最低賃金、7月までに20地域で引き上げ

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  • 国別労働トピック:2013年9月

最低賃金は2013年の場合、7月までに20地域(省・自治区・直轄市)で引き上げられ、平均上昇率は18%を記録している。ここ数年各地域で高い上昇が続いており、その背景には、広がる労働者の不満、労働力不足といった事情が存在している。最低賃金の大幅な引き上げは、中小企業の経営悪化の一因となっていると懸念する声の一方で、産業構造の高度化を促すとの見方も出ている。

目標は15年までに平均賃金の40%以上

労働社会保障部(現在の人的資源社会保障部)は2004年3月に「最低賃金規定」を制定している。同規定は、最低賃金を少なくとも2年毎に一度調整することを求めている(第10条)。

人的資源社会保障部が2011年に発表した「人的資源社会保障事業発展第12次五ヵ年計画要綱に関する通知」では、各地の最低賃金を年平均で13%以上引き上げ、多くの地域で最低賃金水準を当地の都市労働者平均賃金の40%以上とすることが、2015年までの目標として掲げられた。国務院が2013年2月に発表した「所得分配制度改革の深化に関する若干の意見」でも、「2015年までに最低賃金を当該地域の平均賃金の4割の水準にまで引き上げる」との数値目標が掲げられた。なお表1のように、沿海部の発達地域である北京・上海・天津・広東の最低賃金は、当該地域の平均賃金に対してそれぞれ26.8%、34.5%、38.7%、29.7%であり、いずれも40%を下回っている。各地の最低賃金はここ数年大幅に上昇している。2011年に最低賃金の見直しを行った地域は24で、平均上昇率は22%だった。2012年は25の地域が最低賃金を引き上げ、平均上昇率は20.2%だった。2013年は7月までに20の地域が引き上げ、平均上昇率は18%である。

表1:2013年の各地域の最低賃金引き上げ状況
地域 最低賃金額
(2012年)
(元/月)
最低賃金額
変更後
(元/月)
上昇率
(%)
引き上げ実施日 平均賃金
(2012年)
(元/月)
割合注3
(%)
上海 1450 1620 12% 2013年4月1日 4692 34.5%
広東 1300注1 1550 19% 2013年5月1日 5215 29.7%
新疆 1340 1520 13% 2013年6月1日 3588 42.4%
天津 1160 1500 29% 2013年4月1日 3872 38.7%
江蘇 1320 1480 10% 2013年7月1日 3832 38.6%
浙江 1310注1 1470 12% 2013年1月1日 3340 44.0%
北京 1260 1400 11% 2013年1月1日 5223 26.8%
山東 1240 1380 11% 2013年3月1日 3455 39.9%
遼寧 1100注1 1300 18% 2013年7月1日 3488 37.2%
寧夏 1100 1300 12% 2013年5月1日 3295 33.4%
山西 1125 1290 15% 2013年4月1日 3833注2 36.1%
安徽 1010 1260 25% 2013年7月1日 3716 27.2%
雲南 1100 1265 15% 2013年5月1日 3242 39.0%
河南 1080注1 1240 15% 2013年1月1日 3295 37.6%
江西 870 1230 41% 2013年4月1日 3304 37.2%
広西 1000 1200 20% 2013年2月7日 3081 38.9%
甘肅 980 1200 22% 2013年4月1日 3203 37.5%
四川 1050 1200 14% 2013年7月1日 3593 33.4%
陜西 1000 1150 15% 2013年4月1日 3694 31.1%
貴州 930注1 1030 11% 2013年4月1日 3644 28.3%

出所:各省(自治区・直轄市)等

  • 注1:河南省・遼寧省・浙江省・広東省・貴州省は2012年に最低賃金を引き上げ行っていないため、2011年のデータを掲載
  • 注2:山西省は省公表の2012年平均賃金のデータがないため、民間のデータを使用
  • 注3:割合(%)= 最低賃金額(2013年)/平均賃金(2012年)
  • 注4:最低賃金に社会保険料・住宅積立金を含むか否かは地域により異なる

労働者の不満、労働力不足が背景に

製造業のハブとも言える東部の沿海地域では人手不足が続いているが、最近はこれが中部や西部にも広がりつつある。背景には、内陸部での経済成長による労働需要の拡大に加え、農村地域で人口の伸びの鈍化がある。また、出身地の近くで仕事を探そうとする労働者が増えていることも労働力の供給に影響している。広東省人的資源社会保障庁は「広東省は就業における吸引力を強化することで、金融危機の影響で地方へ分散してしまった労働力を呼び戻すことができる」との見解を示している。 広東省はそのために、最低賃金の引き上げ、就業環境の改善、ポイント制での戸籍付与などに取り組んでいる。

最低賃金は各地域が当地の経済情勢などを踏まえて決める。中国では持続的な経済成長が続いているが、貧富の格差は広がっている。格差の是正を目指すとともに物価上昇に苦しむ労働者の不満を和らげ、社会不安の拡大を防ぐことが最低賃金引き上げの主な目的であり、このところは各地で毎年のように引き上げられている。

こうした最低賃金引き上げの背景には、上記のように所得格差の是正・社会不安対策・物価高騰への対応といった要素もあるが、沿海地域の場合は労働力の供給不足という中国独特の事情に対する政策という要素もある。一方内陸部では国家レベルでの経済開発政策が進んでおり、 それに伴う労働需要が内陸部での引き上げの要素の一つとなっている。

最低賃金で生活できるか

最低賃金は大幅に上昇しているものの、「上昇幅が小さい、これでは生活できない」といった声が各地の労働者から絶えずあがっている。いったい最低賃金がいくらであれば生活できるのだろうか。表2は、各地の最低賃金と一人当たり月平均消費支出を比較したものであるが、これを見る限り最低賃金の額が十分であるとは必ずしも言い切れない。経済発展に伴い個人の消費支出は増加しているが、最低賃金はそれに追いつききれていない。ただし、2011年に比べて2012年は消費支出と最低賃金の差額は縮小している地域が多い。北京・上海・深センなどで差額が大きく、2012年の北京市では744元の差がある。

表2:各地域の都市部住民一人当たり月平均消費支出と最低賃金の比較(単位:元)
地域 項目 2011年 2012年
北京 一人当たり月平均消費支出 1832 2004
最低賃金 1160 1260
差額 672 744
上海 一人当たり月平均消費支出 2092 2187
最低賃金 1280 1450
差額 812 737
深セン 一人当たり月平均消費支出 2007 2227
最低賃金 1320 1500
差額 687 724
天津 一人当たり月平均消費支出 1535 1669
最低賃金 1160 1160
差額 375 509
浙江 一人当たり月平均消費支出 1703 1795
最低賃金 1310 1310
差額 393 485
遼寧 一人当たり月平均消費支出 1232 1383
最低賃金 1100 1100
差額 132 283
陜西 一人当たり月平均消費支出 1149 1278
最低賃金 860 1000
差額 289 278
江蘇 一人当たり月平均消費支出 1398 1569
最低賃金 1140 1320
差額 258 249
安徽 一人当たり月平均消費支出 1098 1251
最低賃金 865 1010
差額 233 241
四川 一人当たり月平均消費支出 1141 1254
最低賃金 850 1050
差額 291 204
江西 一人当たり月平均消費支出 979 1065
最低賃金 720 870
差額 259 195
広西 一人当たり月平均消費支出 1071 1187
最低賃金 820 1000
差額 251 187
貴州 一人当たり月平均消費支出 946 1049
最低賃金 930 930
差額 16 119
甘肅 一人当たり月平均消費支出 932 1071
最低賃金 760 980
差額 172 91
山東 一人当たり月平均消費支出 1213 1315
最低賃金 1100 1240
差額 113 75
寧夏 一人当たり月平均消費支出 1075 1172
最低賃金 900 1100
差額 175 72
河南 一人当たり月平均消費支出 1028 1144
最低賃金 1080 1080
差額 -52 64
雲南 一人当たり月平均消費支出 1046 1157
最低賃金 950 1100
差額 96 57
山西 一人当たり月平均消費支出 946 1018
最低賃金 948 1125
差額 -2 -107
新疆 一人当たり月平均消費支出 987 1158
最低賃金 1160 1340
差額 -173 -182
  • 出所:各省(自治区・直轄市)、統計局
  • 注1:河南省・遼寧省・浙江省・貴州省は2012年に最低賃金を引き上げていない
  • 注2:広東省は一人当たり月平均消費支出額が取得不可能のため、代わりに深セン市を掲載

中小企業に負担、消費拡大への期待も

最低賃金には時間外労働手当、休日出勤の割増金等が含まれないので、使用者側にとっての実際の雇用コストは基準額よりも大きい。賃金の引き上げは企業に人件費負担の増加をもたらす。コストを価格に転嫁することが難しい分野では、外資企業の工場の海外移転や撤退が懸念される。また、国内の中小企業の負担増加も大きな懸念だ。

統計局の発表によると、7月の製造業PMI(購買担当者指数)の速報値は50.3であった。中小企業の割合が高いHSBC発表のPMIの値は47.7で、11カ月ぶりの低水準となった。PMIは50を上回ると景気の改善を示し、下回ると景気の悪化を示す。他の要因もあるとはいえ、最低賃金の大幅上昇が中小企業経営の悪化に影響していると推測されている。

そうした中小企業経営への影響を懸念する声がある一方、最低賃金の引き上げは産業構造の高度化を促す効果を持っているとの指摘も出ている。広東省などは高い人件費に耐えられる付加価値の高い産業に進出してもらおうと考えている。さらに賃金の底上げを通じて消費の拡大も期待できるため、中国国内で内需を取り込みたい企業にとってはよいチャンスと言える。

あるエコノミストは「最低賃金の引き上げにより工場では雇用削減が行われているが、これは製造業の高付加価値への転換を促す可能性が高い。これは発展のためのよい流れだ」と述べている。

資料出所

  • 中国政府網、人民網、統計局、中国統計年鑑、中国労働、各省(自治区・直轄市)

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