大法院判決、定期賞与は通常賃金に相当
―遡及請求は認めず

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2014年2月

韓国では、時間外労働手当や退職金の算定基礎となる通常賃金の範囲をめぐって数多くの裁判が提起されている。大法院(最高裁)の全員合議体は2013年12月18日、「労働の対価として定期的・一律的・固定的に支給される定期賞与は通常賃金に当たるが、休暇費や帰省費、勤務実績に応じて支給する賞与などは該当しない」という判決を下した。ただし、賃金債権の消滅期限である3年間の遡及賃金請求は、企業に重大な経営上の困難をもたらす場合、信義誠実の原則に基づき認められないと判示した。

韓国の賃金体系と通常賃金の範囲

韓国の賃金体系は、基本給の割合が非常に低く、各種手当や賞与の割合が高い。これは、賃金上昇率を低く抑えるために基本給の引き上げをできるだけ抑制し、その代わりに各種手当や賞与を拡大してきたことによる。

通常賃金は、基本給と各種手当で構成されており、変動性の賃金(手当)は除外される。通常賃金は、時間外・休日労働手当や退職金を計算するための基準となる。企業は、勤労基準法に基づき、時間外・深夜・休日労働に対し通常賃金の50%以上を加算支給しなければならない。

通常賃金の定義に関しては、勤労基準法に何も規定がなく、勤労基準法施行令に規定されている。特に、各種手当を通常賃金に含むかどうかの具体的な判断基準は、雇用労働部例規の「通常賃金算定ガイドライン」に定められている。ガイドラインは、家族手当、食事代などの各種手当や定期賞与は通常賃金には含まれないと規定している。労使はこの行政規則とガイドラインに基づき、通常賃金から各種手当や定期賞与を除外する慣行を続けてきたが、近年は通常賃金の範囲をめぐって数多くの裁判が提起されている。大法院は通常賃金の認定範囲を順次拡大してきた(表1)が、雇用労働部は判例に合わせて行政規則を改正してこなかった。

表1:大法院判決における通常賃金の認定範囲
1990年2月 通常賃金は、定期的・一律的にすべての労働者に支給される固定給
1994年5月 子供がいる労働者に支給される育児手当も通常賃金
1996年2月 祝日や夏季休暇の費用のように年単位で支給される金品も通常賃金。食事代、体力鍛錬などの福利厚生費も通常賃金
2012年3月 月単位ではない四半期単位の定期賞与も通常賃金

定期・一律・固定的に支給される定期賞与は通常賃金

今回の判決は、自動車部品メーカーである甲乙オートテックの労働者および退職者296人が、賞与や休暇費も通常賃金に含まれると主張し、会社側を相手に提訴した裁判の確定判決である。

大法院は通常賃金の範囲について、1カ月を超える一定期間ごとに支給される「定期性」、同条件を満たしたすべての労働者に一定の基準に基づいて支給される「一律性」、事前に支給することを確定する必要がある「固定性」の3つの要件をすべて満たす必要があると判示した。この基準に基づいて定期賞与はもちろん、勤続手当、技術手当やすべての従業員に一括支給される賞与金(ボーナス)も通常賃金に含まれるが、休暇費、帰省費や勤務実績に応じて支給する賞与金などは通常賃金とは認められないと具体的な事例を挙げて説明した(表2)。

大法院は、「労使が過去に定期賞与金などを通常賃金の算定から除外することに合意した場合であっても、これは勤労基準法に違反するため無効である」と判断した。

表2:大法院の通常賃金の認定判断
賃金名目 賃金の特徴 通常賃金の認定判断
賞与金 定期賞与金。  
企業業績に応じて支給される経営成果分配金・奨励金・インセンティブ × 事前に決まっていない
成果給 勤務実績に応じて支給判断、または支給額が決定される賃金 条件に左右される
最低限度が保証される成果給 最低分のみ認める
技術手当 資格手当・免許手当など  
勤続手当 勤続期間に応じて支給判断、または支給額が変わる賃金  
家族手当 扶養家族の数に応じて違う家族手当 × 労働とは無関係
扶養家族数に関係なく、すべての労働者に支給される家族手当 名目だけの家族手当
特定の時点に在籍者のみ支給される金品 祝日帰郷費・有給休暇など × 労働の対価ではない
退職時、勤務日数に比例して支給される金品  

出所:連合NEWS(2013年12月18日付)

遡及賃金請求は信義則違反の場合も

賃金債権の消滅期限は3年間である。通常賃金の範囲の拡大に伴い、時間外・休日労働手当などの未払い分を労働者が遡って請求することが予想される。大法院は「3年分の遡及賃金を支給するのが原則」としながらも、「労使が信頼して定期賞与を通常賃金から除外することに合意した場合に、労働者の追加賃金請求によって予想外の過度な財政的負担を負う企業に重大な経営上の困難がもたらされることは、正義と公平に合わない。このような場合は労働者の追加賃金請求が信義誠実の原則(信義則)に違反するため許容することができない」と判示した。本判決の事案は、これに該当するかどうかの審理が不十分であるとして原審を破棄し、差し戻しを命じた。このため、定期賞与金を通常賃金の範囲に遡及適用し、さらに追加賃金を請求することができるかどうかについては判断基準があいまいなうえ、会社ごとに事情が異なるため、今後も議論の余地を残している。

通常賃金の範囲の拡大により賃金が20~30%上昇

大法院の判決により労働者の賃金は、賃金水準を引き上げなくても現在よりも20~ 30%ほど上がる見通しである(表3)。労使政委員会が今年6月に調査した資料によると、中小企業の生産労働者Aさん(勤続3年目)の今年の年俸は4264万ウォンであるが、来年は時間外労働手当、深夜労働手当、休日労働手当や年次手当を含め、今年より611万6000ウォン高い4875万6000ウォンになる。また、退職金も128万7000ウォン増える(表4)。

大企業の生産労働者Bさん(勤続3年目)の今年の年俸は6287万5000ウォンであるが、来年は1620万ウォン高い7907万5000ウォンに膨れ上がる。退職金も339万6000ウォン増えて、合計1959万7000ウォンを受給できる。

大企業と中小企業の労働者の間で、このように大きな格差が生じるのは中小企業の労働者の賃金が少ないうえに賞与の割合が低いことによる。Aさんの基本給に対する賞与の割合は480%であるが、Bさんは1050%に達する。通常賃金の範囲の拡大により大企業と中小企業、正規労働者と非正規労働者の賃金格差がさらに拡大すると予想される。

表3:大法院判決に伴う休日労働・時間外労働手当の変化
  判決前 判決後
(賞与金含む)
通常賃金 1,706,000ウォン 2,229,800ウォン
時間当たり通常賃金(月160時間基準) 10,662ウォン 13,936ウォン
休日労働手当(毎週土曜日8時間勤務)
(時間当たり通常賃金×32時間)
341,184ウォン 445,952ウォン
時間外労働手当(平日に毎日2時間延長労働)
(時間当たり通常賃金×40時間)
426,480ウォン 557,440ウォン

注)月平均賃金総額2,977,400ウォン(100人以上事業所978社の平均)の労働者の場合、基本給1,706,000ウォン、賞与金523,800ウォン(基本給の30%水準)となる。

表4:大法院判決に伴う労働者の賃金変化
  中小企業Aさん 大企業Bさん
現在の年間受給賃金 42,640,000ウォン 62,875,000ウォン
通常賃金連動手当 時間外労働 2,219,000ウォン 5,818,000ウォン
深夜労働 835,000ウォン 3,094,000ウォン
休日労働 1,558,000ウォン 3,674,000ウォン
年次手当 534,000ウォン 999,000ウォン
間接労働費用 退職金 429,000ウォン 1,132,000ウォン
社会保険 537,000ウォン 1,472,000ウォン
1年分の増加額  (小計) 6,116,000ウォン 16,200,000ウォン
退職給与引当金 1,287,000ウォン 3,396,000ウォン

出所:中央日報(2013年12月19日付)

判決に対する労使の反応

韓国経営者総協会(韓国経総)は、「これまで労使が合意や慣行に基づき決めてきた通常賃金の算定範囲を大法院が認め、過去3年の遡及分の追加支払い義務がないと判断したことは幸いだ」と論評した。大韓商工会議所は、「大法院が判決理由とした信義則に基づき、労働側は、これまで労使当事者が合意し決定してきた賃金を尊重し、消耗論争や法的争いを中断しなければならない」と述べた。

全国民主労働組合総連盟(民主労総)は「信義則を適用する一般的要件を満たしているにもかかわらず、信義則違反を理由に労働組合の要求を破棄・差し戻ししたのは勤労基準法の強行規定に反する非常に不当な判決である」と強調した。韓国労働組合総連盟(韓国労総)も、「定期賞与などを通常賃金の算定から除外する労使合意が勤労基準法に違反し無効であるにもかかわらず、追加賃金請求が信義則に基づき許可されないのは財界の立場を反映した政治的判決である」と遺憾の意を表した。

大法院が遡及分を支給しなくてもよい前提条件とした「重大な経営上の困難」をどのように解釈するのかをめぐり、労使の意見が対立している。韓国労総と民主労総は「訴訟を通じてでも受給する」と述べている。韓国経総の推計によると、企業は少なくとも38兆5500億ウォン(3年の遡及分を含む)の偶発債務を抱えることになる。その上、毎年8兆8663億ウォンを追加で負担し、さらに、4兆8846億ウォンの退職金も支給しなければならない。

賃金総額に占める基本給の割合が57%に過ぎず、様々な手当が数十種類もある複雑な現行賃金体系は、今後、基本給中心の単純な体系に置き換えていく必要があるとみられる。企業は、通常賃金の拡大に伴う負担を軽減するため、年俸制や成果給制を積極的に導入すると予想される。労働組合がこれに反発して労使紛争に発展する可能性があり、労使政の積極的な議論を通じたより良い解決策が求められている。

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