派遣労働、曖昧な定義による混乱や悪質企業が横行
―国有企業多い吉林省、中央に先行して対策実施へ
中国の派遣労働法制は2008年施行の「労働契約法」により規定されている。同法施行から3年が経過し、派遣労働の様々な問題がクローズアップされている。「一時的・補助的・代替的」の業務の定義が曖昧なことによる混乱や悪質な業者の横行などがその内容だ。東北部の吉林省では中央政府に先行して対策を講じ始めた。東北部では国有企業の比重が重く、その国有企業は経営合理化のため派遣労働者を多数使っており、派遣労働者問題が他の地域よりも深刻なためだ。
派遣労働者を労働契約法で規定
中国における派遣労働は、社会の需要に応じて登場した。1990年代の国有企業改革の結果、多数の失業者が発生したが、政府は就業対策のために、民間企業の派遣事業を認めざるを得なかった。また、2001年のWTO加盟後は、沿岸部での輸出型産業が急速に成長し、沿岸部での労働需要が高まった。この際には内陸部の地方政府が派遣業務を行い、沿岸部での労働需要に応えるとともに、内陸部の失業率低下に貢献した。そして2008年1月、人的資源社会保障部は「労働契約法」を施行し、このなかで公式に派遣労働者の扱いについて規定した。さらに同年の9月には「労働契約法実施条例」を発表し、派遣労働に関するより詳細な規定を定めた。労働契約法においては11の条文が、労働契約法実施条例については5の条文が派遣労働について規定している。
派遣労働制度の問題点
人民日報は12月1日付の新聞において、「派遣制度の乱用を防ぐ」と題する記事を掲載した。記事においては、人的資源社会保障部が制定した派遣労働法制を分析し、その問題点や改善策を掲載した。この記事は人的資源社会保障部が発行する「中国労働保障新聞」のホームページにも掲載された。当記事では現行制度の問題点として、四点を挙げている。
一点目は、派遣労働者の行える業務として定義されている「一時的・補助的・代替的」という定義が極めて曖昧であることだ。そのため使用者には、派遣労働者の適用条件に合致するか否かが判断できず、混乱するケースがある。
二点目は、労働災害が発生した際の責任の所在の不明確さだ。直接雇用であれば責任は使用者にあるが、派遣労働の場合は、労働契約法において派遣先・派遣元の双方が責任を負わなければならないと規定しており、その責任の所在・配分が不明確となっている。
三点目は、行政監督を行う人員の不足である。法の順守のためには、行政官による適切な監視が求められるが、人手不足のため十分に監視しきれていないのが現状だ。労働契約法が遵守されているか否かを監視する人員は、現在約1700名存在するが、増員すべきだとの声が強い。
四点目は、悪質な派遣企業が多数存在していることである。2008年の労働契約法施行以来、労働争議の件数は劇的に増えたが(図)、これは派遣企業の増加と無関係ではないと言われている。つまり悪質な派遣会社に雇用されている労働者が、労働争議を行う傾向にある。ガバナンスが十分に機能していない派遣会社は、良質な派遣会社からもその取り締まりの強化が期待されている。
以上の四点の問題点に対して、人的資源社会保障部の高官はいくつかの対応策を述べた。内容は、違法・悪質な派遣会社の取り締まりの実施、派遣先企業に対する法令順守の検査、広報活動による法令順守の要請などである。
図 労働争議の件数(当局受理ベース、単位:件)
出所:中国統計局、人的資源社会保障部の資料より作成
吉林省、業務規定の明確化など契約法から踏みこむ
法令順守のチェックや広報活動の強化など、具体策を伴わない中央政府の対応の一方で、地方政府レベルでは対策が進んでいる。天津市が2011年9月より「天津市労務派遣管理弁法」を施行したほか、派遣労働者の多い吉林省では2012年1月より「吉林省労務派遣管理弁法」を施行した。いずれの地域も労働者保護のために、具体的な対策に取り組むとしている(表)。
吉林省が上記の法律を定めた背景には、国有企業の存在がある。吉林省を含む東北部では、国有企業の生産拠点が数多く存在している。国有企業は経営合理化のために実施したかつての大量リストラ以来、派遣労働者を多数抱えており、その数は全従業員の3分の2を占めると言われている。吉林省は国有企業である自動車メーカーの本社が存在するなど、国有企業の製造拠点が多数存在しており、派遣労働者の保護は他地域以上に重要な課題となっている。
吉林省が施行した法律の特徴は、今まで曖昧だった派遣労働者の行える業務を、より明確に規定した点である。「吉林省労務派遣管理弁法」では派遣業務を臨時的・補助的・代替的な業務と規定した上で、臨時的とは期間が1年未満の業務を指すと明示している。また補助的とは、その労働者が実際に作業を行い他の労働者を管理する業務ではないこととし、代替的とは、直接雇用の労働者が病気休暇・出産休暇・兵役・けがの治療などにより業務を行えない際にその業務を代替する事を指すと明確化した。労働契約法の内容から、一歩踏み込んだものと言えよう。
名称 | 労働契約法 | 天津市労務 派遣管理弁法 |
吉林省労務 派遣管理弁法 |
---|---|---|---|
施行時期 | 2008年1月 | 2011年9月 | 2012年1月 |
派遣労働者が行える業務 | 臨時的・補助的・代替的な業務 | 記載なし | 臨時的・補助的・代替的な業務。臨時的とは、期間が1年未満の業務を指す。補助的とは、その労働者が実際に作業を行い、他の労働者を管理する業務ではないことを指す。代替的とは、直接雇用の労働者が病気休暇・出産休暇・兵役・けがの治療などにより業務を行えない際に、その業務を代替する事を指す。 |
派遣元企業と労働者が労働契約を締結する際に、契約解除条件の契約書への記載義務 | 規定なし | あり | あり |
同一労働同一賃金について | 企業は同一労働同一賃金を遵守しなければならない | 企業は給与・福利・社会保険のいずれにおいても同一の労働を行う者に対しては同一の扱いをしなければならない | 企業は同一労働同一賃金を遵守しなければならない |
派遣元企業と派遣先企業の契約の形式について | 規定なし | 監督官庁が指定するフォーマットで契約しなければならない | 規定なし |
派遣元企業と労働者の契約の形式について | 規定された内容を記載しなければならない | 監督官庁が指定するフォーマットで契約しなければならない | 規定された内容を記載しなければならない |
法律の有効期限 | なし | 2016年9月を以て廃止 | なし |
出所:人的資源社会保障部
参考資料
- 人民日報、人的資源社会保障部、天津市・吉林省政府、統計局
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