河南省が「新最低賃金法」を施行
―決定要因にCPIを採用

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2011年11月

河南省は10月より「新最低賃金法」を施行した。注目すべきは、最低賃金の決定要因にCPI(消費者物価指数)を組み入れた点だ。河南省に限らず、中国全土において賃金は増加傾向にあるものの、それ以上にCPIの上昇幅が大きいため、低所得者層を中心に苦しい状況が続いている。

広東省はすでにCPI考慮

河南省は10月1日、新最低賃金法「河南省最低工資規定」を施行した。これに伴い、1995年に施行された旧最低賃金法「河南省企業最低工資暫行規定法」は廃止された。新最低賃金法と旧最低賃金法の最大の違いは、最低賃金決定における考慮要素としてCPIを踏まえると条文に盛り込んだ点だ。これにより、社会情勢に応じた適正な水準で最低賃金を決定する事が可能となる。新最低賃金法の施行と同時に最低賃金の増額も実施され、河南省の最低賃金は10月より約35%引き上げられた。ただし、これまでは社会保険料と住宅積立金が最低賃金に含まれていなかったが、10月よりこれを含む額である。

最低賃金制度は労働部(現在の人的資源社会保障部)が1994年に施行した「最低賃金保障制度に関する規定」によって定められた。2004年には、これに変わり「最低賃金制度」が施行され、現在の最低賃金制度が確立された。当制度では、省・自治区・直轄市がそれぞれの行政区域ごとに最低賃金を設けること、少なくとも2年に一度見直しを実施すること、最低賃金の決定においては「労働生産性・経済状況・消費者物価指数」等を考慮すること等を求めている。河南省の措置はこの方針に沿ったものといえる。

また、広東省の最低賃金法では既にCPIを考慮すると規定されているが、北京市や上海市などの最低賃金法では未だ規定されていない(表)。北京市などでも、CPIを考慮要因にすべきだとの声もあがっている。

表:各地域の最低賃金法における、最低賃金決定の根拠要因
  河南省(新) 河南省(旧) 広東省 北京市 上海市
労働生産性
経済発展状況
雇用状況
平均賃金
最低限の生活費用
社会保険料      
住宅積立金   ○     
消費者物価指数      

出所:各市省政府

CPIの伸びに比べて低い賃金上昇率

ここ数年、賃金は中国全土で上昇傾向にあるが、CPIはそれ以上に上昇している。新華社通信は賃金とCPIの関係を定期的に調査しており、それをインデックス化することで物価水準を踏まえた実質的な賃金を測定している。それによると、15都市4業種における今年6月時点での賃金水準は、昨年1月比で1%の上昇であった。また、昨年6月時点と比べると5%の減少であった。つまり、1年間で賃金は実質的に5%減少したことになる。この状況は、消費財への支出比率が相対的に高い低所得者層の生活を一層苦しくしている。

賃金上昇には賛否両論

中国は慢性的なインフレに悩まされているが、その原因を巡っては諸説が展開されている。一つは、インフレの主犯は賃金上昇にあるとし、過度な賃金上昇は経済に悪影響を与えるというものだ。賃金上昇の結果、企業は高い労働コストを商品価格に転嫁せざるを得なくなり、それによりインフレが生じているという意見である。一方で、賃金上昇はインフレの要因の一つではあるが、それ以上に大きな要因は金融市場の過剰流動性であるとする意見もある。この意見のもとでは、CPIの上昇率が賃金上昇率を上回っているので、低所得者層の生活改善のためにも賃金を上昇させるべきだと主張されている。

参考資料

  • 新華社通信 河南省、広東省、北京市、上海市各政府

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