失業率、来年末まで高水準
―2012年版OECD雇用アウトルック

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2012年9月

経済協力機構(OECD)は7月、「2012年版雇用アウトルック」を公表した。OECD加盟国の平均失業率は、来年末まで引き続き高水準で推移するとの見通しを示している。さらに、アウトルックは、各国の失業構造の違いを分析しているほか、労働分配率の長期下落傾向も指摘して、その様々な要因を説明している。

構造的失業、一部の国で進展の兆侯

OECD諸国の失業率は、2012年第1四半期で7.9%(2007年第4四半期比2.3ポイントの上昇)と高い水準にあるが、2013年の第4四半期でも7.7%と依然として高い水準で推移する見通しだ。ドイツのような例外を除いては、どの国も未だ金融危機前の水準にまで戻ってはいない(図1)。金融危機以前の水準にまで回復するには、1400万人分の雇用を生み出す必要がある。

図1:各国、地域の失業率の状況

図1:2007年-2013年における各国、地域の失業率の状況

  • 出所:OECD
  • 注1:2007年第4四半期の失業率を100とした値である。
  • 注2:背景が灰色の期間の値は、OECDによる予測値。

労働市場の状況を細かく見ると、各国ごとに異なる様相を呈している。図2は2001年から2011年における、各国の欠員率と失業率の状況を示したUV曲線である。UV曲線では横軸が失業率を、縦軸が欠員率を表している。UV曲線を用いることで、失業が需要不足によるものなのか、あるいは構造的なものなのかを分析できる。通常、失業の原因が景気循環のなかでの需要不足の場合、UV曲線は日本やオランダのように反時計回りの円を描く。ただし米国や英国のように比較的に雇用の流動性が高い国では、欠員率の変動に対して失業率が敏感に反応するため、円ではなく左上と右下を行き来する直線を描く。これが需要不足による場合のUV曲線だ。一方で構造的な失業による場合、UV曲線は右上にシフトする。スウェーデンやスイスでは、UV曲線は弧を描きながら徐々に右上へとシフトしており、この状態の典型である。つまりスウェーデンやスイスでは、この10年で構造的失業が進んでいる。注目すべきは、2010年半ば以降、米国や英国でUV曲線が右上へとシフトする兆候が見られている点だ。これが単なる欠員率に対する失業率の反応の遅れによるものなのか、あるいは長期失業の拡大による構造的・摩擦的失業のどちらであるか判断するのは早計ではあるものの、注視する必要がある。

図2:各国のUV曲線(2001~2011年)

日本
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)日本

オランダ
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)オランダ

スウェーデン
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)スウェーデン

スイス
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)スイス

イギリス
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)英国

アメリカ
図2:各国のUV曲線(2001~2011年)米国

  • 出所:OECD

労働分配率が長期低下、様々な要因

OECD諸国の労働分配率は長期的に下落傾向にある。各国の労働分配率の中央値は1990年代前半で66.1%であったが、2000年代後半では61.7%となり、約20年間弱で4.4%低下している(図3)。アイスランド、チェコなど上昇している国も一部にはあるが、多くの国で低下しており、特にノルウェー、フィンランド、アイルランドは10%近く減少している。しかし労働分配率が低下しているからといって、労働者が一律に厳しい状況にあるわけではない。上位1%の高所得者の収入が全体に占める割合は、過去20年で20%上昇している。その一方で、低技能者については、雇用自体は増加しているものの、収入の状況は芳しくない。

図3:各国の労働分配率の変化(1990~2009年)

図3:各国の労働分配率の変化(1990~2009年)出所:OECD

  • 出所:OECD
  • 注1:各国の1990年値は、ドイツ・アイスランドが1991年値。エストニアが1993年値。ポーランドが1994年値。チェコ・ギリシャ・ハンガリー・スロバキア・スロベニアが1995年値。イスラエルが2000年値。
  • 注2:各国の2009年値はポルトガルが2005年値。カナダ・ニュージーランドが2006年値。オーストラリア・ベルギー・アイルランド・ノルウェー・スウェーンが2007年値。フランス・アイスランド・イスラエル・ポーランド・英国が2008年値。

労働分配率の低下の要因としては、ICT技術の発達、国内外での競争の激化がある。また労働者間の格差が拡がっている背景には労使交渉の変容などが挙げられる。

ICTの発達による技術革新は生産性を向上させた一方で、主にルーティンの仕事を労働者から機械に取って代わらせた。

国内外での競争は、国外でいえばグローバル化、国内でいえば政府系機関の民営化が挙げられる。労働分配率の低下の要因の少なくとも10%については、グローバル化によって説明される。民営化の好例としては、エネルギーや物流、通信産業などが挙げられる。この業界では1990年代初めからの大規模な民営化により、生産性が著しく向上した。しかしその一方で労働分配率は33%も低下した。

労使交渉を巡っては、多くの国で労働組合の組織率が低下傾向にある。これは労働分配率が仮に上昇したとしても、その恩恵を多くの者が享受するのではなく、一部の者だけが享受する事を意味している。複数使用者単位での労使交渉を実施している国では、社会的パートナー間の連携が十分でない時、労使交渉の合意はしばしば賃金抑制に利用される。また中央集権的な労使交渉に比べると、分権的なそれは労働者間の賃金のバラツキを大きくさせる傾向にあり、つまり分権化は低技能労働者の状況の悪化を促しているともいえる。

労働分配率の低下に対する政府の対策としては、税金や補助金による各産業・分野間の労働人口の調整が有効だ。これにより政府は労働者に対して、労働分配率の高い産業への移動を促す事が出来る。またそれと並行して、学校教育終了後の労働市場参入時のミスマッチを防ぐこと、学校教育から離脱する者を防止することも労働分配率の低下を抑制しうる。

出所

  • OECD

参考資料

  • OECD Employment Outlook 2012

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