ロマ人送還をめぐり欧州委が仏に是正勧告
―仏政府にも一定の配慮

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2010年9月

フランスで8月に開始された違法キャンプの撤去とロマ人の送還をめぐって、特定の人種を標的にしておりEU法違反であるとする欧州委員会と、これに反発するフランス政府の間で緊張が続いていた。欧州委員会は9月末、EU法に準拠した国内法の整備不足が問題であるとしてフランス政府に是正を勧告、一方、既に実施された送還については、差別的な目的等はなかったとするフランス政府の主張に配慮するかたちとなった。

フランス政府は、7月中旬に中部・南東部で発生した違法キャンプのロマ人などによる暴動をきっかけに、今回の強硬策に踏み切った(海外労働情報フランス2010年9月参照)。違法キャンプ居住者は犯罪にかかわる可能性が高いなどとして、治安維持を主な理由に掲げ、8月初旬から撤去作業を開始、出身地であるルーマニアやブルガリアに送還されたロマ人は、9月までに1000人以上にのぼる。

現在、EU域内に居住するロマ人は1000万人から1200万人とみられ、ルーマニアを筆頭に、ブルガリア、ハンガリーなど東欧諸国の居住者が多いほか、フランスやイタリアにも数十万人が居住しているという(注1)。大半は長期定住者だが、移動居住者など一時的な居住者も一定数を占め、フランスにも1万5000人前後のキャンプ居住者がいると推定されている。EU加盟国の市民権を有するこうしたロマ人は、本来、EU指令(注2)によって原則3カ月間は滞在許可を得ずとも他の加盟国に移動・居住することが認められている(有効なIDまたはパスポートの保有が条件)。ただし、受入国の社会保障制度の負担となることを避けるため、滞在が3カ月を超える場合は、雇用者もしくは自営業者であることや、自らの生活を支える資産があることなどの条件を設けることを加盟国に認めている(注3)。また、公共政策、公共の安全、公衆衛生を理由に、こうした移動の自由を制限することができるが、同時に、EU市民が享受すべき権利を定めた欧州基本権憲章(注4)は、特定の民族や国籍を理由とする集団的な国外追放を禁止している。

フランスは、3カ月を超える滞在者に対する条件を制度化しており、条件を満たさない外国人の送還は適法だ。政府によれば、昨年も1万人あまりのロマ人を出身国に送還している。また、今回の送還は居住者各々についてしかるべき手続きを踏んだ自発的なもので、その証拠に、対象者は帰国に合意する見返りとして支給される手当(成人300ユーロ、児童100ユーロ)を受け取っている、と政府は主張している。これに対して、欧州議会や人権保護機関、また国連などは、ロマ人という特定の集団を標的とした差別的な施策であり、個々の対象者に対する審査も行われていないと主張、集団的な強制送還であるとして即時停止をフランス政府に求めていた。

欧州委員会は当初、一連の施策に懸念を表明し、EU法違反の有無について検証するとしていたものの、ロマ人を標的にした施策ではないとフランス政府が「保証している」と述べ、宥和的な姿勢を示していた。しかし、フランス内務省による違法キャンプ撤去に関する通達の内容(3カ月で300の違法キャンプを撤去し、特にロマ人のキャンプを優先せよ、との指示)が明らかになると態度を一変、恥ずべき人種差別的行為であるとの厳しい非難を展開し、フランス政府に対して施策の即時停止を求めた。レディング司法担当委員は、(1)特定の民族に対する指令の差別的適用、(2)指令に基づく国内法制の整備不足の2点において、フランス政府はEU法に違反しているとして、法的手続きを開始すべきであるとの見解を示した。

フランス政府はこうした批判に反発し、ロマ人の自国への流入はルーマニアやブルガリアにおける統合政策の失敗が原因であるとして両国を批判、また一方で、9月中頃までに撤去された約500カ所の違法キャンプのうちロマ人に関するものは199カ所、排除された居住者5400人も大多数はフランス国籍の保有者であったとして、ロマを標的にしたとの批判に反論した。

欧州委員会は協議の末、フランス政府に対して、指令に基づく法整備不足に関する是正勧告を行うとの結論を9月29日に示した。10月15日までに、法整備に関する案とスケジュールを示さない場合、EU法違反に係る公式な手続きを開始するとしている。同時に、他の加盟国でもロマ人排斥の動きがみられることを憂慮、他の加盟国についても状況を分析のうえ、違反手続きの必要性を検討する意向だ。また併せて、既に設置を決めている「ロマ・タスクフォース」(欧州委の関係部局で構成)により、ロマ対策のためのEUからの補助金(注5)が適切に支出されているかを監視することなどを確認している。一方、今回の送還に関しては、(1)特定の民族を標的とする目的等はなかった、(2)差別的な内容の通達は撤回された、(3)EU法に則した効果的かつ非差別的な法整備を行う、といった点をフランス政府が保証していることに留意する、としており、法的措置は取らないとみられる。フランス政府はこの声明を歓迎している。

参考レート

  1. 1ユーロ(EUR)=114.00円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年9月29日現在)

参考資料

  1. European Commissionリンク先を新しいウィンドウでひらくEUobserverリンク先を新しいウィンドウでひらくEuropean Voiceリンク先を新しいウィンドウでひらくEurActiveリンク先を新しいウィンドウでひらくBBCリンク先を新しいウィンドウでひらく ほか各ウェブサイト

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