集団的代表制のイノベーション追求
―コーネル大学が研究所を改編

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2012年9月

コーネル大学労使関係スクールは労働組合リーダーを教育プログラムの対象とする従来の研究所を改編した。対象者を労組リーダー以外に拡大するとともに、研究者・教育者と労働組合、企業関係者、政策担当者などの実務家とつなぎ合わせる。労組組織率の低下などを原因とする労働者の集団的代表制の限界が露呈したことや、新たな労働組織の登場などを背景に、集団的代表制のイノベーションを図る試みといえよう。

組織率の低下や多様な組織の登場が背景に

同スクールは9月12日に、これまでの「労働組合リーダーシップ研究所」の組織名称を「労働者研究所」と改称した。研究所の目的を従来の「労組リーダーの育成」から「研究者・教育者と労働組合、企業関係者、政策担当者などの実務家とつなぎ合わせる」ことへ変化させる。これに伴い、教育プログラムの対象者も労組関係者にとどまらず、その層を拡大する。

労働者の声を代弁する集団的な代表制は働く者にとって不可欠な仕組みであると同研究所は強調している。それがなければ、人間らしい労働条件や職場の安全衛生の確保、労働者の民主的参加などが難しいと判断するからだ。

集団的代表制の新たな形を模索

労働者の集団的代表制の中心に位置するのは労組だ。だが、民間企業で労組の組織化を防ぐ動きが拡大し、低賃金や不安定な労働が拡大している。さらに、州政府の公務員労組の権限を削減する動きが広がっている。企業に労組をつくり、団体交渉権を確立するという従来の方式がますます困難化する傾向にある。一方で、労働組合ではない新しい労働組織が姿を表している。

こうした事情を背景にして、同研究所は、集団的代表制の主体として、これまでのように労組のみに焦点を当てるのではなく、拡大する必要があると考えている。対象をワーカーセンターに拡大することに加え、ヨーロッパの労使共同決定の仕組みの検討、国際連帯の在りかたも視野に入れている。

ワーカーセンターはアメリカで労使間の団体交渉を規定する法律である全国労働関係法で認められる労働組合ではない。したがって、合法的な団体交渉を行うことができない。組織するのは、日雇いや個人請負、家内労働者、中小零細企業の従業員など従来の労働組合が組織化を躊躇してきた労働者だ。彼らは、メディアを利用した抗議活動や訴訟などを活用したり、合法的な団体交渉を行うことができなくとも、協力的な経営者を探して協議するなどの方法をとる。合法的な団体交渉を行うことができる労働組合への道を進もうとするワーカーセンターはわずかである。従来の労働組合とは異なる新しい方向を目指している。この動きはアメリカのみならず各国で拡大中である。

「労働者研究所(Worker Institute)」はこのような新しい集団的代表制のかたちを包括することを当初から意識している。

2011年9月にニューヨークで始まったウォール街占拠運動にさまざまな組織が集う姿も組織改編の契機の1つになった。

民主主義の原点として、従来型の革新へ

「労働者研究所(Worker Institute)」は集団的代表性の維持を民主主義の原点を守ることとし、事業を組み立てている。

その内容は、労働組合員が特権的で不当に高給を得ているという偏見を覆すための事実調査を行うことや、ニューヨーク市のオフィスビルの省エネルギー工事をした場合の損益計算と雇用創出効果などの調査を行うほか、従来型の集団的代表制を超えるイノベーションに取り組むといったことなどである。

参考

  • コーネル大学ウェブサイトChronocle Onlin”ILR School Worler Institute hopes to inform public policy and strategic innovation” Aug 21, 2012
  • ”Cornell ILR School Lanuching Institute to Link Labor Educators, Practitioners” Aug 16, 2012

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