台湾の高度人材獲得が本格化
―福建省に高付加価値生産モデルの拠点

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2012年4月

福建省は2月、福建省平潭を高度人材獲得の拠点として強化する方針を示した。具体的には交通網のインフラ整備、高度人材への税制優遇などを実施する。狙いは、地の利を活かして台湾の高度人材を呼び込むことにある。労働集約型の産業が集積する深センとは異なる、付加価値が高く競争力のある産業が集積する一大経済地域を目指す。

高度人材、誘致へ優遇措置

福建省は、かねてより進めていた平潭での開発を促進させるため、インフラ整備、企業誘致、高度人材誘致などを実施する。インフラ面では、福建省の中心である福州市からの交通網を整備するほか、現在台北-平潭間を週2回就航している高速船の増便を検討する。

企業に対しては台湾のハイテク企業に対して積極的に誘致するほか、部分的に人民元と台湾ドルの二重通貨制を認める予定。すでにいくつかの台湾企業が平潭に進出しているが、液晶モニターやLEDの製造業等、いずれも付加価値の高いハイテク産業が中心である。

個人に対しては、平潭島に居住して働く場合に住居・社会保障を提供する。また中国と台湾の所得税差により、台湾で勤務するよりも多い所得税を支払う場合には、その差額を還付する。科学技術、金融、高等教育等の分野の高度人材に対しては、住宅を無料で貸し出すほか、3年以上平潭で働いた場合は、住宅を購入する際に補助金を支給する。台湾の大学を卒業した者が平潭で起業する場合には、税制、融資の面で補助する。政府系機関でも台湾の人材を募集する。経済開発局や交通局で人材を募集しており、5年以上の実務経験を持つ者、経営学の修士課程を有する者などを求めている。平潭管理委員会の姜信治委員長は「我々の委員会でリーダーシップを発揮し、平潭の発展政策に貢献できるような台湾の高度人材を呼び込みたい」と述べている。

中央政府もこの計画への支援を表明している。福建省は2015年までにインフラ整備費用として、2500億元を拠出する計画であるが、これとは別に中央政府が、2015年までに8億元の補助金を平潭に対し支給する予定である。第12次5カ年計画でも平潭の開発は明言されており、「平潭を台湾との経済交流・文化交流の拠点とする。台湾からの投資を促進するために、アモイは両岸の金融サービスの拠点とし、平潭は包括的な開放実験区域とする。」と記されている。これらの一連の計画について福建省の蘇樹林省長は「平潭は平凡ではない。平凡ならばそれは平潭ではない」と述べている。

台湾と親密化、急速に経済発展

平潭は福建省の省都である福州市に属しており、市の中心部から南東の方向にあり、大小100を超える島から構成されている。総面積は約370平方メートル。2009年より総合実験特区に指定された。現在平潭と台北を結ぶ高速船が就航しており、約2時間半で結んでいる。

平潭島および福建省は、従来はさほど発展した地域ではなかった。古くは宋の時代に海のシルクロードの起点として発展し、有数の貿易港として栄えていたが、明朝時代に海禁政策が実施されると、発展は停滞した。この頃に福建省から台湾や東南アジアに移住した人々が華僑の源流とされており、福建省は「華僑の故郷」とも言われる。中華人民共和国の建国後は台湾との近さから国家プロジェクトとしての建設計画も敬遠され、国有企業の拠点設置などによる恩恵も得られなかった。しかし1980年にアモイが経済特区に、1984年に福州市が沿岸開放都市に指定されると、外国資本に後押しされる形で発展し始めた。21世紀に入ると、中国経済の急激な成長に注目した華僑が多数帰還し、彼らの投資により福建省はさらに発展した。さらにここ数年は台湾との経済親密化に伴い、台湾資本の投資の流入が発展に拍車をかけており、他地域を凌ぐ勢いで発展している(図)。

また、鄧小平氏による改革開放政策の時代に、人口数万の漁村であった深センが劇的に発展したことや、江沢民氏による上海浦東地区の開発政策、胡錦濤氏による北京や東北部での開発政策が行われたことから、今後福建省で同様の開発が行われ、更なる発展をするのではとの期待も強い。

図:福建省、上海市、北京市、広東省のGDP成長率(%、前年比)

図:福建省、上海市、北京市、広東省のGDP成長率(2002-2011年)

出所:各市省政府、統計局

経済発展「改革モデル」への期待

今回の特区計画により、平潭が深センのように急激に発展するのではとの期待もある。つまり、香港に近いという地の利を生かして発展した深センのように、台湾に近い平潭が今後発展するのではという期待である。しかし平潭は、労働集約型の産業が集積している深センとは異なる、付加価値の高い産業の発展を目指すと見られる。上述の通りハイテク産業を中心に企業誘致を進めている他、医療や教育の分野でも、高度な水準の拠点設置を目指しており、当該分野での台湾からの人材を募集している。平潭管理委員会の周氏は「平潭は、深センやアモイ等の経済特区のような、安価な労働力や輸出に依存する古い発展モデルを真似しない。台湾から高度人材を呼び込むことで、経済発展はもちろんだが環境に優しい地域を構築する。その方針に従う企業には税制で優遇する。長い目で見れば、平潭は単なる保税倉庫から、香港のような自由貿易地域となるだろう」と述べている。

世界銀行は2月に報告書「中国:2030年に向けた改革モデル」を発表している。それによれば、中国にとって経済構造の転換は必須であり、労働集約型の産業から付加価値の高い産業にシフトする必要がある、としている。

参考資料

  • 国務院、統計局、人的資源社会保障部、各市省政府、チャイナデイリー、タイペイタイムズ

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