長期失業者などの支援実績、「極めてお粗末」
―議会決算委報告、政府プログラムを批判

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2013年3月

庶民院の決算委員会は2月、政府の長期失業者等向け就業支援プログラム(ワーク・プログラム)の実績について厳しく批判する報告書を公表した。委託先の民間事業者の実績が導入当初の政府目標を大きく下回っているほか、支援が困難な若者や就労困難者などがほとんど支援を受けていないことなどを指摘、改善策を講じるよう要請している。

継続的雇用は全体の3.6%

ワーク・プログラムは、既存の長期失業者や就労困難者(健康上の問題や育児等の理由による)向けの主要な就業支援プログラムに替えて、連立政権が2011年6月に導入した。対象者は、プログラムへの参加が義務付けられている求職者手当の長期受給者(注1)のほか、就労困難の度合いにより義務または任意参加となる雇用・生活補助手当など(注2)の受給者だ。政府が入札により地域ごとに決定した民間プロバイダ(元請事業者)は、ジョブセンター・プラス(公的職業紹介機関)から紹介を受けた参加者に対して、地域の民間企業や非営利団体などの下請け事業者を通じて最長2年間の支援を提供する。支援サービスの民間プロバイダへの委託は従来から実施されていたが、支援内容を規定せずに、雇用の実績に基づいて委託費を支払う制度を採用した点に本プログラムの特徴がある。委託費は、主に継続的な雇用に対して支払われる。プログラムを通じて仕事に就いた後、6カ月間雇用が継続した時点で所定額が委託料として計上され、以降も雇用の継続期間に応じて支払額が加算される仕組みとなっている(注3)。なお、健康上の問題などで就業が困難な層については、継続的雇用とみなす期間を3カ月間とし、より高い支払額を設定して支援の促進を図っている。

プログラムを所管する雇用年金省は2012年11月、プログラムを通じた就業実績に関するデータを初めて公表した。これによれば、導入以降2012年7月までに紹介された87万7880人のうち、継続的な(6カ月または3カ月以上の)仕事に就いている参加者は3万1240人(3.6%)となった。うち半数弱(約1万4500人)はプログラム開始当初の2011年6月および7月に参加した者だという(図)(注4)。ダンカン=スミス雇用年金相はこの結果について、プログラムは導入初期の段階にあるため、現時点での評価は尚早であると述べている。また、委託費は実績ベースで支払われるため税金は無駄になっていないこと(注5)、さらにプログラム参加者の半数以上が少なくとも1度は給付から離脱していることなどを挙げ、理解を求めている(注6)。またホーバン雇用担当大臣は、雇用実績の不振の要因として、不況の影響や、受託事業者側での支援のための資金不足、さらに政府の設定した目標値自体も高すぎたことなどが可能性として考えられるとしている。なお雇用年金省は、事業者ごとの実績に大きなばらつきがある点について、経済状況の違いによるものではなく、支援手法やマネージメントの差によるものであるとしている。

図 主要カテゴリの紹介数と月ごとの継続的雇用の達成件数(千件)

図 主要カテゴリの紹介数と月ごとの継続的雇用の達成件数(千件)2011年6月-2012年6月

  • 注:求職者手当受給者(18-24歳及び25歳以上層)は雇用期間が6カ月、他のカテゴリは3カ月に達した件数
  • 参考:DWP Work Programme Statistical Release

これに対して、議会決算委員会が2月に公表した報告書は、プログラムの設計や運用、さらに結果に関する政府の説明不足を指摘し、是正を求める内容となった。同報告書によれば、委託事業者による継続的雇用の実績は、政府の当初予測に基づく水準(ジョブセンターからの紹介件数の11.9%)(注7)はもとより、委託に際して設定された最低基準(同5.5%)(注8)すら下回っている。また、継続的雇用の実績は支援の容易な層に偏っており、若者や就労困難者など支援が困難な層については極めて低い結果に留まることから、困難度に応じたインセンティブ制度(相対的に高い報酬の設定)が機能していない可能性がある。とりわけ実績が不振な事業者は、財務状況の悪化から倒産する事態も生じかねず、このため実施面での改善策と併せて、必要に応じて契約解除などの対応を行うため、事業者のモニターを行う必要がある。

さらに、政府の情報公開に関する姿勢にも疑問を呈し、改善を求めている。データ公表が当初予定より遅れたことに加え、プログラムの効果に関する政府の当初予測の内容や、実績がこれを下回った原因に関して説明がなされていないこと、また事業者ごとのプログラムの実施状況に関して、業界団体から提供された未検証のデータを公表していることなどがその理由だ。決算委のホッジ委員長は、プログラムの実績は「極めてお粗末」であると厳しく批判、プロバイダが利益に繋がりやすい支援の容易な層ばかりを支援する一方で、支援の困難な層が放置されている可能性を指摘している。

  1. 若年層(18-24歳)は失業期間9カ月超、成人層(25歳以上)は12カ月超、また早期参加者(就業に困難を抱える18歳以上のニートや反復受給者等)は3カ月超など。
  2. 就労困難者向け給付制度として2008年10月に導入。健康上の問題の有無よりも就労に必要な能力に注目した「就労能力評価」に基づき、申請者を(1)就労関連活動グループ(健康上の問題が軽度で就労に移行しやすい者)、(2)支援グループ(重度の健康上の問題がある者)及び(3)就労可能なグループ(雇用・生活補助手当の受給は不可)に区分して、受給の可否や条件を判断する。受給者のうち、一定期間後(3カ月・6カ月あるいは12カ月後)に就労可能と審査された者は、審査結果が出た時点から参加義務が生じる。短期的には就労が難しいと判断された者については、プログラムの参加は任意。
  3. 通常の求職者手当受給者(若年および成人)は6カ月間、就業に困難を抱える者や雇用・生活補助手当の受給者は3カ月。このほか、プログラム開始当初はプロバイダが対象者に対する支援を開始した時点も一定の委託料の対象となるが、この金額は年々減額される。
  4. 2012年7月までに、6月からの参加者9.8%、7月からの参加者8.1%が継続的な仕事を得た。
  5. 業界団体の雇用関連サービス協会(ERSA)の試算によれば、一人当たりの支援にかかる費用は2097ポンド(雇用年金省の支出額は4億3576万ポンド)で、前政権下で最後の施策となったフレキシブル・ニューディールの7495ポンド、その前身の若年者および成人向けニューディールの3321ポンドよりも低コストであると強調している。会計検査院はこの試算について、そもそもデータが検証を経ていないという問題を措くとしても、プログラムの費用対効果の分析はあくまで支援がなかった場合と比べて行なわれるべきであるとして、単純なコスト比較は危険だとコメントしている。
  6. 雇用年金省はデータの公表と併せて、最初の4カ月のプログラム参加者の給付離脱状況を分析、2012年6-7月までの間に56%が何らかの形で少なくとも一度は給付を離脱したとしている。なお、離脱の状態が13週継続した層は30%、26週は19%。
  7. 政府は2年間のプログラム実施により、紹介数の31%が継続的な雇用を得ると推計しており、会計検査院はこれをうけて、目標達成が順調に進んだ場合の2012年7月時点の実績を11.9%と推計している。
  8. プログラムの受託事業者の入札に際して示されたプログラム開始1年目の最低目標値で、求職者手当受給者(若者および成人)と、雇用・生活補助手当の就労関連活動グループで3カ月以内に就労可能になると審査された受給者について設定。2010年時点での景気や労働市場に関する予測に基づき、無支援の場合に想定される持続的な仕事への就職率を5%として、これに支援効果として1割を上乗せしている。なお3万1000人は14カ月目の数値であり、12カ月時点では78万5000人の紹介に対して1万8000人(2.3%)

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