介護法、2007年から施行

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2006年11月30日、「自立推進および要介護者の世話に関する法律(介護法)」が下院で可決された。施行は、2007年1月1日から。介護法の骨子の要約は以下の通り。

  • 年齢、その他の理由により、基本的な日常生活上の活動(食事・歩行・入浴etc.)が自分でできなくなった要介護者に対しては、行政が様々な介護サービスを提供する。また、精神障害者や知的障害者に対しても自立を助けるサービスを提供する。
  • 介護サービスの提供は、具体的には自立・要介護者支援システム(SAAD)と呼ばれる公的ネットワークを通して行われる。
  • SAADネットワークには、社会サービス・医療サービス機関や第3セクターの機関など、官民双方の機関が参加し、民間の老人ホームなどへの業務委託も利用する。
  • 法に定められる要介護度にあるスペイン人は、居住地にかかわらず全国どこでも全てのサービスを受けることができる。なお、サービスの提供については、利用者の居住地からできるだけ離れない場所を基本とする。
  • 要介護度は――(1)軽度:1日に少なくとも1回は介助が必要な者、(2)重度:1日に2~3回の介助が必要、(3)全面的要介護:自力ではまったく何もできず常に介護を必要――の3段階に分けられる。知的障害者・精神障害者の重度もほぼ同様の分け方になる。要介護度の高い利用者から優先的にサービス提供を開始し、2007年には全面的要介護者22万3457人にサービスが提供される見通し。
  • サービスの内容は、自宅でのサービス(家事、身の回りの世話etc.)、デイケアセンター、ナイトケアセンター、また定年退職年齢を過ぎた要介護者のためのホームなど。
  • SAADの体制が整っていないなど、何らかの理由でサービスを受けられない要介護者に対しては、行政が民間のサービスを利用できるよう経済的サポートを行う。全面的要介護者については、一日一定時間介護人をつけられるようにする。
  • 例外的に要介護者の家族が介護を行う場合には、一定の条件を満たしていれば介護を行う家族に対する経済的サポートが行われる。また、介護技術に関する訓練プログラムへの参加や、介護者休息も認められる。

今後8年間の段階的適用を経て、2015年には120万人がSAADの介護サービスを利用することになると政府は予想している。2015年までに行政(国・自治州を含め)からの拠出は260億ユーロを超える一方、30万の雇用創出につながるものと見られる。しかし、2050年には世界第2位の高齢者国となると国連が推計を出すほど、スペインの高齢化は急速に進んでおり、SAAD利用者数も予想を大きく上回る可能性が高い。

介護法は、現政権が最も力を入れて準備してきた重要法案の一つ。今回、可決されたものの、内容についていくつかの疑問もあがっており、施行早々に問題が生じると危惧する声もある。例えば、介護サービスの利用料。サービスの利用は無料でなく、一定割合を利用者が負担することになっているが、この負担額をめぐって未定のままとなっている部分が多い。法律では、「負担額は利用者本人の経済的能力に応ずる(利用者の世帯でなく)」となっているが、この本人の経済的能力、つまり収入・資産の中に、本人が通常住んでいる住宅も含まれるか否かといった点は明らかにされていない。

こうした疑問に対して、カルデラ労働大臣は、「収入・財産が一定水準未満の要介護者は利用者負担を免除され、また利用者負担はいずれの場合も3割を超えない」としているが、利用者負担の基準は、介護法の運営にあたる評議会の判断に任されることになる。なお、この評議会は、労働社会問題省を中心とする複数の関係省庁、自治州政府、市町村、赤十字やカリタスなどにより構成され、2007年1月から3月にかけて設立される予定。

このほかにも、要介護度の評価基準の詳細もまだ決定していない。まず、各自治州政府が評価チームを組織し、評価の作業を始めることになるが、その上で実質的な介護サービスの提供が始まるのは2007年春以降と見られる。要介護度は、一度認定されれば、全国で適用される。

このように、まだ不明確な点が多い介護法に対して、カタルーニャ連合(CiU)やバスク民族党(PNV)をはじめとする地方ナショナリスト政党の間から、「自治州政府の社会サービスに関する権限を侵害するもの」として非常に強い批判が出ている。介護制度は国・自治州・市町村の様々な行政機関が関与することから、施行段階での混乱も予想される。

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