職域年金への自動加入制度、10月にスタート
―新たに430万人の加入見込む
中低所得層の職域年金制度への加入促進を目的とする自動加入制度が、10月より実施された。職域年金に加入していない被用者に、雇用主が提供する企業年金か国が設けた年金基金への加入の権利を付与するもので、政府は年末までに60万人、2015年までには430万人が新たに職域年金制度に加入するとみている。
政府の推計では、現在、国内で1100万人の労働者が引退後の生活を支えるために十分な貯蓄をしていないとみられている(注1)。統計局が9月に公表した職域年金加入者の2011年の調査結果によれば、現役世代の加入者は2000年の1010万人から820万に減少、とりわけ民間部門では570万人から290万人とほぼ半減している(公共部門では440万人から530万人に増加)(注2)。また、雇用年金省の分析によれば、2011年時点で職域年金に未加入の労働者は1350万人を数え、うち1230万人が民間部門の労働者だという。加入者比率の低い産業は、農林水産業(19%)、流通・ホテル・レストラン業(28%)、建設業(33%)など。また、全年齢層で加入者比率は減少傾向にあるが、若年層でとりわけ顕著だ(注3)。
自動加入制度は、低中所得層に職域年金相当の制度を提供する手段として、前労働党政権が導入を進めていたものだ。従業員への職域年金の提供の有無は従来、雇用主に一任されていたが、同制度の導入により、全ての雇用主に被用者の職域年金相当の年金加入に対して拠出を行なう義務が発生する。適用対象は、22歳から年金支給開始年齢までの被用者で、年間の給与額が8105ポンド(注4)を上回っている者。雇用主は、政府の定める基準を満たす自社の年金制度か、公的な基金として設置された全国雇用貯蓄信託(National Employment Savings Trust-NEST)に加入させることを選択し、そのうえで対象者はそのまま加入するか、適用除外を受けるかを選択する。適用除外を選択した労働者も、改めて加入を希望することができ、また3年に1度は再び自動的に制度が適用される。なお、雇用主が金銭の支払い等により従業員に適用除外を選択するよう勧奨することや、採用時に適用除外の選択を条件とすること等は禁止されている。
対象企業は段階的に拡大し、2018年2月までに全ての企業に適用される(注5)。また拠出率についても、2012年には労使でそれぞれ給与額の1%ずつ(計2%)、2017年には労使が2%ずつで政府による補助(実質的な税控除による)が1%(計5%)、最終的に2018年10月以降、労働者4%、使用者3%、政府が1%(計8%)となる。
政府は自動加入制度の導入により、対象となるとみられる1100万人のうち、2015年までに新規加入を見込んでいる430万人を含め、600~900万人の貯蓄が増加すると予測している。
注
- Estimates of the number of people facing inadequate retirement incomes (PDF:42.5KB)
", Department for Work and Pensions
- Occupational Pension Schemes Survey, 2011
", Office for National Statistics。なお、2009年に現役世代加入者と受給者のバランスが逆転、現在は受給者が920万人と現役世代を上回っている。このほか、病気など何らかの理由で拠出を停止したが、支給開始年齢には達していない者が980万人いる。
- 22-29歳層で、1997年の43%から2012年には24%。なお男女別には、男性が59%から44%、女性が49%から39%。なお、いずれも民間部門のみ。
- 2012年時点の所得税課税額の下限で、毎年改定される予定。なお、雇用主の拠出は、5,564ポンド(国民保険への加入が義務付けられる所得下限額)から42,475ポンド(国民保険料が課される所得の上限額)までの給与が対象となる。なお雇用主には、従業員に対する自動加入の適用を最長3カ月まで遅延することが認められている。ただし、この間に従業員が加入を希望した場合はこれを認め、必要に応じて拠出を行なわなければならない。
- 2012年10月の導入時点では、加入者数が12万人以上のスキームが対象となり、11月に5万人以上、翌年1月に3万人以上など、順次対象範囲を拡大する。2014年2月までの期間で250人以上規模、2014年4月~2015年4月の間で50~249人規模、2015年5月~2017年4月の間で50人未満規模、次いで2017年5月~2018年2月の間に、2012年4月以降に設立された企業が対象となる。
参考資料
- Department for Work and Pensions
、Office for National Statistics
、HM Revenue and Customs
、UK Parliament
ほか各ウェブサイト
参考レート
- 1ポンド(GBP)=127.23円(※みずほ銀行ウェブサイト
2012年10月5日現在)
2012年10月 イギリスの記事一覧
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- 職域年金への自動加入制度、10月にスタート―新たに430万人の加入見込む
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