アジア太平洋地域の中間層が大幅拡大
―貧困線以下の就業者も6億人、ILOが論文

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年10月

国際労働機関(ILO)アジア太平洋総局は8月30日、「経済階級と労働市場への包摂:アジア太平洋途上国の働く貧困層および中間層労働者」と題する論文を発表した。それによると、アジア太平洋地域における過去20年間の力強い経済成長は、数百万の人々が貧困層から抜け出すことを助けた。中間層に属する就業者は、1991年の6500万人から2012年には6億7000万人に増加した。しかし、依然として、貧困線を下回る就業者が約6億人、貧困線をわずかに上回る就業者が約5億人に上るという。同論文の概要は以下のとおり。

過去20年間に貧困層就業者の割合が46ポイント低下

アジア太平洋地域では、過去20年間に就業者の経済階層分布が劇的にシフトした(表1)。1991年には、地域の就業者のうち、世帯所得1人1日当たり1.25米ドル以下の「極貧困層」が約55%、1.25~2米ドルの「貧困層」が約25%を占めていた。つまり、地域の労働力の80%が貧困層に属し、2~4米ドルの「貧困に近い層」も約14%であった。他方、4米ドル以上の「中間層以上」はわずか5%に過ぎなかった。

しかし、2012年の就業者の経済階層分布は、「極貧困層」が約13%、「貧困層」が20%強までそれぞれ減少した。両者を合わせた貧困生活を送る労働力の割合は、過去20年間に46ポイントも低下し、34%まで大幅に減少した。「貧困に近い層」の就業者の割合は約28%へと増加した。他方、「中間層以上」の就業者の割合は33ポイント上昇し、約38%まで増加した。アジア太平洋地域において、1998年以降、絶対数が最も大幅に増加したのは「中間層以上」の就業者であり、新しく生まれた仕事のほとんどは中間層の職であった。

アジア太平洋地域全体の急速な発展は、主に東アジア地域の中間層就業者の並外れた増加によってもたらされた。東アジア地域の全就業者に占める「中間層以上」の割合は、1991年の5%未満から2012年には60%以上に増加した。南東アジア地域および太平洋地域においても、「中間層以上」の就業者は、同期間中に全就業者の12%から33%に増加した。しかし、南アジア地域における2012年の「中間層以上」の就業者の割合は、9%未満に過ぎなかった。依然として、南アジア地域の就業者のうち、「極貧困層」と「貧困層」が61%以上、「貧困に近い層」が30%を占めている。

2017年には中間層就業者が全労働力の半分を占める予想

アジア太平洋地域の「中間層以上」の就業者の割合は、2017年に全労働力の半分(9億3200万人)を占めるまで増加すると予想される。これは、東アジア地域において、2012年から2017年までの間に、「中間層以上」の就業者が1億8000万人増加するという予測に基づく。これらの予測は、中国の成長と雇用実績に大きく依存している。

「貧困層」および「貧困に近い層」の就業者の割合は、アジア太平洋地域全体で減少すると予想される。南東アジア地域と太平洋地域では、「極貧層」および「貧困層」の就業者の割合が2012年から2017年の期間に10ポイント低下し、23%未満まで減少する。他方、「貧困に近い層」の就業者はほとんど変化がなく、2017年にも労働力の3分の1を占めると予想される。

南アジア地域の「極貧困層」「貧困層」「貧困に近い層」の3つの経済階層に属する就業者の割合は、2017年も全体の約87%を占めると予想される。この地域には、アジア太平洋地域全体の「働く貧困層」の4分の3が居住する一方、「中間層以上」就業者の10%しか居住しない可能性が高い。しかし、この地域においても、2012年から2017年までの「中間層以上」就業者の増加は、全就業者の増加の60%を占めると予想される。

表1アジア太平洋地域の経済階級別就業者数(1991~2017年、100万人)

図1-1

図1-2

図1-3

図1-4

教育、良質な就業機会、若年者の雇用の質が貧困層と中間層の違いを生む

本論文では、アジア太平洋地域途上国のうち、カンボジア、インド、インドネシア、ベトナムの4カ国に焦点を当て、経済階層(表2)と経済活動参加、教育水準、良質な就業機会、性別、若年者雇用との関係性を分析している。

教育水準については、世帯所得1人1日当たり2~4米ドルの「貧困に近い層」以下の経済階層の世帯出身者の中に中等・高等教育修了者が少ないことから、高等教育、職業訓練の利用可能性を強化し、より高給を得られる生産的な仕事を得るために必要なより高い技能の習得を支援することが重要であるとしている。

雇用の質と安定性については、脆弱な雇用(自営業者および家族従業者)や臨時雇用の蔓延度、生産性の低い農業での雇用、労働時間の十分性を基準に測定した結果、かなりの程度経済階層の違いに関連していることが分かった。このため、インフラ投資を増加し、農業部門から付加価値の高い工業部門やサービス部門に移行させることが決定的に重要である。また、労働市場のガバナンスの改善が労働条件の改善や賃金の引き上げに寄与すると指摘している。

性別については、雇用の質における男女格差が広く存在し、女性は経済階層にかかわらずより困難な状況に直面している。しかし、出身家庭が豊かなほど、教育水準および経済活動参加における男女格差が狭まる傾向があり、中間層に属することが社会や労働市場における性差別の削減に影響を与えるとしている。

若年者雇用については、「貧困に近い層」以下の家庭出身の若年就業者にとっては、高等教育修了が生産的な有給の雇用を得るための重要な課題となっている。学校から職場への移行を円滑にする教育訓練制度の改善、労働市場政策への投資、若年者の企業家精神の育成および若年者の権利保障は、恵まれない若者にとって大きな助けとなる。加えて、総需要の喚起や金融アクセスの改善を推進することができる雇用中心の経済政策が必要であると指摘している。

表2:性別・経済階級別雇用者数
  雇用者の分布(%) 雇用者数合計
(千人)
US$1.25以下 US$1.25
~US$2
US$2
~US$4
US$4以上
カンボジア 36.5 29.0 24.9 9.6 6,622
 男性 36.7 28.6 24.7 9.9 3,339
 女性 36.3 29.4 25.1 9.2 3,283
インド 29.3 37.0 27.2 6.5 374,286
 男性 29.0 37.0 27.3 6.6 278,050
 女性 30.2 37.0 26.8 6.0 96,236
インドネシア 27.4 37.8 27.7 7.1 91,057
 男性 26.7 38.3 28.1 6.9 57,904
 女性 28.5 37.0 26.9 7.6 33,153
ベトナム 20.2 27.5 36.3 16.0 47,161
 男性 19.6 27.1 36.9 16.5 23,701
 女性 20.8 27.9 35.7 15.6 23,459
合計 28.3 36.2 28.1 7.5 519,125
 男性 28.1 36.5 28.0 7.3 362,994
 女性 28.6 35.4 28.1 7.9 156,131

出所:International Labour Organization (2013) “Economic class and labour market inclusion: Poor and middle class workers in developing Asia and the Pacific”

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