非農業部門の一時就労ビザで改革案
―政府、手続き簡素化と労働保護を提案

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2008年9月

H-2Bビザはアメリカの非農業部門で働く労働者を対象にした1年以内の一時就労ビザで、7月末に、来年度半期の割り当て分の募集を終了した。繁忙期にアメリカ人労働者の不足している仕事に外国人を雇うことを目的としているが、低賃金労働の温床となっているとの批判も少なくない。チャオ労働長官は5月にこのH-2Bビザプログラムの改革案を発表している。事業主が申請する場合の手続きを簡素化すると同時に、労働者を雇い入れた後にも審査を実施し、不適格な事業主に罰則を与えるなど労働者保護の強化なども盛り込んでいる。

多岐にわたる職場

H-2Aビザが農業に従事する者を対象とするのに対して、H-2Bビザは農業以外が対象。H-2Bビザの典型例は、一定の期限までに完了する事業を契約する事業主が、その仕事に携わる労働者を米国内の労働市場のみで確保することが難しいため、一定能力の外国人を必要としている場合である。移民局(Citizenship and Immigration Service)によれば、建設業、ヘルスケア、造園、製材、製造業、食品サービス、食品加工、ホテル・接待業務などの幅広い職場がビザの対象となっている。

このほど、2009年度割り当て数の半数に当たる3万3000人分が募集され、7月29日に予定数を上回り募集を終了した。近年のビザ承認数の推移は表1のとおりである。

問題点の指摘

このビザの対象となっている職場は実際には労働者不足の状態ではなく、事業主は低賃金労働者の雇用を目的としていると批判する専門家も少なくない。アメリカ労働総同盟産別会議(AFL-CIO)もこのビザがアメリカ人労働者の賃金水準などの労働条件に悪影響を与えていると非難している。同組織のスウィーニー会長は、採用プロセスの透明性、労働者の法的保護の確保、公正な賃金の保障などに向けて制度の見直しを強調している。また、キング上院議員(アイオワ州選出・共和党)は、非熟練のアメリカ人労働者の職を奪い、労働条件を悪化させているとビザの拡大に反対している。

一方、保養地の有名ホテルの経営者は、下院司法委員会の分科会で経営者側の意見を述べ、求人活動をフルに行ってもアメリカ人だけでは繁忙期の労働者を確保できないと現状を説明し、ビザ発給数の拡大を強く求めた。

行政による制度改正の動き―労働省と移民局による提案―

昨年6月、国境警備の強化、雇用主の責任強化、 短期労働者プログラムの創設、推定数百万人の不法滞在移民の地位の解決といった内容を盛り込み、不法移民を合法化し市民権の付与の道を開くことを主旨とする包括的移民政策の改革が頓挫し(当機構海外労働情報2007年8月号参照)、ブッシュ政権は既存の連邦行政機関を活用し、一時就労ビザプログラムを見直すように指示を出していた。移民局は、現行制度は事業主と外国人労働者の双方のニーズに適応していないとの見解を示した。

これを受けて、チャオ労働長官は5月21日、H-2Bビザプログラムの改革案を発表した。最近数年の傾向として、H-2Bビザ申請数が増加しており、行政手続きの遅れから使用者が必要とする労働者を十分に確保できない状況にあることを踏まえて、手続きの簡素化を進め、同時に労働者の保護も図るという内容だ。

H-2Bビザにおける連邦労働省の役割は、事業主に雇用資格を与えることである。その要件は、アメリカ人労働者のみを対象としたのでは人材を確保できないこと、同様の労働条件で就労するアメリカ人労働者に悪影響を与えないこと。この資格審査を経たのち、事業主は国土安全保障省にビザを申請することができる。

現行制度では、申請者はまず、州の労働省に外国人労働者雇用の申請手続きをする必要がある。州労働省では、申請された職に関する賃金水準を調査し、申請の賃金額と市場での賃金水準とを比較した上で資格を与える手続きを行っている。事業主はその上で連邦労働省雇用訓練局に資格申請手続きをすることが可能となる。このような行政手続きの煩雑さから、労働省による事業主資格申請が遅延し、当該年度の申請に間に合わないケースが多く見られた。新制度ではこの二重の行政手続きを削減し、直接連邦労働省に申請できるようにすることによって60日以内に資格審査手続きを終えることが可能としている。

また、現行制度下では「一時就労」の「一時」とは1年以内に限られ、当初予定の期間を延長して雇用したい場合、変更事由として避けがたい事態が生じたことを証明しなければならない。新制度ではその証明をすることなく3年までは延長可能にする。これは特定のプロジェクト、例えば、ビルや橋梁の建設工事、造船のような長期にわたるプロジェクトでの雇用確保のためにH-2Bビザ取得労働者を活用したいという事業主の要望に応えるために制度を柔軟化したものだと労働長官は説明した。ただし、新制度においても労働市場テスト実施のために事業主は毎年、ビザ申請手続きをする必要がある。

新制度は、手続きの簡素化の半面、労働者保護の観点から、労働者を雇ってのちに、事業主を審査するシステムを導入し、不正が発覚した場合に事業主に罰則を付与する手続きも盛り込んでいる。

労働省案を補足する形で8月15日に発表された移民局の制度改正案にも、こうした労働者保護の観点が含まれている。事業主は労働者の就労実態などが事前の条件と違っていないかの審査を受ける。事前の条件を変更する場合には申請する義務が課される。さらに事業主や採用者に対しては、ビザ就労希望者から手数料をとることを禁じ、それに違反した場合、採用申請の遅延、無効を可能としている。

このような改革案に対して、AFL-CIOや全米食品商業労組(UFCW)、移民の人権擁護団体など20の諸組織は見直しを求める声明を発表している。改正案は労働者の保護を弱める方向性にあり、労働省が果たすべき役割を放棄するようなことであり、提案を取り消すべきであるという。

一方、全米商工会議所や全米レストラン協会、全米卸売業協会など業界団体は、労働省の改革案によって現在よりH-2Bビザ申請がスムーズに行えるようになるものの、いくつかの規定に疑問があるとしている。

表1:H-2Bビザ滞在承認数の推移
1995年 14,193
1996年 14,345
1998年 24,895
1999年 35,935
2000年 51,462
2001年 72,387
2002年 86,987
2003年 102,833
2004年 86,958
2005年 NA
2006年 97,279
  • 出所:Yearbook of Immigration Statistics 2004, 2006
  • 注:2005年の前後でデータの性質が異なるため単純な比較はできない。

参考

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