雇用アウトルック2013年版を公表
―解雇保護法制指標の最新値も

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年8月

経済協力開発機構(OECD)は7月、2013年版雇用アウトルックを公表した。金融危機後の労働市場、欧州諸国の労働市場改革の状況を概説しているほか、OECDが独自に作成している解雇保護法制指標(EPL Indicator)に関して、近年の各国が実施した法改正等を踏まえた最新値を公表した。今後の日本の雇用情勢については、やや楽観的な見通しを示している。

南欧で一層の雇用悪化の恐れ

2012年第4四半期時点でのOECD平均の失業率は8%である(図表1)。これはピークだった2009年10月より0.5ポイント低いものの、2007年12月と比べると2.4ポイント高く、依然として高い状態にある。ただし、国ごとに状況は大きく異なっている。オーストリア・韓国・日本・ノルウェー・スイスの5カ国は失業率が5%以下である。一方で、ギリシャとスペインは金融危機後に大幅に失業率が上昇し、現在は25%を超えている。失業者数は4800万人に上り、金融危機前より1600万人増加している。

OECDは今後の見通しとして、2014年末までは失業率が現在と同程度の水準で推移すると予測している。各国別の見通しとしては2014年末までに、6カ国(ギリシャ・イタリア・オランダ・ポーランド・ポルトガル・スペイン)で1ポイント以上上昇し、5カ国(カナダ・エストニア・アイスランド・ニュージーランド・米国)で少なくとも0.5ポイント下落すると予測している。

図表1:各国失業率概況

>図表1:各国失業率概況(2012年第4四半期・2014年第4四半期)

  • 出所:OECD
  • 注:OECDに加盟するユーロ圏15か国の平均

OECDは2012年版雇用アウトルックで、「一部の国で構造的失業が拡大しつつあるのではないか」と懸念を示したが(参照:2012年9月記事)、今回の報告書では「ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペインで構造的失業が進んでいる可能性がある」と言及しており、構造的失業がこのまま拡大すれば、失業率を危機前の水準まで戻すことは益々困難になるとしている。

中高年減らしても、若者雇用増えず

伝統的な考え方として、中高年に対する早期退職制度の拡充は彼らの早期退職を促し、結果として空いた仕事に若年者が就くことで、若年の失業が減るという考え方がある。この考えは二つの前提に基づいている。一つ目は「雇用の量は一定」という前提である。しかし多くの経済学者はこの前提を誤謬だと考えており、雇用の量は所与のものではなく、結果として定まるものだとしている。二つ目は、中高年と若年の雇用の関係は「補完的」ではなく「代替的」だという前提である。しかし実際には、多くの中高年は職業経験が豊富で、いわゆる「斜陽産業」に従事する傾向がある。一方で若年者は職業経験が少なく、かつ「成長産業」に従事する傾向がある。つまり実際には、両者の関係は「補完的」である。こうした考えは多くの論文によって実証されている。OECDも、加盟国の1997-2011年のデータを基に(固定効果モデルによる)実証分析を行っているが、そこでもやはり、「中高年の雇用を削減しても、若年の雇用は促進されない」という結果を得ている。

上記の理論的前提を基に、OECDは各国に対して三つの政策を推奨している。一つ目は、中高年・若年双方の労働市場パフォーマンスを向上させるような構造的改革である。具体的には、強い雇用保護規制を享受している正規労働者と非正規労働者の間に存在する二重労働市場に対して、両者にバランスが取れた雇用保護制度を構築することである。二つ目は、積極的労働市場政策の推進である。中高年と若年はともに雇用エージェンシーからの関心が低い。これは、中高年の場合は求職から除外されており、若年者の場合は多くが失業受給要件を満たしていないためだ。こうした状況下では、中高年には求職者支援制度の拡充が復職を促すこと、また若年者には職業訓練や就労体験を提供することが、労働市場参入への足掛かりとなる。三つ目は、効果的な世代間連携を構築するような革新的な政策である。こうした政策は若年者に雇用を生み出すだけでなく、中高年の雇用維持にもつながる。上記のうち、三つ目の政策は最近の取り組み事例として、フランス・イタリア・スペインなどの政策が挙げられる。

フランスは2013年に「世代契約制度」と呼ばれる制度を導入した。この制度の目的は、高齢者から若年への知識の移動を促進しつつ、雇用も保護することである。従業員数300人未満の企業の場合、26歳未満の若年者を常用雇用としてで新規に雇用し、かつ57歳以上の高齢者の雇用を継続するか、あるいは55歳以上の高齢者を新規に採用することが制度適用の条件となる。条件に合致する企業には従業員一人当たり年間2,000ユーロの補助金が3年に渡り支給される。また従業員数50人以上300人未満の場合、前述の補助金の受給適用対象ではあるが、受給要件として高齢者・若年者間の技術伝承に関する労使協議が課せられる。労使合意に至らなかった場合は、その旨を証明する議事録を提出するとともに、協議事項についての行動計画を策定しなければならない。従業員数300人以上の場合は、補助金の支給対象外である。しかし当該の企業は労使間での高齢者・若年者間の技術伝承に関する労使交渉を行わなければならず、合意に至らなかった場合は行動計画書を提出しなければならない。

イタリアでは2007年より高齢者と若年のワークシェアリングを促進する政策を実施している。55歳を超えるフルタイム労働の高齢者をパートタイムに転換する一方で、失業中の25歳以下の若年(大学学部卒業者の場合は30歳以下)のパートタイムでの就労を促進している。

スペインでは2013-16年の計画で、世代を繋ぐ連携事業に補助金を支給している。その中でも特筆すべきは、若手起業家と中高年労働者を結ぶ取り組みである。若手起業家が長期失業中の労働者(45歳以上)に対して無期あるいは18か月以上の有期雇用契約を締結した場合に補助金が支給される。この補助金は最初の1年間に限り、社会保険料に対して100%控除される。

財政危機国で、雇用保護法制の改革

金融危機が生じた2008年以降、欧州では雇用保護法制(EPL: Employment Protection Legislation)の改革が各国で実施されている。その中でも、財政危機に直面しているポルトガル・ギリシャ・イタリアのそれは特に大幅なものである。

ポルトガルは2009、2011、2012年と短期間の間に相次いで改革を実行した。具体的には、解雇手当の減額、労働力の余剰を理由とする個別的解雇の緩和などである。

ギリシャでは2010年の制度改革および2012年の追加の調整により、解雇の予告期間や解雇手当の額が削減された。

イタリアでは2012年に大きな改革をした。裁判によって解雇が経済的理由による解雇ではないと判断された場合、つまり不当解雇とされた場合に雇用者が負う補償金を15カ月から25カ月に拡張した。その上で、労働者が職場復帰できないこともあり得ることとなった。

エストニアは2009年7月より労働法典を改正し、不当解雇における裁判所による救済の内容を大きく変更した。明らかに差別的な事例を除き、労使双方の合意および解雇手当の半額が労働者に支払われるという条件付きで、復職の可能性を作った。また個別解雇における解雇通知において要求される事項が簡素化され、その際の解雇予告期間や解雇手当の額が以前に比べて勤続年数に基づくものとなり、平均すればその期間および金額はこれまでよりも縮小されたものとなった。

スロバキアは2011年9月に労働法典を改正し、整理解雇における予告期間と解雇手当を削減したほか、政府機関との協議義務を免除した。整理解雇における予告期間は90日から30日に、その最少人員は20人から10人に削減された(ただし2013年1月より一部修正され、解雇手当が部分的に再導入されたほか、整理解雇での予告期間をより勤続年数に基づくものとした)。

スペインは不当解雇における補償金を削減したほか、整理解雇における手続きを大幅に簡素化した。

各国の労働市場改革踏まえ、指標を更新

OECDは定期的に雇用保護法制指標の改訂、および各国における各項目値の改定をしている。1985年にVersion.1を公表し、その後改訂を重ね1998年にVersion.2、2008年に現行のVersion.3を公表した。近年欧州各国が実施した労働市場改革を踏まえ、OECDはこの指標における各国値を改定した(図表2)。数値が大きければ大きいほど規制内容が厳格であることを表している(雇用保護法制指標の詳細はJILPT『OECDにおける雇用保護法制に関する議論について(PDF:1.4MB)』およびOECDウェブサイトリンク先を新しいウィンドウでひらくを参照)。

労働市場改革を進めるギリシャ・イタリア・スペインにおいては、全ての指標で値が低下しているわけではなく、数値が上昇している項目もあり、一律に解雇規制を緩和するのではなく、硬軟織り混ざった状況となっている。

図表2:主な国の雇用保護法制指標の改定値
国名 対象 項目番号 項目 2008年公表値 改定値
フランス 常用雇用者 4 解雇手当額(勤続20年) 3 2
常用雇用者 9 解雇通知後の不当解雇としての申し立てが可能な期間 5 6
集団解雇 19 追加的な通知要件 0 3
集団解雇 20 追加的な予告期間 1 3
ドイツ 常用雇用者 4 解雇手当額(勤続4年) 2 1
常用雇用者 4 解雇手当額(勤続20年) 2 1
臨時雇用 14 派遣労働の更新回数の制限 4 2
臨時雇用 17 常用労働者と派遣労働者の同一取扱い 6 3
集団解雇 20 追加的な予告期間 3 1
集団解雇 21 その他の使用者に対するコスト 3 4.5
ギリシャ 常用雇用者 2 解雇通知に関する期間 0 1
常用雇用者 6 雇用保護法制が適用されない試用期間 5 6
常用雇用者 7 (勤務20年での)不当解雇の補償 1
臨時雇用 10 有期雇用契約の使用の有効条件 6 4
臨時雇用 11 有期雇用契約の最大連続更新回数 2 3
イタリア 常用雇用者 2 解雇通知に関する期間 0 2
常用雇用者 3 解雇通知に関する予告期間(9ヶ月勤続の者) 1 4
常用雇用者 3 解雇通知に関する予告期間(4年勤続の者) 2 3
常用雇用者 3 解雇通知に関する予告期間(20年勤続の者) 1 2
常用雇用者 5 解雇の正当性あるいは不当解雇の定義 0 4
常用雇用者 6 雇用保護法制が適用されない試用期間 6 4
常用雇用者 7 (勤務20年での)不当解雇の補償 3 4
常用雇用者 8 不当解雇の復職の可能性 4 6
臨時雇用 16 派遣事業者に対する許可および事業報告義務 4 6
集団解雇 21 その他の使用者に対するコスト 6 3
韓国 常用雇用者 1 解雇通知に関する手続き 3.5 3
常用雇用者 6 雇用保護法制が適用されない試用期間 4
臨時雇用 13 合法的な派遣事業の業務の種類 2.25 3
臨時雇用 14 派遣労働の更新回数の制限 2 4
臨時雇用 15 派遣事業契約の最長累積派遣期間 2 4
スペイン 常用雇用者 1 解雇通知に関する手続き 4 3
常用雇用者 4 解雇手当額(勤続9ヶ月) 2 1
常用雇用者 4 解雇手当額(勤続4年) 5 4
常用雇用者 4 解雇手当額(勤続20年) 5 4
常用雇用者 5 解雇の正当性あるいは不当解雇の定義 2 4
常用雇用者 6 雇用保護法制が適用されない試用期間 5 4
常用雇用者 7 (勤務20年での)不当解雇の補償 2 4
臨時雇用 15 派遣事業契約の最長累積派遣期間 6 2
集団解雇 19 追加的な通知要件 3 4.5
集団解雇 20 追加的な予告期間 2 3
アメリカ 常用雇用者 1 解雇通知に関する手続き 0 0.54
  • 出所:OECD Employment Protection Database, 2013 update; and Venn, D. (2009), “Legislation, Collective Bargaining and Enforcement:Updating the OECD Employment Protection Indicators”, OECD Social, Employment and Migration Working Papers, No. 89, OECD Publishing,
  • 注:フランスの2008年公表値は2009年の値

日本の失業率、13年4.2%、14年4.1%

今後の日本の雇用見通しについては、労働力人口の減少が2013年は前年比で変化なし、2014年は0.1ポイントの減少とOECDは予測している。また失業率は2013年が4.2%、2014年が4.1%と予測している(図表3)。

図表3:日本の雇用情勢等の概観(単位:%)
  2005-08平均 2009 2010 2011 2012 予測値
2013 2014
実質GDP成長率(前年比) 1.0 -5.5 4.7 -0.6 2 1.6 1.4
雇用増減率(前年比) 0.3 -1.5 -0.3 -0.1 -0.3 0.2 -0.1
労働力人口(前年比) 0.1 -0.4 -0.3 -0.6 -0.6 0.0 -0.1
失業率 4.1 5.0 5.0 4.6 4.3 4.2 4.1
  • 出所:OECD

また日本の雇用保護法制指標は図表4の通りである。「有期雇用契約の最大連続更新回数」や「集団解雇における追加的な通知要件」で数値が2008年公表値から上昇している一方で、「常用雇用者に対する解雇通知に関する手続き」や「有期雇用契約の使用の有効条件」では数値が低下している。

図表4:日本の雇用保護法制指標の値
対象 項目
番号
項目 2008年
公表値
改定値
常用雇用 1 解雇通知に関する手続き 3 2
8 不当解雇の復職の可能性 6 2
臨時雇用 10 有期雇用契約の使用の有効条件 1 0
11 有期雇用契約の最大連続更新回数 0 1
17 常用労働者と派遣労働者の同一取扱い 3 1.5
集団解雇 19 追加的な通知要件 3 6
20 追加的な予告期間 0 1
21 その他の使用者に対するコスト 0 3
  • 出所:OECD

  1. Gruber, J. and D.A.Wise (eds.) (2010), “Social Security Programs and Retirement around theWorld: The Relationship to Youth Employment”, University of Chicago Press, Chicago, Illinois and London.
  2. Kalwij, A., A. Kapteyn and K. de Vos (2010), “Retirement of Older Workers and Employment of the Young”, De Economist, Vol. 158, No. 4, pp. 341-359.
  3. Munnell, A. and A. YanyuanWu (2012), “Will Delayed Retirement by the Baby Boomers Lead to Higher Unemployment AmongYoungerWorkers?”,Working Paper 2012-22, Center for Retirement Research at Boston College, Boston.
  4. Vestad, O.L. (2013), “Early Retirement and Youth Employment in Norway”, Paper presented at third SEEK Conference, 25-26 April, Mannheim.

資料出所

  • OECD Employment Outlook 2013, OECD Employment Protection Database, 2013 update, Venn, D. (2009), “Legislation, Collective Bargaining and Enforcement:Updating the OECD Employment Protection Indicators”, OECD Social, Employment and Migration Working Papers, No. 89, OECD Publishing,

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