新たな雇用支援策「ワーク・プログラム」導入
―長期失業者・就業困難者を対象に

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2011年7月

政府は6月10日、長期失業者や就業困難者を対象とした新たな雇用支援策「ワーク・プログラム」を導入した。既存の複数のプログラムを統合の上、実施を民間業者や非営利団体などに委託。プログラム参加者の困難の度合いや雇用が持続した期間などの成果に応じて委託費を支払うもので、具体的な支援内容は請負事業者の自主的な取り組みに委ねる。政府は5年間でおよそ245万人の参加を見込んでいる。

成果に応じて委託費の支払額を決定

ワーク・プログラムは、一定期間を超えて失業状態にある求職者手当受給者ならびに就業困難者向け給付制度の受給者を対象に、グレートブリテン(イングランド、ウェールズ、スコットランド)で実施されるもの。前政権による各種の就業支援プログラムを単一のプログラムに統合し、民間企業や非営利団体などに支援事業を委託して、支援内容も一任する形を取る(注1)。地域毎に入札によって決定される元請事業者(注2)は、さらに各地域の専門的な企業・非営利団体等の下請け組織を通じて支援事業を実施する。

プログラムの対象者は、年齢や境遇など就職が困難な度合に応じて8グループに分けられ、給付の受給期間など所定の条件に応じてジョブセンター・プラスから各元請事業者に紹介される。参加期間は最長で104週(2年間)。プログラム終了時に仕事が得られておらず、給付を申請する場合は、再びジョブセンター・プラスによる支援に戻ることになる。

グループ 対象者 委託開始時期* 参加義務
1 失業者
(求職者手当受給者)
18~24歳 9カ月後** 義務
2 25歳以上 12カ月後** 義務
3 非常に不利な条件から早期の参加が必要な者(大きな困難を抱える若者、ニート、犯罪歴のある者) 3カ月後 状況により義務または任意
4 就労不能給付から最近移行した者 3カ月後 義務
5 就労困難者
(雇用・生活補助手当***受給者)
拠出制または所得調査制手当の受給者で、就労関連活動グループに属するが短期的には就労が困難な者、または支援グループに属する者 随時 任意
6 所得調査制手当の受給者で、就労関連活動グループ(3カ月以内に就労可能になると見込まれる場合)または支援グループに属する者 随時 状況により義務または任意
7 就労不能給付から最近移行した所得調査制手当の受給者で、就労関連活動グループ(3カ月以内に就労可能になると見込まれる場合)または支援グループに属する者 随時 状況により義務または任意
8 就労困難者
(就労不能給付または所得補助受給者)
就労能力評価を受けていない者**** 随時 任意

* 各種手当の受給開始からの期間。

** 従来のプログラムでは、若者向けニューディールが6カ月後、成人向けが18カ月後、これらを統合したフレキシブル・ニューディールが12カ月後となっていた。

*** 就労困難者向け給付制度として2008年10月に導入。健康上の問題の有無よりも就労に必要な能力に注目した「就労能力評価」に基づき、申請者を(1)就労関連活動グループ(健康上の問題が軽度で就労に移行しやすい者)、(2)支援グループ(重度の健康上の問題がある者)及び(3)就労可能なグループ(雇用・生活補助手当の受給は不可)に区分して、受給の可否や条件を判断するもの。国民保険への拠出に基づく拠出制と、低所得者向けの所得調査制がある。

**** 2014年までに求職者手当もしくは雇用・生活補助手当に移行予定。

参考資料:"The Work Programme - Invitation to Tender, Specification and Supporting Information"(2010)、"Notification to bidders on changes to requirements in work programme - 28 January"(2011)、DWP

同プログラムの大きな特徴は、成果に基づいた委託費の支払い制度を新たに導入した点にある。支援自体よりも、参加者が仕事に就き、雇用が一定期間以上継続していることに対して、支払額が決定される。支払い条件は全国一律で、対象者の参加時点(attachment fee-400~600ポンド)、雇用の継続・累積期間が基準に達した時点(job outcome payment-若年及び成人の求職者手当受給者は26週、それ以外のグループは13週で、1000~3500ポンド。受託事業者により異なる。)、以降雇用が継続している4週間毎(sustainment payment-170~370ポンド×13~26回)に、支払額が加算される。さらに、若年及び成人の求職者手当受給者(グループ1・2)及び所得調査制雇用・生活補助手当の受給者で、3カ月以内に就労が可能とみられる就労関連活動グループ(グループ6)については、これらの層が支援を受けない場合に想定される就業率を設定、これを30%以上上回った分について報奨金(incentive payment-1000ポンド)が支払われる。ただし、この基準を10%以上上回ることが出来ず、改善も見込めない場合には、契約が打ち切られる可能性もある。

なお、参加時点の支払いは年々減額の上4年後には廃止、また雇用期間が基準(26週・13週)に達した時点での支払いも、3年目以降は年10%ずつ減額されることが決まっており、これ以降の継続的な雇用に対する支払いの比重が高まることになる。元請事業者との契約期間は7年間(注3)、成果に応じて委託費が変動することから、想定される予算額は30億~50億ポンドと幅がある。うち一部は、プログラム実施により節約が見込まれる将来の給付予算の節約分が充てられる。同時に、欧州社会基金(教育訓練等を通じた雇用促進策に対するEUの補助制度)も財源の一部に充当される。

支援が困難な対象者・地域が放置される可能性も

業界団体や使用者組織等からは、請負事業者に支援内容に関する裁量が認められていることや、成果ベースの委託費支払い制度などを歓迎する意見も見られる(注4)。しかし一方で、とりわけ成果に基づく支払い制度を中心に、プログラムの有効性を疑問視する声も強い。

その一つは、事業者が就職しやすい参加者を選択的に支援するのではないか、との懸念だ。雇用状況が未だ厳しい中で、継続的な雇用の実績により利益を上げるために、事業者が就職困難者や高失業地域の支援を放棄して、より就職が容易な層・地域を優先する可能性が危惧されている。特に、昨年から開始されている就労困難者向け給付(就労不能給付)受給者の受給資格の再評価作業を通じて、支援の難しい求職者や就労困難者は今後ますます増加すると見られる。政府は、難易度に応じた支払い条件の設定によりインセンティブを高めたとしているが、庶民院の雇用年金特別委員会をはじめ、その効果を危ぶむ声は多い(注5)。

関連して、委託に係る支払条件が厳しいことも、支援事業者の参加を困難にしているとみられる。制度上の委託額は、若者向けプログラムで参加者一人当たり最高4810ポンド、また最も支援が困難と位置づけられる所得調査制の就業困難者向け給付受給者に対するプログラムで最高1万3720ポンドとなる(いずれも初年度、報奨金を含む)。しかし、非営利団体Inclusionの試算によれば、実際には雇用の継続や就業率などの条件を満たすことは難しく、結果として一人当たりの平均は1200ポンド程度に止まるという。教育訓練プロバイダーの業界組織であるAELPも、現在の支払条件は持続可能とは言い難いとして、政府に再考を求めている。政府も、一連の支払条件については見直しの必要が生じる可能性を認めているところだ。

さらに、一部の大手民間企業へのシェアの集中など、担い手の問題も指摘されている。政府は、下請事業者として少なくとも非営利団体約300組織がプログラムの実施に参加することを想定しており(注6)、政府自らが提唱する「大きな社会」(中央政府による公共サービスを削減、自治体やコミュニティにシフトさせるというコンセプト)を促進させるものと位置づけている。しかし、Inclusionの試算によれば、元請事業者18社のうち大手民間企業4社が参加者全体の53%を扱うことになり(注7)、こうした大手企業は費用節減のため、非営利団体を下請け業者として活用せずに自社組織で事業を実施する傾向にあるという。既に、従来のプログラムに携わっていた非営利団体が、新たなプログラムからの資金を得ることが出来ずに、組織縮小や閉鎖に直面している事例も現地メディアで報じられ始めており、こうした組織がこれまでに蓄積した支援のノウハウなどが失われることが懸念されている。

参考資料

参考レート

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