失業者の職業訓練など柱に雇用対策案
―企業の競争力強化も、財源は消費税アップで

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2012年3月

サルコジ大統領は1月18日、長期失業者に対する職業訓練の充実などを柱とする4.3億ユーロ規模の雇用対策案を発表した。29日には、国際競争力向上策も打ち出した。家族手当など企業負担分を軽減し、財源不足分を消費税(付加価値税)の引き上げで対応する。10月から1.6ポイント引き上げて21.2%とする方針。

1.経済危機に対する雇用対策

経済危機への対応策としての雇用対策案は、労働組合代表、使用者団体代表をエリゼ宮(大統領官邸)に集めた会合で発表された。主な内容は、(1)「部分的就業」の促進、(2)「解雇よりも職業訓練」政策の促進、(3)零細企業に採用された若者の社会保険料使用者負担完全免除、(4)求職者の職業訓練促進、(5)公共職業安定所の職員増員などである。

(1)「部分的就業」の促進

フランスでは、景気の悪化など経済的な理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その従業員を一時的に休業(「部分的失業(chomage partiel)」)させる場合、事業主はその休業期間中、賃金の一定割合を支給しなくてはならない(注1)。今回の対策では、この「部分的失業」に対する助成金支給の決定を迅速化すると共に、休業中の職業訓練受講を促進させることとした。つまり完全な失業者の増加を防ぐために「部分的失業」を促進させるものだが、政府が失業を促進させる訳にはいかないため、「部分的就業(activite professionnelle)」の促進と表現されている。(1.0億ユーロ)

(2)「解雇よりも職業訓練 ( former plutot que licencier)」政策の促進

産業構造の変化などにより衰退傾向にある地域や業種で、企業の近代化やそれに伴う労働者の職業訓練を促進することも、今回の雇用対策に盛り込まれた。これは、産業や労働者を育成することで、解雇を避けることを目的とした政策である。(0.4億ユーロ)

(3)零細企業に採用された若者の社会保険料使用者負担完全免除

従業員数10人未満の企業で、26歳未満の若年者を最低賃金(SMIC)で採用した場合、1年間にわたり社会保険料の使用者負担分を完全に免除する(SMIC以上の賃金の場合は、SMICの1.6倍の賃金まで賃金額に応じて一部免除)。これは、1月18日以降6カ月間に、無期雇用契約か雇用期間1カ月以上の有期雇用契約で採用した場合に限られる。(1.0億ユーロ)

(4)求職者の職業訓練促進

失業者(求職者)への職業訓練促進も盛り込まれた。特に、失業期間が2年を超える長期失業者に対して職業訓練の受講や特殊雇用契約による就業を促すなど、公共職業安定所(Pole emploi)での再就職支援を強化することとなった。(1.5億ユーロ)

(5)公共職業安定所の職員増員

失業者数の急増による業務の増加で、全国の公共職業安定所は人員不足に陥っている。そのため、急遽、全国で1000人を有期雇用契約で追加採用することとした。

これらの措置は、緊急措置として順次実行に移されている。また、財政悪化を防ぐため、財源のための新たな国債発行などは行わず、予算の組み替えなどにより調達するとしている。なお、削減された具体的な予算は不明(注2)。

2.消費税率引き上げを含む国際競争力向上策

サルコジ大統領は1月29日、フランスの国際競争力向上策を発表、翌30日、フィヨン首相によりその詳細が発表された。主な内容は、(1)労務コスト軽減のための消費税の税率引き上げ、(2)競争力をつけるための労使交渉の促進、(3)研修生や見習いの促進などである。

(1)労務コスト軽減のための消費税率引き上げ

生産に要するコストを企業が削減し、国内・国際市場での価格を低下させるために、家族手当(注3)に関する保険料使用者負担を軽減し、企業の労務コストを軽減する。具体的には、最低賃金(SMIC)の2.1倍未満の賃金(手取り月額賃金で2300ユーロ未満)には、家族手当に対する保険料使用者負担分が課されなくなる。また、SMICの2.1倍から2.4倍(2650ユーロ)までの賃金に対しては、同保険料の使用者負担分が免除とはならないが、保険料率は現行より引き下げられる。SMICの2.4倍以上の場合は、保険料率は現行のまま据え置かれることとなる。その結果、賃金が1530ユーロの者の労務コスト負担がおよそ80ユーロ、1750ユーロでは120ユーロ、2300ユーロの場合はおよそ158ユーロ軽減されることとなる(フィヨン首相)。

この措置により、年間でおよそ130億ユーロの財源が減少する見込みであるが、家族手当制度の諸手当の給付は見直されないこととなった。そのため、財源不足分を、消費税(付加価値税)と一般福祉税(CSG:Contribution Sociale Generalisee)の一部の税率を引き上げることで補うとしている。具体的には、現在19.6%の消費税率を1.6ポイント引き上げ、21.2%とし、106億ユーロを確保する(軽減税率は現行のまま)。また、一般福祉税のうち、資産収入に課される税率を2ポイント引き上げ、現行の8.2%から10.2%とし、26億ユーロの増収を見込んでいる(CSGは資産収入の他、勤労収入、年金収入などに課される)。これらの社会保険料使用者負担分の引き下げ及び消費税率・一般福祉税率の引き上げの実施は、今年の10月1日を予定している。

フィヨン首相はこれらの措置に関し、「労務コストの負担となっていた社会保険料の一部を、より広く、経済競争力に有利な財源に移譲するもの」と説明、競争力強化が目的であることを強調している。また同時に、輸入品にも課税し、輸入品と国内製品との価格差を縮小させるとともに、社会保障の財源を確保すると言明した。また同首相は、消費税の軽減税率(注4)には変更はなく、食品や医薬品などの価格に直接的な影響がないことも強調した。これらの措置により、消費税の通常税率が課されている製品の価格は上昇する見込みであるが、生産コストの低下で、国内製品の価格は下落し、それにより、消費者には大きな影響が無いと主張している。さらに、この措置は、フランスにおける製造業の事業所の国外移転の動きを阻止する狙いもある。製造業では80%の賃金労働者がSMICの2.4倍未満の賃金で就業している。そのため、同産業における労務コストの軽減が期待できるという。ただし、SMICの1.6倍までの賃金に対しては、各種社会保険料使用者負担分の減免制度がすでに存在しており、従ってこの措置は、既存の低賃金労働者に対する社会保険料使用者負担分減免策を、中間所得者層にまで拡大したものとも言える。

なお、政府は当初、消費税の税率引き上げではなく社会福祉・付加価値税(TVA sociale )の導入を目論んでいたとも言われる。ところがこれは、実質的には消費税の増税に過ぎないとの批判を受け、家族手当制度における諸手当を現行通り維持し、労務コスト削減を前面に押し出すことにしたものとみられる。

(2)競争力をつけるための労使交渉の促進

フランスでは、就労形態、労働時間、賃金などが産業別の協定に縛られ、企業活動の繁閑に応じて柔軟に対応することが難しい。そこで、労働条件を柔軟に変更出来るようにするため、企業の競争力や雇用に問題が生じた場合、企業内で労使交渉を行い、個々の企業の状況に応じて、労働条件を決定することが出来るようにする方針が明らかにされた。雇用契約上の規定の一時的変更を可能とすることが狙い。フィヨン首相はこれに関し、労働者団体の代表と再度協議の上実行に移す意向であることを明らかにした。

(3)研修生や見習いの促進

若年者の職業スキルの向上を目指し、研修生や見習いの受け入れを企業に促すことも決まった。フランスでは、従業員数250人以上の企業では、従業員総数の4%以上の研修生や見習い(教育機関や職業訓練センターにおける職業訓練と並行して、企業内での就業を通じた実地訓練を受ける者)を受け入れる義務がある。しかしながら、現在、従業員数250人以上の企業で実地訓練を受ける者は、同企業で就労する者の1.6%に過ぎない。また、研修生や見習いの比率が1%未満の企業は半数を超えている。これら研修生・見習い受け入れの義務に違反している企業に対しては制裁金が課せられている。現行の制裁金額は、研修生や見習いの比率が1%未満の企業の場合、支給賃金総額の0.2%(従業員数2000人以上の場合は0.3%)である。同様に、1%以上3%未満の企業は支給賃金総額の0.1%、同3%以上4%未満の企業は支給賃金総額の0.05%となっている。今回の政府の発表によると、研修生や見習いの受け入れを企業に促すため、受け入れ義務比率を5%とすると共に、研修生や見習いの比率がそれに満たない企業に対する制裁金を順次引き上げることとなった。その結果、2015年時点の制裁金額は、研修生や見習いの比率が1%未満の企業の場合、支給賃金総額の0.4%(従業員数2000人以上の場合は0.6%)、同1%以上2%未満の場合は支給賃金総額の0.2%、同2%以上3%未満の場合は支給賃金総額の0.1%、同3%以上5%未満の場合は、支給賃金総額の0.05%に改訂される。

またこの他にも、中小企業の金融支援を強化することや、金融取引に課税する制度を今年8月から導入すること、不動産価格の高騰と住宅不足を解消するための措置などが、今回の国際競争力向上策に盛り込まれている。

出所

  • 海外委託調査員

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