オハイオ、州民投票で公務員労組権利制限の州法を廃止
―他州にも影響必至

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2011年12月

オハイオ州の公務員労組の団体交渉権を制限する州法について、州民投票が11月8日に実施され、廃止61%、存続39%の大差で、廃止が決まった。同様の法律が2011年以降に可決されているウィンコンシン、インディアナ、ペンシルバニアの他州の今後の動向にも影響は必至と見られている。

2011年2月以降、州公務員労組の権利制限に関する法律はオハイオ州だけでなく、ウィスコンシン州、インディアナ州、ペンシルバニア州でも可決されていたが、今回のオハイオ州の州民投票結果は他州にも波及効果をもたらす可能性がある。

共和党躍進で各州で公務員労組攻撃

2010年11月の中間選挙で共和党が国政、地方それぞれで躍進した。それまで民主党が強かった州でも議会で共和党が多数派を占める状況が現れたのである。

それを受けて、共和党は労働組合の権利を弱める法制化を進めた。その代表的な攻撃対象が州公務員労組である。

その理由として、州の財政状況を圧迫する硬直的な労使関係の改善をあげる。これにより、年金と医療保険における州政府側の負担削減を団体交渉の手続きを経ずに行うことが可能になり、公務員と民間給与の格差が解消されると主張していた。

オハイオ州では州公務員労組の団体交渉権限を制限する法律は3月31日に成立していた。その中身は団体交渉から年金、医療保険に関する事項を除外するとしたものである。対象となる州公務員の数は36万人にのぼる。

州公務員労組に団体交渉権を認める法律はオハイオ州で1983年に成立していたが、これまで共和党出身の州知事もこの法律の改正に着手することはなかった。民間部門を含めて労働組合との全面対決が危惧されたからである。

しかし、州知事を含め議会でも多数派を共和党が占めたことで、民主党の最大支持基盤である公務員労組への攻勢を強めたのである。このことが労働組合の存在意義も含めて全米に大きな議論を呼んだ。

労組支援運動、広範な支持

州公務員労組の権利を制限する法律が成立したその日に、労働組合支援者は「我々がオハイオだ(We are Ohio)」と題する組織を立ち上げて、同法を廃止に追い込む州民投票を実施するための運動を開始した。

その結果、必要な署名数が23万人であるところ、91万5000人の署名が集まり、11月8日に投票が行われることになったのである。

投票前の10月25日に発表された調査機関クイニピアク(Quinnipiac)によれば、共和党員でさえも32%が同法に反対であると回答していた。これは、「我々がオハイオだ」側が党派を超えて広範な支持を取り付けることに成功したことを意味する。

その一つの例として「我々がオハイオだ」側は、法律の存続を支持するグループの約4倍にあたる3000万ドルの寄付を集めたことがあげられる。

アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)が実施した調査でも民主党支持層の90%、無党派層の57%、共和党支持層の30%が法律廃止に賛成であるとの結果を得ていた。

この背景には、「我々がオハイオだ」側の豊富な資金源を背景とした広報活動がある。労働組合の存在がアメリカの民主主義にとって必要であるとともに、公務員労組への攻撃はミドルクラスへの攻撃と同じだという主張を展開したのである。

ニューヨークの「ウォール街占拠運動」と呼応した、「シンシナティ占拠(オキュパイ・シンシナティ)」のグループも同法廃止運動に参加したことも注目を浴びることになった。若者による着地点の見えない社会への抗議行動としかみられていない「占拠運動」に具体的な活動目標がみえたからである。同様の行動は、「シカゴ占拠(オキュパイ・シカゴ)」でもみることができる。

「ミドルクラス」の運動を強調

同様の法律が成立したウィスコンシン州では州民投票ではなく、当選後一年を経た州議会議員をリコールによって再選挙を実施して追い落とすという戦略をとっている。この運動に「シカゴ占拠」が参加している。

一方、オハイオ州では11月8日に州民投票が実施された。投票率は前年の中間選挙の投票率を大きく上回り、過去20年間で最高を記録した。

この州民投票は、公務員の団体交渉の制限に関し、全米で初めて住民に是非を問うものとなった。

結果は廃止61%、存続39%と圧倒的多数で法律が廃止となることが決まった。

結果を受けて、バイデン副大統領は「団体交渉権限を剥奪しようとする共和党の試みは圧倒的勝利によってミドルクラスから拒絶された」との声明を出した。

また、AFL-CIOトラムカ会長はウォール街占拠運動になぞらえて「1%の富裕層のためではなく、99%のための政治が回復する兆し」とし、「公務員が財政危機の犠牲になるべきではない。州知事は公務員の賃金を引き下げるために選ばれたのではなく、雇用創出に専念するべきだ」とした。

このような組合側の巻き返しが成功した一つの要因は、公務員労組を民間よりも労働条件が良い既得権益集団として位置づけられることを避けたことにある。これにより、官民とも同じミドルクラスの問題として一体的に運動が行われたのである。副大統領が公務員労組をミドルクラスと称したことや、AFL-CIO会長がウォール街占拠運動のスローガンを引用したことにそれが現れている。

この結果は、2012年の大統領選挙の布石になるだけでなく、公務員労組の権利制限をめぐる全米の議論の方向性への試金石になるだろう。

参考

  • Ohio Voters Defeat State Law Curbing Collective Bargaining by Public Workers, Nov.9, Daily Labor Report
  • Ohio voters overwhelmingly reject issue 2, dealing a blow to Gov. John Kasich, Nov.8, The Plain Dealer

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