図表3)。また、入国理由別の人数を見ると、就労を前提としない「家族移動」(これはフランス人の家族、婚姻のための入国及びフランスに滞在する外国人の家族再統合を意味する)の入国者数が、就業を目的とする「経済的移動」の人数を著しく上回る(図表4)。 外国人受入れよる国内経済への貢献が低いとされる「家族移動」が多いという傾向は過去数十年続いており、このことが「社会的保護」だけを求めて移民は入国してくるという国民意識を反映しているともとれる。

図表3:ビザ発給数と国籍取得者数(単位:人)

図3

  • 出所:内務省発表資料より作成

図表4:入国理由別人数(単位:人)

図4

  • 出所:内務省発表資料より作成

不法滞在者の正規化の増加

また、不法滞在者の正規化に関する統計では、2012年と2013年の比較がされ、2012年11月28日に発行された通達(注3)の影響という観点から数値がまとめられている。2013年には3万5204人に上り、前年の2万3294人と比較して1.5倍になっている。正規滞在資格付与についてはこれ以外に「病気を理由とする滞在許可」として6006人などが確認できる。バルス首相の内相時代に施行されたこの通達は、不法滞在者の正規化の条件を定めたものであるが、各種報道によれば、バルス内相(当時)は一般的にはタカ派と目されている一方で、移民に対して寛容な政策を実施した一面を見せていると指摘する。

ロマ人への差別意識、ムスリム排斥意識の高まり

人種差別報告書にはロマ人(注4)への差別意識の高まりも指摘されている。2002年から2004年までの間は、「ロマ人がフランスの人種差別の主な犠牲者である」と考える回答者の割合は1~3%程度であったが、2010年には10%、2013年には19%へと急激に上昇している(同報告書207ページ参照)。

「ユダヤ人排斥」「外国人排斥」「ムスリム排斥」という分類で差別的行為を認識しているかどうかという点について、前2者も増加傾向があるが、「ムスリム排斥」については2010年以降に顕著な増加傾向が見られる(同報告書98ページ参照)。

参考資料

  1. La lutte contre le racisme, l'antisémitisme et la xénophobie, Année 2013リンク先を新しいウィンドウでひらく
  2. INSEE発表資料:
    • Enquêtes annuelles de recensement 2004 et 2005
    • Populations étrangère et immigrée en 2006
    • Structure par âge et sexe de la population étrangére ou immigrée en 2008
    • Population étrangère et immigrée par sexe et âge en 2010
  3. INSEE(国立統計経済研究所)資料参照
  4. 内務省発表資料: Communiqué de presse : La diffusion régulière des informations statistiques annuelles de l’immigration, de l’intégration et de l’asileリンク先を新しいウィンドウでひらく

参考レート

(ホームページ最終閲覧:2014年5月14日)

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