最低賃金の伸び、鈍化し始める
―労働需給は逼迫、背景に工場移転への懸念―
経済成長の減速が見られ出した中国で、最低賃金の伸びにも鈍化の兆しが出ている。求人倍率は1倍を超えており、労働需給の逼迫は続いている。にもかかわらず、最低賃金の上昇が鈍り出した背景には、賃金の高止まりを理由に、沿岸部の工場が内陸部や東南アジア諸国へ移転し出したことに対する懸念があるようだ。
広東省では実施を棚上げ
最低賃金の伸びが鈍化に転じている。今年上半期は16の省・市が最低賃金を引き上げたが、下半期は10月現在で吉林省・海南省・福建省の3地域にとどまっている。昨年から今年上半期にかけて各地で最低賃金引き上げが相次いだことと比べると、引き上げはやや一服したと言える。
輸出向け工場が集積する広東省では昨年末に最低賃金引き上げが協議され、具体的な引き上げ額も提示された。しかし、経営者側の反対もあり、実施は棚上げされ、その後1年近く経過した今も状況に変化はない。内陸部では引き続き最低賃金が上昇し続けているものの、沿岸部ではやや高止まった感がある。
平均賃金についても、引き続きいずれの地域でも上昇傾向にはあるものの、インフレの影響を考慮すれば上昇は緩やかになりつつあると言える(表1)。
表1:インフレ調整後平均賃金上昇率 (都市非私営企業、単位:%)
出所:統計局
求人倍率、1倍超が続く
一方、求人倍率は上昇傾向にある。人的資源社会保障部は10月、全国100都市の公共職業案内所で調査した労働市場の状況について公表した。それによると2012年第3四半期の求人倍率は1.05倍であった。金融危機後一時的に落ち込んだものの、2010年以降は1倍を超える状態が続いている(表2)。地域別に見ると、中部地域がとりわけ好調だ。求人倍率は常に東部が最も高い状態にあったが、昨年後半以降は中部地域がそれを上回っている。求人数自体も増加しており、前年同期比の2012年第3四半期求人数は東部で1.6%の減少、西部で8.6%の増加であったのに対して、中部は11.3%の増加だった。
表2:全国および各地域の求人倍率(単位:倍)
出所:人的資源社会保障部
沿岸部の賃金、国際競争上で臨界点に
賃金の上昇を受けて、工場の移転が徐々にではあるものの沿岸部を中心に発生している。特に珠江デルタ地域の繊維業にその傾向が強く、既にいくつかの外資系繊維・縫製企業が撤退し、東南アジアに工場を移転している。その一方で精密機器を扱う企業では成都・四川などの中国内陸部に移転する傾向が見られ、そのことが出稼ぎ労働者の帰還も促している。このように産業ごとに様相は異なるものの、いずれにせよ沿岸部では産業・雇用が流出しつつあり、そのことが相対的な求人倍率の低迷、賃金の伸びの鈍化、最低賃金の据え置きなどをもたらしている。そもそも現在の沿岸部の賃金水準は国際競争上の臨界点にあり、当該地域は新たな戦略が求められているとの声もある。
参考資料
- 人的資源社会保障部、統計局、チャイナデイリー
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