党三中全会、定年年齢の引き上げ検討を決定
―年金財政を懸念、「人口ボーナス」が終焉

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年12月

中国の生産年齢人口は2012年に減少に転じ、これまでの「人口ボーナス」の時代に終焉を告げたことから、今後の経済成長と年金財政への影響が懸念されている。11月開催の共産党の第18回中央委員会第三回全体会議(三中全会)で決議した「改革の全面的進化に伴う若干の重大な問題に関する決定」では、その対策として、一人っ子政策の緩和と同時に、定年退職年齢引き上げの検討が盛り込められた。年金財政対策では、公務員優遇制度の廃止を求める声も強い。

段階的引き上げと緩衝期の導入

定年年齢引き上げに関して、三中大会の場で、人力資源社会保障部社会保障研究所の金維剛所長は、「定年年齢の引き上げに関しては、『小歩慢走』(ゆっくりと小股に歩く)という漸進的な引き上げ方式を採用し、徐々に、ゆっくりと定年退職年齢を引き上げる」と述べ、実施時期については具体的に言及しなかった。

金維剛所長のこの発言からは、二点の政策の方針が読み取れる。一点目は段階別引き上げ。例えば、定年退職年齢の1歳の引き上げは2年をかけて実行し、その政策実施後の1年目には半歳分引き上げ、2年目にまた半年分引き上げる、といった具合である。二点目は緩衝期の導入。引き上げを即時に実施するのではなく、定年退職年齢の引き上げに関する各種施策を制定し公布した後で、そこから数年の準備期間を設け、その後に実施すると見られる。

深刻な年金基金財政の状況

年金財政が心配されているのは、主に二つの理由があるためだ。

一点目は急速な高齢化。統計局の発表によれば、2012年の生産年齢人口は9億3727万人で、前年から345万人減少している。生産年齢人口の減少は、1949年の建国以来初のことである。生産年齢人口の減少は当然ながら労働人口の減少に直結する。民政部高齢者工作委員会弁公室の予測によれば、2020年までに60歳以上の人口は2億4800万人に達し、2050年には4億人を超えるとされている。

二点目は、各地方の年金基金注1の深刻な状況である。人力資源社会保障部の発表した「2012年度人力資源・社会保障の事業発展統計公報」によると、2012年の都市基本年金基金の総収入は2兆0001億元で、2011年に比べて18.4%増加しており、2012年末時点での年金基金の残高は2兆3941億元まで累積している。しかし、毎年少しずつ年金基金の残高は増加してはいるものの、将来的な年金の支払いに耐えられないとの見方もある。

中国社会科学院世界社会保障研究センターが2012年に発表した『中国年金発展報告2012』によると、32地域(31省+新彊兵団注2)のうち、2010年は15地域が赤字であり、その総額は679億元に達している。2011年は赤字の地域が14に減少したが、その総額は766億5000万元に増加している。特に東北三省の赤字は最も深刻で、総計で395億7400万元に達しており、東北三省だけで全体の赤字の50%以上を占めている(図)。また同報告書では年金の個人口座の「空帳問題」注3についても言及しており、その総額は2011年で約2.2億元、2012年で約2.6億元となっている。

図:各地域の年金基金の赤字額(2011年、単位:億元)

図

出所:『中国年金発展報告2012』

都市従業員基本年金基金、3800万人が脱退

2013年10月末の中国工会第十六回人民代表大会での李克強首相の報告によると、現在約3億人が都市従業員基本年金に加入している。しかしその一方で、2013年以降の10カ月で約3800万人が都市従業員基本年金基金を脱退している。

この脱退者は主に三つのグループに分けることが出来る。一つ目が失業者で、これはやむを得ずに中断した場合が多い。二つ目が中小企業の従業員で、これは企業側が経費削減のために年金保険に加入させなかったと見られる。最後に三つ目が出稼ぎ労働者で、自身の流動性の高い生活を考慮して中断している。

上記の三つのグループが年金加入を中断する理由としては、戸籍制度の存在、個人口座積立金の流出の心配もある。そして、こうした3800万人にも上る加入者の流出は、年金財源を脆弱化させ、個人口座積立金の空帳問題に更なる拍車をかけている。

引き上げへ様々な提案

2008年の人力資源社会保障部社会保障研究所の提案では、可能であれば女性従業員は2010年から、男性従業員は2015年から、「小歩漸進」(小股に漸進的に進む)方式で3年ごと定年を1歳延長し、65歳まで延長する。これにより2030年までに、従業員の定年退職年齢を65歳まで延長できる、としている。

2010年に中山大学社会保障研究センターは、定年退職年齢の引き上げに関する報告を公表した。報告によると、定年退職年齢を5歳引き上げれば、5年間は新規に年金を払う必要がなくなる。その期間中の保険料収入も踏まえると、毎年約200億元の負担軽減になるとしている。

2013年8月に清華大学定年退職専門研究グループは定年退職年齢について改革案を提示している。その提案によると、2015年より1965年生まれの女性従業員の定年を1年延長し、1966年生まれの女性従業員の定年を2年延長する。男性も同様の方式により、2030年までに男性従業員の定年を65歳までに延長する、という改革案を示している。

2013年11月に北京大学中国保険社会保障研究センターが公表した「中国年金保険制度中長期測算および改革構想に関する検討(以下:検討)」は、年金保険制度の中長期的名見通しを推計した。それによると、現在の都市従業員基本年金基金は2037年に赤字に転落し、2048年には年金基金が枯渇すると推計している。またこの検討では、現在の「実際の」労働市場からの退出年齢は男性が56歳、女性が50歳と推計している。

北京大学鄭偉副教授は以下の提案をしている。2015年より毎年定年退職年齢を3カ月伸ばし、4年ごとに1歳引き上げる。この方式を導入すれば約20年後に年金基金の赤字は解消され、年金収支のバランスを維持することができる、としている。

「年金双軌制」の廃止求める声も

定年退職年齢の引き上げと同時に、「年金双軌制リンク先を新しいウィンドウでひらく」(2013年5月記事参照)を廃止すべきだという声も高まっている。背景には、「年金双軌制」を廃止すれば年金基金の赤字を埋められるという見方がある。仮に公務員・政府系事業組織従業員の年金制度が都市従業員の年金制度と同一になった場合、つまり個人負担が賃金の8%、政府(企業に相当)負担が20%となった場合、毎年2800億元が年金基金に納められるとの推計もある注4

中国社会科学院の研究グループは、定年退職年齢の1歳の引き上げは、基金に対して40億元の収入増加と160億元の支出減少をもたらし、200億元の赤字削減の効果をもたらすと推測している。

上記二つの結果から、「年金双軌制」の廃止は定年退職年齢の14歳の引き上げにも相当する大きな効果が得られるとする現地報道もある注5

参考資料:年金制度の変遷
発表部門 法案 定年退職年齢 年金の給付水準(退職時の賃金額に対する割合)
1951 政務院 「労働保険条例」 男性:60歳
女性:50歳
35~60%
1953 政務院 「労働保険条例に関する若干修正の決定」 男性:60歳
女性:50歳
50~70%
1978 国務院 「労働者の定年・退職に関する国務院の暫定方法」 男性:60歳
女性:50歳(労働者
55歳(幹部)
  • 90%(1937年7月7日~1945年9月2日に就業を開始した者)
  • 80%(1945年9月3日~1949年9月30日に就業を開始した者)
  • 75%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数20年以上)
  • 70%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数15年以上20年未満)
  • 60%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数10年以上15年未満)
*最低保証額:月25元
1978 国務院 「高齢者・弱者・病人・障害者(幹部)の扱いに関する暫定規則」 勤続年数10年以上
男性:60歳
女性:55歳
(労働能力の完全な喪失が医療機関により証明された場合)
男性:50歳
女性:45歳
  • 90%(1937年7月7日~1945年9月2日に就業を開始した者)
  • 80%(1945年9月3日~1949年9月30日に就業を開始した者)
  • 75%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数20年以上)
  • 70%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数15年以上20年未満)
  • 60%(1949年10月1日以降に就業を開始し、かつ勤続年数10年以上15年未満)
*最低保証額:月25元

出所:中国政府網

参考文献

  • 人的資源社会保障部、中国政府網、人民日報、人民網、新京報、毎日経済新聞、北京青年報、中国新聞網、騰訊網財政頻道、THE WALLSTREET JOURNAL(中国語版)、『中国年金発展報告2012』、『中国年金発展報告2013』、『中国年金保険制度中長期測算および改革構想に関する検討』

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