ジレンマに立つ中等職業教育
―高い就職率、低い社会的評価

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2013年4月

中国教育部の発表等によると、近年は大学卒業者よりも、中等職業学校の卒業者のほうが就職率が好調な状況にある。しかし、一部の先進的な教育に取り組んでいる地域では優れた人材を数多く輩出しているものの、それ以外の地域では教育水準や卒業後の待遇で問題を抱えている。労働力不足が顕在化しつつある中で、限られた人的資源の有効な活用という点でも、中等職業教育の向上は政府の重要課題である。

卒業生の就職率、大卒を5%上回る

中国教育部は2月、「中国中等職業学校卒業生の発展と就職報告」を発表した。その報告によると、2007~2011年の中等職業学校卒業生の就職率は95%以上で、大学生の就職率90.2%(2011年値、「2012中国大学生就職報告」による)を上回った。

中等職業学校には、中等専門学校、技工学校、職業高等学校(農業高等学校と工業高等学校)、成人中等専門学校がある。現在の中等専門学校、技工学校、職業高等学校はすべて技能労働の従事者を養成する役割を担っている。その中で、技工学校は、主にものづくりの技能者の養成を目的とし、すべての学生に中級技能を修得させることを目標としている。

報告の統計によると、2011年時点で中等職業学校は13093校あり、在学中の学生人数は約2200万人である。卒業生も年々増加傾向にある(図)。さらに、中国政府は昨年11月に、「中等職業教育の無料化を推進し、国家レベルの奨学金制度を拡充していく」と発表している。温家宝首相(当時)は「中等職業教育事業の発展を加速し、教育の公平性を高め、労働者の質を向上させるため、農業を専門とする学生及び貧困家庭向けの援助範囲を拡大し、県や鎮を含むすべての農村部の学生、都市部の農業を専門とする学生や貧困家庭を支援の対象とする」と述べた。

図:中等職業学校卒業者数の推移(単位:万人)

図:中等職業学校卒業者数の推移(単位:万人)2007-2011年

出所:中国教育部『中国中等職業学校卒業生の発展と就職報告(2012年)』

しかし、政府の支持とその高い就職率とは裏腹に、中国社会は中等職業学校卒業生に対して、必ずしも合理的な社会的位置づけを与えていない。中等職業学校卒業という学歴は、学生の卒業後のキャリアの障害になってしまうことがある。たとえば、公務員試験の申し込み資格がないことや、昇進に際しては職歴よりも学歴が評価される傾向にあることである。

背景に貧困家庭出身者と学業成績の低さ

中等職業学校の学生は、ほとんどが貧困家庭出身や、学業成績が芳しくないものが多い。「中国中等職業学校卒業生の発展と就職報告」の統計によると、2012年に中等職業教育を受ける学生数のうち農村戸籍を持つ者は82%を占める。長年、中等職業学校の学生はほとんどが農村や都市部の貧困層の出身で、うち7割近くは西部地域の学生である。家庭の年平均一人当たり収入が3000元に達していない家庭は45.7%に上る。中国教育部『中等職業教育は学生文化知識レベルと学習能力要求に対する研究』(2008年)によると、中等職業学校の在学生で中学校二年生レベルの数学に達していない者は59.69%、中学校二年生レベルの英語に達していない者は72.24%に上る。そのレベルの学生は中学卒業後、やむを得ずに中等職業学校を選んで進学するという現状がある。

「学歴社会」である中国社会では、「労心者治人、労力者治於人」(頭脳労働者は肉体労働者を支配し、肉体労働者は頭脳労働者に支配される)や「万般皆下品、唯有読書高」(読書による知識があって、社会指導者となり得る)などの思想が伝統的なこともあって、中等職業学校の学生に対する社会の眼は決して暖かくない。

教育内容に玉石混淆

北京や天津、上海などの発達地域では、職業教育で「双師型教師」を積極的に育成している。「双師型教師」とは、企業への長期派遣での研修により、教育知識と職業技能を兼備している教師を指す。しかし、他の地域の職業学校は玉石混淆といった状態で、教師が理論教育に偏り実践能力が不足していたり、専門技術能力が乏しいケースもあり、職業教育における問題点の一つに数えられている。

目下、出稼ぎ労働者不足は各地で問題化しており、地方政府にとっては現地の製造業の企業の発展や労働者不足の課題を解決するためにも、中等職業学校卒業生は貴重な労働力である。ある政府部門は企業の労働者募集をサポートし、現地職業学校の学生に対して、企業実習の参加を求めている。専攻の合致は重要ではない。企業にとっては労働力を獲得できて、かつ市場の相場よりも低い賃金に抑えられる。教育部門にとっても、就職率も高める事が出来るので、企業と学校の双方がメリットを有する仕組みとなっている。

社会や個人が高学歴を過剰に追求する「学歴社会」の中で、中等職業教育の学生が職業キャリアをどのように発展させるか、そして中等職業教育の学生の社会的位置づけをどのように高めるか、中等職業教育がどのように前進するか、課題は山積みである。

参考資料

  • 北京晩報、中国青年網、人民網、中国教育部『中国中等職業学校卒業生の発展と就職報告(2012年)』

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