外国人専門技術者の新たな受け入れ制度、運用開始

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2008年12月

EU域外からの専門技術者などの受け入れについての新たな制度が11月末に開始された。制度導入に先立ち、政府は「人材不足職種リスト」をすでに発表している。旧制度よりも広範な職種をあげているものの、賃金水準など条件を厳しくしているのが特徴で、底流には外国人の雇用を圧縮し、イギリス人に振り向けたいという政府の思惑が垣間見える。景気悪化によって、政府はこの姿勢を一段と強化する可能性が強い。

外国人受け入れ職種、20万人分圧縮

今年はじめから段階的に導入されているポイント制(外国人を入国目的や専門技術等に選別して、年齢や学歴などに基づく入国資格を定める制度)のうち、専門技術者などを対象とする第2区分の運用が11月末から新たに開始された。保有資格や、受け入れ先での給与水準などに基づいて計算されたポイントが、政府の定める基準を満たす外国人に対象を限定する。受け入れ側に対しても、外国人を雇用する職種の専門性や、EU域内での人材調達が困難であることの証明(労働市場テスト:一定期間の求人広告の実績など)を求める点は従来の制度と同様だが、新たな制度のもとでは、受け入れ先(スポンサー)としてのライセンス取得も義務付けている。また従来の制度とは異なり、外国人には一定の英語能力も問われる。

ただし、政府が人材不足と認める職種については、労働市場テストが免除される。職種の検討は、政府の諮問機関である移民提言委員会(Migration Advisory Committee)が実施することとされており、委員会は既に9月、政府に不足職種案を提出していた(当機構ウェブサイト2008年10月の記事参照)。委員会案は、旧制度のもとで政府が認めていたよりも広範な職種を人材不足としているものの、資格水準や賃金額などの条件を明確に課しており、また従来の制度のもとで、不足職種リストに含まれていたソーシャル・ワーカーを除外するなど、対象職種の就業者数は旧制度に比べて30万人分圧縮されるとしていた。委員会案を受けて、国境局(UK Border Agency)は業界団体などから意見聴取を実施、最終的にソーシャル・ワーカーを復活させた不足職種リストを固めた。ソーシャル・ワーカーは就業者数にして10万人分に相当する計算で、このため旧制度からの圧縮幅は20万人分に減少した。国境局は委員会に対して、ソーシャル・ワーカーや上級介護労働者、看護師、シェフなどの職種について来年3月までに検討のうえ改定案を示すよう、改めて諮問している。

新たな制度に混乱も

雇用主がスポンサーとしてのライセンスを保有していない場合、新たな外国人労働者の受け入れだけでなく、現在雇用している外国人の滞在許可延長なども行うことができない。しかし、企業の多くは未だ申請に至っていないとみられ、また制度導入の直前に申請が集中したことなどによる国境局の手続き遅滞も続いているという。審査内容には、就業内容や就業環境などに関する実地検査などが含まれており、必要な人員を確保できていないことも理由の一端とみられる。

企業からは、新制度の導入によるコスト増などに加え、国内では調達が困難な職種の労働者不足を助長するとの批判の声が強いが、移民提言委員会の委員長を務めるデビッド・メトカーフ教授は、企業が国内での採用活動を強化してより高い賃金を提示すれば、イギリス人労働者の応募が増加によって人材不足は緩和されると一蹴し、さらにライセンスの審査にあたっては、イギリス人従業員の訓練が十分に行われているかも対象となりうるとの見方を示したという。

このほか、専門家の間では、政府が制度の有効性を示すには、厳しい取り締まりを実施する以外にないとの見方も出ている。政府の発表によれば、今年2月から金額が大幅に引き上げられた違法滞在者の雇用に対する1万ポンド以下の罰金は、10月までの半年間で130の雇用主に適用されており、これらに関連して徴収が予定されている罰金は総額70万ポンド強にのぼる。

また、ビザ延長を申請する外国人に対する生体認証IDカードの発行手続きが、25日から開始された。6カ月以上滞在する場合に取得が義務付けられるもので、国内7ヵ所の窓口機関で顔写真の撮影や指紋採取などを受ける必要がある。カードには、氏名や国籍、顔写真、ビザ等の有効期間などのほか、生年月日・出生地、滞在中の資格(就労の可否、公的な手当等に関する資格の有無など)が記載される。当座は学生や配偶者ビザの保有者などが対象だが、今後、適用者を順次拡大する予定だ。政府は、違法滞在者の雇用による不利益の防止などにも有効であるとして、2014年度までに対象となる外国人の9割にカードを発行することを目指している。将来的には、イギリス人に対しても同様のIDカードを付与する予定だ。野党などからは、カードの付与によって不法移民を防止することはできないとして、無駄な費用を国民に課しているとの強い批判や、個人情報の扱いを懸念する声などが上がっている。

参考

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