ドイツの労働コスト上昇、貿易不均衡の緩和に
―IMK報告「賃上げは重要」

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年2月

ハンスベックラー財団マクロ経済・景気動向研究所(IMK)の報告によると、一人当たりの労働コストについて、ドイツが2011年にユーロ圏の全体平均を久々に上回った。ドイツの労働コストの上昇率は、2000年から2010年までは、ユーロ圏諸国より低率で推移していた。しかし、2011年は大幅に上昇し、それが、圏内の経常収支不均衡の緩和につながった。そのため、IMKは、ユーロ圏全体の持続的発展のために、ドイツの賃金上昇は重要な意味を持つ、と結論付けている。

この分析は欧州委員会統計局(ユーロスタット)の最新数値を用いて、労働コストを算出している。労働コストには、総賃金のほか、社会保険料に含まれる使用者負担分、職業訓練の費用、関連の税金などが含まれている。

2011年のユーロ圏17カ国()の平均労働コストは27.6ユーロだったが、ドイツは、30.1ユーロと平均を上回っている(図1)。2011年は、ベルギー、スウェーデン、デンマークなどで労働コストが高かった反面、経済危機に瀕するスペイン、ギリシャ、チェコ、ポルトガルなどは平均を下回った。労働コストの前年比上昇率を見ると、ドイツが3%増だったのに対し、ユーロ圏およびEUでは2.7%増だった。IMKの分析では、国内における労働コストの上昇は、2012年も続いており、これまでのところユーロ圏の上昇率を上回っている。

図1.ドイツの労働コスト(1時間当たり)2011年、民間経済(全体)

図1.ドイツの労働コスト(1時間当たり)2011年、民間経済(全体)各国比較

出所: IMK 2012

生産性の上昇分を修正した単位労働コストの各国の推移を2000年から2012年半ばまで見ると、ユーロ圏全体では年1.8%の割合で上昇していたのに対し、ドイツは明らかに他の諸国よりも弱い上昇にとどまり、年平均で0.7%弱しか上昇していない(図2)。特に2000年から2008年までドイツの単位労働コストは明らかに停滞しており、図にはないが、特に鉱業部門で低下が続いた。

だが、2008年の世界経済危機に伴って各企業が労働時間を短縮すると、ドイツの単位労働コストはユーロ圏平均よりも急速に上昇し、2010年に景気が回復すると再び上昇は緩慢化した。その後2011年には再び上昇に転じ、EU平均を久々に上回った。

図2.単位労働コストの国別推移 (2000年=100とした場合)

図2.単位労働コストの国別推移(2000-2012年)

出所:IMK 2012

このように2000年から2010年にかけて賃金上昇が弱かったドイツは、同時期のインフレターゲットを大きく下回ってきている。もしドイツが欧州通貨同盟成立以降、欧州中央銀行の年間2%弱のインフレターゲットを守ってきたとしたら、ドイツの単位労働コストは16%上昇していただろうとIMKは指摘する。そのため、「今後ユーロ圏内で適正な価格競争と均衡をはかるためにはドイツの力強い賃上げが重要な鍵になる」としている。

参考資料

  • Böckler Impuls 19/2012, Institut für Makroökonomie und Konjunkturforschung (IMK) Report Abgeschlossen am 15. November 2012. Eurostat, Deutsche Welle(24.12.2012)

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