採用時に人種・民族で差別 
―大規模調査であらためて浮き彫りに

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2008年3月

労働省は2月、採用時の人種差別に関する調査結果を発表した。学歴、職歴など人種と民族以外の学歴や職歴などについては全く同じ内容の2通の履歴書を送付して、企業の採用時の反応を見ると、マグレブ(アフリカ北西部のモロッコ、アルジェリア、チェニジア一帯)出身のアラブ人とアフリカ出身の黒人よりも、フランス出身の白人の応募者の方を優遇したケースが全体の70%に達した。調査は、2000通以上の履歴書を送る大規模なもので、ILO(国際労働機関)がフランスの社会統合省の調査・研究・統計推進局 (Dares) に資金提供し、パリ、リヨン、マルセイユ、リール、ナント、ストラスブールの6大都市で2006年に実施した。

調査は、ある求人に対して、人種や民族が異なる点以外の内容は全く同じ2通の履歴書を企業に送付し、その反応をみるという「テスティング」方式で行われた。学歴や職歴、フランス国籍など、雇用主の希望に沿うと考える特性を同等に持っているフランス系(白人)とアフリカ系(アラブ人・黒人)の2人の若者が、ある実際の求人に応募する。この2通の履歴書で異なる点は、名前の響きと、そして顔写真だけである。調査対象の求人には、あまり熟練度の高くないものが選ばれ、ホテル・飲食業、商業、建設・土木業、サービス業、交通機関の1100件に、計2000通以上の履歴書が送られた。

白人の優遇、70%のケースで

調査の結果、フランスでは採用の際に「著しい差別」があることが明らかになった。企業がアフリカやマグレブ出身の応募者よりもフランス出身の応募者を優遇したケースは、1100件の求人のうち770件(全体の70%)に達した。逆に、アフリカやマグレブ出身の応募者が優遇されたケースはわずか209件(同13%)であった。人種や民族にかかわらず、選考過程で同等の扱いを受けた求人は、121件(同11%)にとどまった。最終的に、ILOが定義する「純差別率」(注1)は51%に達した。

1100件のうち、応募の段階で差別的な扱いが見られたケースは650件(同59%)に上った。その大半が、フランス系 (白人) には、応募の段階で次の面接の連絡をするが、アフリカ系 (アラブ人・黒人)には即、不採用の通知を出すというような差別だ。逆に、アフリカ系が有利な扱いを受けたケースは、143件(同13%)に過ぎなかった。残りの450件(同40.9%)は、応募の時点では、フランス系及びアフリカ系のいずれも同じ扱いを受けた (両方の応募者が門前払いとなった求人は除外)。

同等の扱いを受けた450件のうち、212件はその場で次回の面接実施を決定し、残り238件は、即答を避けた。この238件のうち、後日、フランス系が有利な扱いを受けたのは167件、アフリカ系に有利な決定がなされたのは51件であった。残りの20件は、フランス系及びアフリカ系共に、次の面接に進むことができ、そのうち3件はフランス系が、2件はアフリカ系が有利な扱いを受けた。残りの15件は、双方とも採用されたか、不採用になったケースである。

今回の調査では、採用の際の人種差別は、男性よりも女性が、また黒人よりもアラブ人が優遇されていることが明らかとなった。例えば、マブレブ系の差別率は、男性が47%であるのに対して、女性は27%である。また、黒人男性の差別率は54%で、黒人女性は50%であった。なお、産業間による差別率の差はみられなかった。

名前と顔で判断

他にも注目すべき現実が明らかになった。それは、差別の大半は面接に至る前の最初の接触から確認されるということである。差別の3分の2は履歴書を受領した時点でなされ、名前や顔写真から外国出身と判断された応募者は、面接で自己アピールすることもできず、企業側の先入観を打ち崩すこともできない。履歴書の匿名化と顔写真の添付廃止も検討されているが、現在のところ実現していない。

さらに、「面接にも呼ばれない」という事実は、明確に断るよりも、「後日連絡します」という決まり文句などで曖昧にし、応募者に無駄な期待を抱かせるという形をとるケースが多い。これは「実際には履歴書だけではじかれてしまった応募者が、公には『採用担当者の目にはとまった』と思えてしまうため、実際の求職活動中には見破ることが難しい陰湿な差別の形態である」と、調査は指摘している。

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