南欧からの移民、債務危機で激増
―OECD「移民アウトルック2013」

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2013年7月

経済協力開発機構(OECD)は6月、「移民アウトルック2013」を発表した。債務危機に直面する南欧諸国からの移民流出数の激増が最大特徴だ。報告書は、「選択的受入れ」の方針に基づき、高度人材の獲得を図る各国の戦略も紹介している。

OECD諸国への永住型の移民は約385万人(2011年)であった。前年を約2.1%上回ったものの、400万人を超えていた2007、2008年頃よりは低い水準である。OECD 以外からの移民で、最も巨大な供給源となっているのは中国で、2011年には52.9万人が流入している。以下、ルーマニア(31万人)、インド(24万人)、フィリピン(15.9万人)、モロッコ(11万人)と続く。

OECD諸国内での移民の動きを見ると、債務危機に直面する南欧諸国などでその傾向に著しい変化が見られる。南欧諸国等からOECD諸国および欧州の国へ移住した人は、ここ4、5年ほどで激増している(図表1)。ギリシャやスペインでは2007年と比べると、2011年はその数が倍以上となっている。これらの移民の主な移住先としては、ドイツ、イギリス、ベルギーなどが増えている。こうした傾向は2012年に入りさらに加速していると見られている。

図表1:南欧諸国等から移民流出の推移(2007年=100とした場合)
出身国 2007 2008 2009 2010 2011 2011/実数(千人)
ギリシャ 100 106 102 143 236 39
アイスランド 100 111 163 165 135 4
アイルランド 100 104 174 210 181 21
イタリア 100 116 111 132 142 85
ポルトガル 100 120 98 103 125 55
スペイン 100 114 123 173 224 72
移住先 2007 2008 2009 2010 2011 2011/実数(千人)
ドイツ 100 105 116 133 188 78
イギリス 100 120 113 174 195 88
スイス 100 116 96 102 121 33
ベルギー 100 142 146 169 193 15
オランダ 100 138 144 157 184 12
その他のOECD諸国 100 109 116 124 129 50
合計 100 115 114 140 165 275
  • 出所:OECD等
  • 注:移民流出数はOECD諸国及び欧州の主要国への流出のみをカウントしており、それ以外の地域への流出は含まない。

始まりだした高度人材の獲得競争

過去10年、とりわけ2008年の金融危機以後は、OECD諸国は高度人材を獲得するために、労働移民の受け入れをより選択的にしつつある。とりわけ、カナダとオーストラリアがこうした政策を積極的に進めている。

近年多くの国が採用しているのがポイント制(PBS: Point-Based System)で、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、デンマーク、オランダ、日本、韓国などが採用している。

積極的受入れの対象は、高度技能者だけでなく投資家や起業家にも及ぶ。アイルランドは2012年より投資家の家族が容易にアイルランドを訪問・滞在可能となるプログラムを始めた。イギリスは2011年より優れた科学者や芸術家を対象に、使用者によるスポンサーシップを免除する制度を開始している。

「高度人材の卵」として、各国は留学生にも注目している。彼らが卒業後に留学先での就職活動を行いやすくするために、ドイツは卒業後の求職活動を認める期間を18カ月に延長した(図表2)。オーストラリアは2013年から新規のスキームを創設し、その中で18カ月間の滞在を認めている。カナダは2012年より博士課程の在籍者や卒業者に対して滞在や永住権の付与での優遇策を開始した。しかし、イギリスはこうした動きとは逆行する政策を採っており、非欧州経済領域(non-EEA)出身の学生に対しては、卒業後の滞在要件を厳しくしている。

図表2:卒業後の求職を目的とする滞在可能最長期間(単位:月)

図表2:卒業後の求職を目的とする滞在可能最長期間(単位:月)比較図

  • 出所:OECD
  • 注:2013年6月現在

一方、非熟練労働者に対しては、多くの国が制限的な政策を採用しつつある。カナダは2011年に非熟練労働者に対する言語要件を厳しくした。オーストラリアは2011年に一時的な労働移民の需給調整を厳格にした。デンマークは2012年に、一度は高齢者の介護まで拡大していたオペアの可能業務を、18歳未満の子供が少なくとも一人はいる家庭でのみ就労を許可するという、従来の基準に戻した。イギリスは国籍のみを要件として受け入れているブルガリアとルーマニアからの季節農業労働者受入れスキームを、2013年限りで終了するとしている。また2013年7月よりEUに加盟するクロアチアに対しても、このスキームを適用する予定はないと既に表明している。

日本への移民は中国からが拡大、フィリピンは縮小

報告書は日本の状況について、近年の政策の動向を伝えると共に、各種統計指標を掲載している。その中では、労働法を適用して訓練生を保護するために2010年に外国人研修制度が技能実習制度に変えられたこと、2012年より高度人材確保のために、ポイント制が導入されたこと、経済連携協定(EPA)に基づきフィリピン・インドネシアから看護師を受け入れているものの、国家試験の合格率が低いこと等が紹介されている。

日本に関する統計を見ると、震災の影響のため多くの指標で2011年値がそれまでの傾向から乖離しており、時系列的な比較・分析はしにくい状況にある。ただし入国してくる移民を国籍別に見ると、2011年は過去10年と比べると中国からの移民が大幅に拡大している一方で、フィリピンからの移民は縮小している(図表3)。

図表3:日本への移民上位10か国の全体に占める割合(単位:%)

図表3:日本への移民上位10か国の全体に占める割合(単位:%)2001-10年平均値および2011年数値

  • 出所:OECD
  • 資料出所:OECD『International Migration Outlook 2013』

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