介護産業の発展に向け、国務院が「意見」
―施設の充実や労働者の育成強化など

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2013年10月

国務院は9月、「介護産業の発展に関する若干の意見」(以下「意見」)を発表した。「意見」は、ベッド数の増加など介護施設の拡充、施設を政府で設立し民間で運営する「公設民営」の推進、介護労働者の育成の強化などを打ち出している。

特有の問題―「未富先老」「空巣老人」

目下、高齢化が進みつつある中国では、国民の老後の生活保障のあり方が以前にも増して注目されつつある。「意見」によれば、2012年末時点での60歳以上人口は1億9390万人に達しており(図表1)、2020年には2億4300万人、2025年には3億人に到達すると予測されている。高齢化は多くの国が直面している現象ではあるが、中国の場合は「未富先老」、「空巣老人」と呼ばれる特有の問題を抱えている。

「未富先老」とは、経済的に豊かになる前に高齢化が進む状態を指す。多くの先進国は高齢化社会に突入する前に、一人当たりGDPが1万~3万ドル程度に達している。一方で中国の場合は2012年の一人当たりGDPが約3万8000元で米ドル換算にして6000ドル弱に留まっている。そうした背景に加えて、年金制度が必ずしも十分ではないことや物価の高騰もあり、多くの高齢者が老後の準備としての蓄えが十分に整わない中で、高齢化社会へと突入しようとしている。

「空巣老人」は、高齢者夫婦のみで生活する世帯や、高齢者が単身で生活する世帯を指す用語であり、その世帯の割合は都市・農村の双方で増加傾向にある(図表2)。「一人っ子政策」の影響もあり、現在の一般的な家庭構成は2人夫婦が4人の老人と1人の子供を養う状況にある。こうした状況下では家庭内だけで高齢者の世話をすることは困難である。

上記のよう独特な状況の下で高齢化は進行しており、高齢者の生活を保障するために、どのように社会インフラを整備するのか、どのような社会保障制度を制定すべきか、そしてどのような介護サービスを提供すべきかは、大きな注目を集めている問題である。

図1

出所:民政部

出所:全国老齢工作委員会弁公室「2006年中国高齢者人口状況調査」、「2010年中国高齢者人口状況調査」

介護施設の建設を加速

上記の状況への対策として、「意見」で取り組みが表明されたのが介護施設の拡充である。

90%以上の郷鎮区域、60%以上の農村区域に介護サービスを総合的に提供する施設を建設するとしている。また介護用ベッドの数を、2012年の千人当たり21.5床から35~40床にまで増加させることを目標としている。近年中国政府は介護用ベッド数を急ピッチで拡充しており、民生部の統計によれば介護用ベッド数は2011年の千人あたり19.1床から2012年には21.5床まで増加している。

図2

出所:民政部

施設、政府が建設し民間が運営へ

「意見」では公的介護施設の民営化にも言及している。今後、公的介護施設は主に「三無老人」(労働能力・収入・扶養者のいずれもがない高齢者)や低所得者などを優先的な対象として、無料あるいは低額の費用で介護サービスを提供するとしている。公的介護施設は概して「一床難求」(施設に入居しようとしても応募者が多く、長ければ入居までに10年かかる場合もある)の状態にある。施設や介護人員の配置は全て政府主導で実施されており信頼が高い。ただしサービスについては必ずしも満足度が高いわけではない。

一方で私営の介護施設は、費用が高く介護人員も充足していないため、人気がなくベッドもかなり空きある状況である。それでもサービスについては一定の評価を得ている。

上記のように、公的・私営介護施設にはそれぞれ一長一短があるため、両者のメリットを取り入れるべく、政府は「公設民政」の試行に言及している。「公設民営」とは政府が介護施設を設立した上で、民間に運営を委託することを指す。条件が整った地方から随時「公設民営」方式を展開させるとしている。「公設民営」に関する法案は本年の年末にも制定される予定だと民政部は表明している。

なお、北京市は「公設民営」に2005年から取り組んでおり、かなりの成功をおさめている。北京市民政部は、今後新たに設立する介護施設を全て民間に委託するとことを定めた「北京市養老サービスの推進に関する意見」を本年5月に発表している。

介護従事者、20年に600万人に

「意見」はリハビリ・看護およびソーシャルワーカーなどの専門人材の育成に優先的に取り組むとしている。具体的には大学や専門学校で当該分野を専攻した者への、介護産業への従事を奨励している。例えば上海市では意見に基づき、当該産業に就職した新卒者に就職手当を支給することを検討している。また介護サービス産業において、1000万以上の雇用機会を提供するとしている。これらには、介護従事者()だけでなく、その周辺産業において就労する者も含まれる。

介護従事者は需要に対し大きく不足している。民政部が公表した『全国民政人材中長期発展企画(2010-2020)』では、2020年に全国で600万人の介護従事者を確保することを目標としている。しかし、2012年末時点で資格保有者はわずか5万人にとどまっている。介護従事者の離職率は40%~50%程度と高い水準にあり、「民政部が目標を達成するためには2020年までに毎年介護従事者を200万人育成すべきだ」と北京師範大学中国社会管理研究院の張歓副院長は述べている。

介護人材が不足している原因の一つは低い待遇にある。本年9月に「第9回全国介護施設院長フォーラム」で発表された『全国介護従事者賃金指数』によると、介護施設における介護従事者の平均賃金は月2272元である(統計局によれば、2012年都市部民間企業従業員の平均賃金は月2396元)。重労働の仕事で賃金も高いとは言えない状態のため、離職率は慢性的に高い状態にある。

「リバース・モーゲージ」を試験的実施

「意見」はリバース・モーゲージの試験的な実施にも言及した。リバース・モーゲージでは、不動産所有者がローンを全額返済した自宅を担保にして銀行などの金融機関から借入れを行い、その借入れを年金として毎月受け取る。不動産所有者は死亡を以て不動産を金融機関に提供する。契約の期間中は当該の不動産に住み続けられることが特徴である。

実は、「意見」の公布よりも前にリバース・モーゲージは2007年に上海・北京・南京・吉林などの各地の金融機関で試行されたが、利用者が少なくいずれも失敗に終わった。理由は、1つ目に不動産の住居者・売買権利の保有者は高齢者だけでなく別居する家族も含むケースがあり複数人の合意が難しいこと、2つ目に子女が将来的な不動産の相続を期待して反対すること、3つ目に財産は後代に継承すべきだという伝統的な観念の存在である。

  1. 研修期間:全日制職業訓練学校で、初級で180時間以上、中級で150時間以上、高級で120時間以上、技師で90時間以上の研修が必要。
  2. 申請条件(以下の条件のいずれかひとつを備えている者)
    1. 初級:
      • 初級正規育成訓練の規定訓練時間数に達し、卒業証明を取得している。
      • 2年以上継続して見習い業務に従事している。
    2. 中級:
      • 初級職業資格証明書を取得した後、2年以上継続して業務に従事し、中級正規育成訓練の規定訓練時間数に達し、卒業証明を取得している。
      • 初級職業資格証明書を取得した後、5年以上継続して業務に従事している。
      • 労働保障行政部門の審査認定を受け、中等以上の職業学校の卒業証明を取得している。
    3. 高級:
      • 中級職業資格証明書を取得した後、4年以上継続して業務に従事し、高級正規育成訓練の規定訓練時間数に達し、卒業証明を取得している。
      • 中級職業資格証明書を取得した後、6年以上継続して業務に従事している。
      • 高級技工学校又は労働保障行政部門の審査認定を受けて、高等以上の職業学校の卒業証明を取得している。
    4. 技師:
      • 高級職業資格証明書を取得した後、5年以上継続して本職業に従事し、高級育成訓練の規定訓練時間数に達し、卒業証明を取得している。
      • 高級職業資格証明書を取得した後、8年以上継続して業務に従事している。
      • 高級職業資格証明書を取得した高級技工学校の卒業者で、2年以上継続して業務に従事している。

資料出所

  • 統計局、民生部、全国老齢工作委員会弁公室、畢麗傑『中国都市部における高齢者介護の社会化 ─北京市と上海市の事例研究を通じて─』

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