都市と農村の所得格差、2年連続で縮小
―2011年、それでも3.13倍
中国統計局の発表によると、2011年の都市と農村の所得格差は3.13倍だった。格差は相変わらず大きいものの、2年連続で前年より縮小した。欧州諸国の金融危機による輸出低迷、沿岸部の高賃金を嫌う企業の内陸部進出などが原因と見られている。
農村住民、賃金と農産物価格が上昇
1月、中国統計局は昨年の都市と農村それぞれの所得の状況について、サンプル調査(都市:6.6万人、農村:7.4万人を対象)の結果を発表した。それによると、都市住民の所得の平均は21810元、農村住民は6977元であった。都市と農村の所得格差は3.13倍で、昨年の3.23倍から0.1ポイント減少した(図1)。
都市住民の所得は、昨年比で14.1%上昇した。インフレ要因を除くと、実質的には8.4%の増加。主な要因は最低賃金の引き上げである。低所得者層・高所得者層の所得は著しく伸びたが、中間層の所得の伸びは相対的に低調であった。
一方、農村住民の所得は、昨年比で17.9%上昇した。インフレ要因を除くと、実質的には11.4%の増加。所得上昇の要因のうち、賃金の上昇分の寄与度は50.3%であった。賃金上昇の主な要因は、出稼ぎ労働者の賃金の急激な上昇である。農産物による純収入の平均は、1897元で10.0%増加した。豊作のほか、豚肉を初めとする農産物の価格上昇が影響した。その他では、農村養老保険の加入増加も要因である。
なお、日本の所得格差を都道府県別でみると、最も所得の高い東京都と最も低い県で2倍強となっている。中国の都市と農村格差は、先進国と比べると極めて高い水準である。
図1:都市と農村の格差の推移(倍)
出所:中国統計局
格差、80年代半ばから拡大傾向
都市と農村格差は、長期的には上図の通り拡大傾向にある。1978年の鄧小平による「改革開放」政策実施以後、1985年ごろまでは格差は縮小傾向にあった。これは農村部での生産責任制の導入成功により、農家の収入が増加したためである。この間の1983年の1.82倍が格差の最小記録だった。しかし1985年のいわゆる「先富論」に基づき、沿岸部地域での特区制定などが実施されると、まさに沿岸部の地域が先に富む形で格差は拡大した。1990年代に入ってもその流れは変わらず、むしろ1992年の「南巡講和」によって「改革開放」の継続が確認され、その後1990年代半ばまで格差は拡大し続けた。1990年代後半に入ると、第9次5カ年計画(1996~2000年)で重点開発地域として内陸部が5期ぶりに指定され(但し沿岸部と併記)、西部地域での開発政策とも相まって格差は若干縮小した。21世紀になると、2001年のWTO加盟をきっかけとして海外向け輸出が爆発的に増加し、GDPも2桁台の高い水準を維持した。しかしそれに伴い都市と農村格差は拡大し、2007年には「改革開放」以後最高の水準となる、3.33倍を記録した。以上のように、歴史的には市場開放・農村開発と格差の間には密接な関係があると言える。なお、格差は2008年にわずかだが縮まり、2009年には再び拡大し、2010年に縮小。今回、2年続きで縮まった。
欧州の経済危機と工場の内陸移転が原因
直近の格差縮小の背景には、欧州諸国の財務危機に伴う輸出産業の低迷や、沿岸部の高賃金を嫌った工場の内陸部移転も関係していると見られる。
中国の欧州向け輸出は毎年順調に増加していたが、直近では若干の減少が見られる(図2)。これにより工場の稼働状況が芳しくなくなっており、沿岸部の人々の所得にも影響している。国家発展改革委員会の陳主任は、「中国の輸出産業は、2012年の上半期に厳しい状況に直面する。労働費用の上昇により、繊維や靴などの労働集約型商品の輸出は減少するだろう。一方で機械製品の輸出は引き続き増加するだろう」と述べている。
また、ここ数年の沿岸部での継続的な賃金の上昇を嫌い、工場が沿岸部から内陸部へ移転する動きも見られる。内陸部の地方政府も工場誘致に積極的に取り組んでおり、こういったことも企業の工場移転に拍車をかけている。工場の内陸部移転に伴い出稼ぎ労働者の状況にも変化が見られ、河南省社会科学院の谷副院長は「出稼ぎ労働者は、家族を養えるだけの賃金が得られるのなら、多少賃金が下がったとしても、沿岸部よりも地元の内陸部で働くことを望む。出稼ぎ労働者の内陸部への回帰は今後数年の傾向となるだろう。労働集約型産業での産業構造転換が続くのならば、この傾向はより強まるだろう」と述べている。
図2:中国の対ユーロ圏輸出額の推移(前年同期比、%)
出所:EUROSTAT
カギ握る農村部開発政策と市場開放政策
ここ2年間は格差が縮小傾向にあるものの、今後の見通しについては不透明である。上述のように、中国政府は農村部での所得が上昇した要因として、出稼ぎ労働者の賃金上昇と農作物の豊作を挙げている。しかし前者については、結局は都市部頼みの収入のため、それだけで都市農村格差が今後も縮小し続けるとは言い難い。一方、後者については一時的なものであるので、継続しうるとは考え難い。
そのため、今後の格差縮小の鍵は、農村部開発政策と市場開放政策にあると言える。中国政府は第12次五カ年計画(2011~2015)において西部開発を明言しており、具体的には交通インフラの整備や戦略的新興産業の拠点設置など実施するとしている。一方市場開放政策としては、現在、自動車保険の海外企業参入解禁、国内証券市場への外国人投資家参入要件の緩和などが検討されており、今後金融市場を中心に市場開放が進むと見られる。
参考資料
- 中国統計局、新華社通信、中国日報、EUROSTAT
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