派遣労働、業務の明確化と罰則の強化へ
―労働契約法の改正案、全人代に提出―

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年5月

派遣労働者の業務規定などを焦点とする労働契約法の改正案が3月に開催された全国人民代表大会に提出された。派遣労働の可能な業務の明確化と違法行為に対する罰則の強化を柱としている。曖昧な業務規定の拡大解釈による労務派遣が横行しており、いくつかの地方政府はすでに対応策を打ち出している。改正案はその追随策というべき性格を有しており、年内中の成立を有力視する見方がある一方で、派遣労働者を多数抱える国有企業の反発は強く、見通しは不透明だ。

「臨時的」「補助的」「代替的」を具体的に

改正案は3月9日に提出された。現行法は、労務派遣の可能な業務について、「通常、臨時的・補助的・代替的な業務において実施される」と規定している。改正案は、「通常」を削除し、「臨時的」は「6カ月未満の」、「補助的」は「主要業務ではない」、「代替的」は「正社員が学習や休暇などの事情により勤務できない」とより具体的に表現している。可能業務を曖昧に規定している点が、労務派遣の乱用の大きな一因と判断したためだ。「通常」という語句ひとつを見ても、「通常ではないケース」では「臨時的・補助的・代替的」ではない業務でも労務派遣は可能との法的解釈を許していた。例えば、トラック運転手という運送業の企業にとっては「主要・非補助的」に当たる業務でも、法の拡大解釈によって、労務派遣を使用する事例が見られた。

改正案は違法行為に対する罰則の強化も打ち出している。現行法は、派遣元企業に「1000元以上5000元以下」の罰金を課している。改正案は、罰金の額を「2000元以上1万元以下」に引き上げるとともに、その対象を派遣先企業にも広げている。 全人代では、江西省の代表から、「臨時的とは1年を超えない期間とし、それを超えて雇用する場合には派遣先は労働者と雇用契約を締結しなければならない」という直接雇用を義務づける案が提出されたが、改正案には盛り込まれていない。

既に、いくつかの地方政府は対応策を実施している。広東省で現在、議論されている派遣労働者保護の草案には、今回の改正案と同じ「6カ月未満」のほかに、派遣先企業は全労働者の30%を超えて派遣労働者を使用してはならないという上限規制の内容などが含まれている。草案に寄せられたパブリックコメントでは、草案の内容以上に厳しい規制を求める意見が多いという。

全国人民代表会議の常務委員会は昨年7月に、労働契約法の執行状況の調査を開始し、10月に報告書を公表した。特に労働集約型の産業で、労務派遣制度の悪用が目立ち、出稼ぎ労働者の労働契約率が低いと指摘している。

派遣労働者、労働契約法施行を機に急増

労働契約法の施行以前には、労務派遣制度は主に外資系企業で利用されていた。外資系の中国事務所は法的に独立した企業単位と認められていなかったため、中国人労働者を使用する場合、労務派遣制度を活用せざるをえなかったためだ。人的資源社会保障部が窓口となって、労働者を斡旋するケースもあったという。人的社会保障部は、出稼ぎ労働者を国有企業へ紹介もしていた。

労働契約法が2008年に施行後、それ以前よりは解雇などが難しくなったため、直接雇用を敬遠する動きが広がり、それに伴い、派遣労働者が急増した。派遣労働者は、2008年1月時点の2000万人から、2010年には2700万人に増えている。人的社会保障部の高官は、「都市部では、雇用労働者に占める派遣労働者の割合は20%を占めている。諸外国ではせいぜい2~3%だ」と述べている。

かつての企業改革で、大合理化を実施した国有企業がとくに派遣労働者を多数使用している。通信大手のチャイナモバイナルの全従業員50万人のうち、派遣労働者は約7割を占める。国有企業全体では3人に2人の割合という。1998年時点で約3000万人いた国有企業の正規労働者は現在1000万人に減っており、その減少分を派遣労働者が補填している、と指摘されている。派遣労働者の賃金水準は直接雇用労働者よりも低い。人材派遣大手のCIICの調査によると、派遣労働者は直接雇用労働者よりも賃金が約16%低く、職業訓練費なども低く抑えられている。

労務派遣の活用で、社会保険料の負担を軽減する例も見られる。例えば、社会保険料の高額な上海市を避けて、近隣の別地域に派遣会社の拠点を移し、派遣労働者の住居・職場が上海市でも別地域の低額の保険料しか負担していない(上海市は2月に、同市の基準で社会保険料の納入を求める通達を出している)。派遣労働者は農村からの出稼ぎが多いと言われる。そのためもあって、派遣労働の抜本的な問題解決のためには、労働契約法の改正にとどまらず、戸籍制度の改正などが必要だとの声も出ている。

国有企業の反発必至、見通し不透明

全国総工会の関係者は、「労務派遣はかつての国有企業や特定企業の限られた範囲から、民間企業へ幅広く流行してしまった。労働契約法改正案は今年中に施行され、厳しく制限されるだろう」と、改正案に期待をかけている。

しかし、国有企業の反発は必至で、改正案が決まるかどうか、見通しは不透明だ。これまでも、直接雇用者と派遣労働者の「同一労働同一賃金」を求める「工資条例」の制定が、国有企業の反対で何度も頓挫している。「労務派遣条例」「労務派遣規則」など派遣労働者保護の法律制定の動きも見られたが、やはり国有企業の反対で、実現していない。国務院の組織である「国有企業資産管理委員会」(国資委)を通じて、反対活動を展開しているという。

国有企業の賃金は概して民間よりはかなり高額だ(2010年のデータでは、国有企業の労働者の平均賃金は都市部で38359元で、都市集団企業の平均よりも約6割高い)。改正案が通れば、国有企業にとって人件費の増額は避けられない。

全国人民代表会議のウェブページには、「労働契約法は改正されるべきだ」と題する国営メディアの記事が掲載されている。人的資源社会保障部の伊府民部長は、「改革開放以来、企業は経済発展に貢献してきた。これからは、労働法や労働契約法を基に、労働者保護を図る必要がある」と強調している。

参考資料

  • 全国人民代表大会、統計局、各市省政府、経済観察報

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