「若者の職業経験不足が将来の経済成長の足かせに」
―民主党系シンクタンク報告

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2013年7月

アメリカの16歳から24歳までの若年者の多くが、失業、パートタイムなどの不安定な雇用、無業(ディスコネクテッド)の状態にある。そのために、職業経験を得られる機会が十分ではない。そして、そのことが、将来の経済成長の足かせになると民主党系シンクタンク、センター・フォー・アメリカン・プログレスが報告書で警告した。

ディスコネクテッド(学卒無業)が無視できない数に

25歳以下の若年者のうち1060万人が不完全な雇用の状態にある。これは、労働省労働統計局が行った調査(Current Population Survey)項目である、「パートタイムで働いているもののフルタイムの仕事を探している者」と「学校に通っているけれども仕事を探している者」および「働いてもいないし、学校にも行っていない者」を合計した数字である。

16~19歳までの10代と20~24歳までの不完全な雇用の状態にある者の数はそれぞれ約250万人と約820万人である。そのうち、「パートタイムで働いているもののフルタイムの仕事を探している者」が16~19歳では約30万人、20~24歳では約38万5000人、「学校に通っているけれども仕事を探している者」は16~19歳では約72万8000人、20~24歳では約368万2000人、「働いてもいないし、学校にも行っていない者」が16~19歳では約143万1000人、20~24歳では約410万4000人だった。

16~24歳の失業率をみれば、全体平均7.5%のおよそ倍の16.2%となっているが、「パートタイムで働いているもののフルタイムの仕事を探している者」と「学校に通っているけれども仕事を探している者」および「働いてもいないし、学校にも行っていない者」の人数が1000万人を超えるという状況をみれば、失業率の高さにもまして状況が深刻であることがうかがえる。

報告書は、「働いてもいないし、学校にも行っていない者」をディスコネクテッド(Disconnected)と呼ぶ。ディスコネクテッドとは、どこにも繋がって(コネクトして)いないということを意味し、たとえばステージの歌手の歌が観客の心にほとんど響かないときなどに使われる。職場にも学校にも繋がっていないために職業経験や知識を得る機会から断然している。このままでは犯罪に巻き込まれるか、政府が負担する社会保障制度の世話になる可能性が高まる。さらには、雇用の機会や職業能力が高まることで将来の収入が上昇するという機会も失われてしまう。その数は16~24歳までで550万人を超える。

ディスコネクテッドの状態にある者で、16~19歳までの143万1000人のうち65万2000人、20~24歳までの410万4000人のうち97万1000人が高校中退だった。大卒以上であれば、ディスコネクテッドの状態にある者の人数は減少する。しかし、もはや大卒だからといって安定した雇用が約束されるわけではない。

大学進学のための教育ローンが大きな負担に

かつて、大学卒業資格を持っていれば、安定した雇用と比較的に高い収入を手にすることができた。そのために、学生は教育ローンを利用して大学に進学していた。その投資効果が大きかったからである。しかし、もはやその効果は薄れた。

失業率をみると、30~44歳で3.4%、45~54歳で4.4%だが、21歳~24歳では7.4%とおよそ倍増するなど、大卒でも若年者ほど状況が厳しい。それだけでなく、2000年と比較して若年大卒者の実質賃金は8.5%ほど減少した。つまり、24歳以下の若年層をみると、大卒でも就職の機会が多くないだけでなく、手にする賃金も低下する傾向にある。

若年大卒者は、小売販売、レジ、レストランでの給仕など大卒資格を必要としない仕事に就く場合が多く、その割合は卒業生全体の3分の1を超えるようになっている。このような仕事は低賃金であることが多く、教育ローンの返済額を賄えない。アメリカの学生は卒業までに一人あたり平均で約2万5千ドルの教育ローンを抱えている。かつて、この金額は将来手にする収入で十分に返済できるものだったが、現在は賃金の低さや、仕事を見つけられないことなどにより、支払不履行となって焦げ付く例が後を絶たなくなっている。無給のインターンシップから抜け出して就職の道を見出すことができない者も多く、教育ローンの返済に深刻な影を落としている。現在、4分の1の教育ローン利用者で滞納がみられる。

低賃金の仕事は、将来的に求められるスキルレベルも低いため、賃金が上昇する可能性も低い。仕事に留まらざるを得ない。このような状況が続けば、銀行口座やクレジットカードが作れなかったり、家を借りることや車を買うといった場面で不都合が生じたけでなく、教育ローンの返済のために賃金が差し押さえられてしまう危険性もある。それは、安定した老後を送るための退職後の生活資金を蓄える機会を失うことにもなる。これらは、アメリカのミドルクラスを減少させるものであり、経済成長の足かせとなる可能性がある。

このため、このような若年者が職業経験を積んで将来の収入を高めるための政策や、焦げ付いた教育ローンの支払を援助するために政府が助成金を投入するといった政策を行うことを報告書は提言している。

参考

  • Sarah Ayres, America’s 10 Million Unemployed Youth Spell Danger for Future Economic Growth, Center for American Progress, 5 June 2013.

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