移民の純流入数、前年比3分の2に

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  • 国別労働トピック:2013年6月

統計局が5月に公表した移民統計によれば、2012年9月までの12カ月間の純流入数(流入数から流出数を差し引いた人数)は15万3000人で、前年からおよそ3分の2に減少した。就学および家族帯同・呼び寄せを目的とする移民流入数の減少が影響している。

留学生が急速に減少

統計は、1年以上滞在予定の入国者の流出入に関するもの。うち流入者数は50万人で、前年(2011年9月までの12カ月間)から8万1000人の減となった。就学目的の流入数は19万人で前年から5万6000人減、また家族の帯同・呼び寄せを目的とする流入が6万2000人と1万8000人減少した。このほか、就労目的の流入数も8000人減少して17万5000人となった。地域別には、EU域外注1からの流入数の減(7万9000人減の42万1000人)が減少分の大半を占める。一方の流出数は、前年から8000人増の34万7000人とほぼ横ばいで推移。結果として、純流入数は前年の24万2000人から8万9000人と37%減少して15万3000人となった。

併せて公表されたビザ発行数に関するデータによれば、2013年3月までの12カ月間のビザ発行数は49万9780件(前年から6%減)、うち就学目的のビザは20万6814件(9%減)。受け入れ先別には、継続教育機関および英語学校がそれぞれ46%減少する一方、大学を受け入れ先とするビザの発行数は5%増加した注2。ハーパー移民担当相は一連の結果をうけて、移民制度の引き締めにより不法移民が減少する一方で、経済成長に貢献する頭脳を持った留学生の受け入れが進んでいるとして制度改革の成果を主張注3、さらに今期議会に提出予定の新たな移民法案が、移民流入の誘因(プル要因)を減少させ、滞在の権利を持たない移民の退去を容易にするだろう、と述べている。政府は、2015年までに移民の純流入数を10万人未満に削減するとの目標を掲げており、対応策として、例えば2012年4月には英語能力や受入れコースに関する要件の引き上げ、受け入れ教育機関の資格要件の厳格化などを実施したほか、滞在中の就労や家族帯同に関する制限も強化したところだ。

ただし、数量的な削減目標の追求には、これまでもビジネス・イノベーション・技能相が繰り返し反対を表明してきたところであり、とりわけ留学生の削減は大きな経済的損失を招くとして、反対論は与野党議員や教育業界にとどまらず経営者団体などにも及んでいる。1月には、議会の複数の委員会が留学生受入れ数を政府目標から除外するよう首相に要請したが、首相は制度の引き締めを継続する必要性を主張、要請を却下した。

図1:目的別純流入数の推移(千人)

図1:目的別純流入数の推移(千人)2002年-2012年

  • 注:各月とも直近12カ月の累積。また2012年3月は速報値。
  • 参考:"Migration Statistics Quarterly Report November 2012", ONS

ルーマニア、ブルガリア労働者の就労自由化、来年1月から

政府が5月に示した方針によれば、新たな移民法案には、医療サービスの提供に際して権利の有無をチェックする(短期滞在者など権利のない者には費用負担を求める)制度の導入のほか、不法移民労働者の雇用主に対する罰金引き上げなど取り締まりの強化、移民に住居を提供する賃貸住宅の家主に合法的な滞在者かどうかのチェックを義務付けることなどが盛り込まれる見込みだ注4。また、不法滞在者などの国外退去を容易に行えるようにするとともに、滞在許可に関する裁判所の決定について、重大な案件以外での異議申し立ての権利を制限するとしている。

政府は直接言及していないが、医療サービスの利用に関する制度の引き締めは、2014年1月からのルーマニア、ブルガリア移民の就労自由化と関連しているとみられる。2007年のEU加盟以降、両国からの労働者に対しては移行措置として就労制限を設けることが加盟国に認められており、イギリスでは季節農業労働者受け入れスキーム(Seasonal Agricultural Worker Scheme-SAWS)および業種限定スキーム(Sector Based Scheme-SBS)に就労を限定してきた注5。いずれも、賃金水準や肉体的負荷が理由でイギリス人労働者を調達しにくいことから、移民労働者の受け入れが容認されてきた分野だ。しかし、移行措置の期限である2013年末には、両スキームとも廃止が予定されている。

就労自由化の影響として懸念されているのは、労働者やその家族の急激な流入だ。政府は、「社会保障ツーリズム」(他国のより整った社会保障給付や医療などの制度を目当てとした移民)の可能性に懸念を表明しており、予防策としてEU市民の社会保障・医療サービスに関する権利を制限するとの方針を示していた。今回の法案には、これに対応した内容が盛り込まれるとみられるが、法案は未だ公表されていないため詳細は不明だ。

両国からの移民増加の規模やその影響をめぐっては様々な議論があるものの、エビデンスは限定されている。現地報道によれば、政府は独自の予測を行っているとみられるが、その結果は公表されていない。また、BBCが2013年2月に実施した調査によれば、ルーマニア及びブルガリアの就業年齢人口の約4分の1がイギリスで仕事を探したいと考えていると回答したという。保守系メディアはこの結果を受けて、両国から35万人の移民労働者が流入する可能性があると報道したが、調査を行ったBBC自身は、多くが「確実に仕事を得られる場合」のみイギリスで就労を希望すると回答しているとして、移民労働者の流入は限定的と分析している。

加えて、政府の委託を受けてシンクタンクNIESRがまとめた報告書によれば、両国から他の加盟国への労働者の主な流出先はスペインやイタリア、ドイツで、移民に保障される権利や雇用機会の豊富さ、言語の類似性などが主要因とみられる。両国からの移民労働者の多くは35歳未満で、建設業や宿泊業、ケータリング業、また家事使用人など比較的少ない業種に集中している。イギリス国内で就業するルーマニア、ブルガリア移民は統計上それぞれ8万人と2万6000人、他の東欧諸国の移民労働者に比して自営業者の比率が高く、他の加盟国で就労する両国の移民労働者に比して平均的な保有資格の水準は高い。報告書は、就労自由化後は他の旧東欧諸国同様、未熟練職種の従事者が増加すると予測している。ただし、その規模は公共サービスを圧迫するほどのものではなく、社会保障についてもEU域外からの移民に比して受給者は限定的とみている。

一方、移民政策に関する諮問機関であるMigration Advisory Committee(MAC)は5月、SAWSおよびSBSの廃止による農業や食品加工業への影響に関する報告書を公表した。報告書によれば、現在スキームを通じて労働力を調達している雇用主は、スキームの廃止後も1~2年は労働力不足に直面することはないとみられるが、より肉体的な負荷が低く安定した仕事への転職が進むとみられることから、人材調達が次第に困難になると予測している。イギリス人労働者によって補われる可能性は小さいことから、例えばウクライナ人の受け入れなどで労働力不足を補う新たなスキームを導入する必要がある、とMACは述べている。

  1. ほとんどは英連邦からの流入者の減少によるもの(6万1000人減の10万5000人)で、アジアからの留学生が減少しているとみられる。なお、2011年のビザ発行統計によれば、インド、バングラデシュ、ネパール、スリランカなどからの留学生の入国が顕著に減少する一方、中国やパキスタンなどからの留学生はむしろ増加している。
  2. 2013年3月時点の受け入れ教育機関別ビザ発行数は、大学が15万7241件、継続教育機関が2万9731件、英語学校が3470件、インディペンデント・スクール(公的補助を受けない教育機関)が1万3798件。なおこのデータには含まれていないが、短期就学ビザ(student visitors visa―語学留学など、6~11カ月の就学を理由とする滞在を許可)の発行数が近年急速に増加、2011年には約7万件と通常の就学ビザ(ポイント制の第4階層)による入国者の3分の1の水準に達している。移民制度の引き締めにより就労目的での入国が困難となり、また公式な就学ビザよりも取得が容易であることから、短期就学ビザで入国して違法に就労するニセ学生が増加している可能性が懸念されている。
  3. なおこれに関連して、国境庁は2012年8月末、ロンドン・メトロポリタン大学の留学生受け入れ資格を剥奪した。同大学の受け入れていた留学生に滞在資格や英語能力などの要件を満たさない者が多く含まれていたことが理由だという。結果として、当時在籍していた留学生2000人以上が、数カ月のうちに新たな受け入れ先を探すか、就学継続を断念して帰国するかを迫られたとみられる。大学側の申し立てにより、結果的に在籍者については引き続き滞在が認められたものの、他大学への移籍や帰国で留学生は1000人以上減少したという。
  4. 医療関連団体は、個別の医療機関が移民の滞在資格などをチェックするという政府案は実現性に欠けるとして批判的だ。
  5. SAWSは、国内の9つの雇用主が直接・間接に労働者を雇用し、最長で6カ月間、農業労働に従事させるもので、年間2万1250人の数量制限が課されている(年間の農業における季節労働者の3分の1に相当)。なお、滞在中に雇用主を変更することは可能だが、スキームの認める業務内容以外に変更することは出来ない。また、SAWSの対象となる業務時間外に週20時間まで副業を行うことが出来る。またSBSは、年間3500人の数量制限のもとで、食品加工に従事する労働者の最長12カ月間の受け入れを認めている。いずれのスキームも、従来はEU域外を対象に運用され、ウクライナやブルガリア、ロシアなどから多くの労働者を受け入れていたが、ルーマニアとブルガリアの2007年のEU加盟を機に、対象がこれら2カ国に限定された。
    なお、就労制限は自営業者には適用されない。このため、自営業者を偽装して派遣事業者などを通じて働く労働者も多いとみられている。

参考資料

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