年金財政、地域間の格差拡大
―社会科学院が報告書
中国社会科学院の報告書によると、地方政府ごとに分離して管理・運用している年金財政は、2010年、15の省・地区で赤字を記録し、赤字額の総計は679億元に達する。急速な少子高齢化に加え、経済発展の地域格差、国有企業改革の過去の経緯などが影響している。保険料の負担増は困難だと見られ、年金財政の株主市場への投資解禁、国有企業資産の基金への移譲などが、解決策として検討されている。
不足額は679億元、東北部で顕著
中国社会科学院は昨年12月、「中国養老保険発展報告2011」を公表した。それによると、2010年に年金財政が赤字であった省・地区は15に上り、その合計額は679億元であった。不足分については、例年通り国家財政より補填が実施された。特に顕著だったのは東北部で、遼寧省と黒竜江省が100億元以上、天津市と吉林省で50億元以上の赤字であった。
公的年金は省ごとに管理・運用
中国の定年退職年齢は男性が60歳、女性は幹部が55歳、一般労働者が50歳となっており、年金は定年退職直後より支給される。年金制度は都市部と農村で分離されているのが特徴だ(図1)。基本的に都市部の年金制度は社会プールが賦課方式、個人プールが積立方式となっている。今回報告書で指摘されたのは、社会プールの部分である。この部分は使用者により拠出されており、給付に不足が生じれば国家財政から補填される(図2)。中央政府はそのための基金として全国社会保障基金を2000年に設立している。なお労働者が拠出する個人プールの部分は、加入者間で共有されておらず、年金と言うよりは貯蓄の性格が強い。
公的年金の運営・給付は地方政府が行っている。そのため財源は地方ごとに分離している。企業年金は2004年までは地方政府が運営していたが、2004年の法改正に伴い民間金融機関への移行および確定拠出年金制度が導入された。公的年金の運用は、原則として債券・預貯金等の比較的安全な資産に限られている。企業年金については、株式等での運用も行われている。
図1:中国の年金制度概略
図2:都市基本養老保険の納付・給付概略
原因は経済発展格差、国有企業の厚遇
年金財政に地域間格差が生じている理由としては、二点が挙げられる。
一点目は経済発展格差である。沿岸部と内陸部とでの経済発展の格差は、そのまま年金財政における格差に繋がっている。中央政府は第12次5カ年計画において西部開発の強化を明言しているものの、その発展状況には依然として大きな隔たりがある。
二点目は国有企業の厚遇である。そもそも現在の公的年金制度は、1960年代後半より国有企業が国に代わって運営・給付を実施したことに端を発する。その後1991年に国有企業から地方政府に運営が引き継がれた。民間企業の従業員が公的年金に加入可能となったのは1998年からである。そのため現在の受給者は現役世代と比べて相対的に国有企業での労働経験者が多く、彼らが厚遇されている状況だ。先述のように東北部で特に赤字が顕著なのは、東北部に国有企業の工場等が集中しているためである。
株式による運用の解禁、国有企業資産の割り当てを検討
財源不足の解決策としては、二点が論議されている。
一点目は年金財源の株式市場への投資である。中国証券規制管理委員会の郭委員長は、「財源を株式市場に投資すべきだ」と述べている。上述のように、基本養老保険の投資先は債券等の比較的安全な資産に限られている。そこで株式市場への投資も解禁して高いリターンを上げることにより、財源不足に対処するものだ。この案は、インフレに対しても効果的だ。中国はここ数年恒常的なインフレの状況にあるが、株式は比較的インフレに強い金融商品であるため、それに対応できると言われている。近年の債券での運用は、見かけ上は運用益が生じているものの、物価上昇率を加味すると実質的にはマイナスであるケースもあった。しかしながら、株式での運用はリスクが高いとして反対意見も強い。
二点目は政府が保有する国有企業資産の社会保障基金への割り当てである。全国社会保障基金の載会長は「もし国有企業資産の全国社会保障基金への割り当てが行われれば、それによって余裕が生じるので、市場で株式を購入できるだろう」と述べている。背景には、国有企業は国家との結びつきが強いため、その活動によって得られた資産が国家の他の活動に流用されることも、ある程度は許容されるべきだとの考え方がある。なお既に実施されている政策として、国有企業が新規株式公開を実施する際に、その公開した株式の10%を全国社会保障基金へ拠出することを義務づけるとする政策がある。
一方、保険料率の引き上げは、これまでも度々引き上げられたことなどを理由に、解決策としては議論されていない。社会プールの負担は使用者側のみのため、更なる引き上げは景気に悪影響だとの声が強い。そもそも財源が余剰な省では、現行制度で当分は問題ないため、解決策を議論する必要がないのだ。今回の議論では、保険料率の引き上げという目に見える形での負担を伴わない対策が議論されている。
将来的には財源の全国統合を目指す
地域間格差の解消のために、将来的な年金財源の全国統合を目指すとしている。昨年施行された「社会保険法」では、条文中に「基本養老保険基金は、段階的に全国一元化を実現する。」との文言が盛り込まれ、将来的な年金財源の全国統合が示唆された。しかし、財源が潤沢な地域からは他地域の不足額を負担しなければならないため、反対意見が根強い。さらに、この問題は戸籍制度により人々の自由な移動が制限されていることとも関連しており、年金だけでなく他の諸問題と包括的に解決する必要がある。
また年金制度の持続的な維持のためには、少子高齢化対策が不可避である。報告書では、現在は1人の年金生活者を3人の労働者が支えているが、2015年にはこの値は2人に、30年後には0.5人になると予測している。高齢化の速度は諸外国以上であり、建国100周年となる2049年の60歳以上人口は34.4%で、同時点での米国の28%を超える見通しだ。昨年河南省は、両親が共に一人っ子であれば第2子を容認する条例を施行した。これに習い全ての省・市で、一定条件下で第2子の出産が容認され始めている。
参考資料
- 人的資源社会保障部 財新網 中国社会科学院
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