後を絶たない不法移民
―一時的な労働・滞在許可証の発行を政府が検討

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2006年9月

2005年に不法移民の合法化を実施したスペイン。その後も、アフリカ大陸から海上ルートで入国する不法移民の流れは後を絶たない。特に最近では、モーリタニアやセネガルの沿岸から大西洋を渡ってカナリアス諸島に向かうケースが急増。収容期限を過ぎても出身国に送還することができない不法移民が増加するスペインでは、彼らに一時的に労働許可を与えようとする動きが出ている。アフリカとの間の海上の国境は同時にEUの南の国境でもあり、こうしたスペインの動きにEU諸国も注目している。

海上ルートでカナリアス州に漂着したアフリカ移民の数は、2006年前半で、すでに1万7000人近くに達している(注1)。彼らの多くは、海上をパトロールするスペインの監視艇により保護され、収容施設に送られる。収容期間は40日間。この間に国外追放・出身国への送還手続きがとられることとなっている。しかし実際には、この40日間で送還手続きがとられるケースはほとんど稀である(注2)。そこには、(1)身分証明書の不携帯により身元の特定ができない、(2)出身国が自国民であることを認めない、(3)出身国との間で不法移民送還に関する協定が結ばれていない―等、不法移民を取り巻く現状がある。

彼らのほとんどが、40日を迎えると国外追放命令の書類が出され、実質的には行き場のないまま収容施設から出されることになる。マドリッドなどの大都市に送られた彼らは行くあてもなく、スペイン国内で合法的に労働して生活することも、出身国に送還されることも、どちらも許されずに、地下経済や犯罪に係わるようになる者も少なくない。

このような状況のなか、上院では、6月20日、不法移民に対し、出身国に送還されるまでの間、スペインに合法的に居住し労働する許可を与えるよう政府に求めることを提案。全会一致で可決した。これを受けて労働省では、何らかの措置をとる意向を示しているが、具体的にどのような形態で労働許可を与えるかは未定。現在のところ政府は、「求職のための一時的滞在許可」の採用を検討している。同許可は、スペイン国内での求職活動のために3カ月間の滞在許可を与え、この期間を過ぎても就職できなかった場合には帰国しなくてはならないというもの。この措置により、「スペインから不法移民は消える」と政府は主張している。

また、「移民問題の最大の敵は違法性である」とかねてより強調してきたカルデラ労働大臣は、7月11日、モロッコで開催された移民・開発に関する欧州アフリカ会議の席上で、「60万人の不法移民の合法化が実現した」と2005年の合法化措置の成果を強調。さらに、「現在、スペインには不法移民は皆無である」と主張した。しかし、この主張は「あまりにも非現実的」と評する声も多い。近年のスペインの移民政策で最大の課題とされるのは、「呼び寄せ効果」である。国外追放・本国送還が即実行できない不法移民に、一時的とはいえ滞在許可を与えることは、彼らの呼び寄せ効果を高める危険性が非常に高い。このような状況にありながら、「国内の不法移民はゼロになる」という予測には無理があるといわざるを得ない。

こうしたなか、与党の社会労働党(PSOE)および統一左翼(IU:スペイン共産党を中心とする左派連合)が、8月17日、スペインに在住するEU以外の地域出身の合法移民に選挙権を与えるよう政府に求める提案を下院に提出した。2007年5月に予定されている統一地方選での移民票の獲得が狙いとはいえ、移民の権利を拡大する案として注目されている。しかし、未だに安定的かつ秩序だった移民受け入れの体制も整わないままに、移民の権利の拡大だけを進めることは、どのような結果を生むことになるのか。EU諸国もスペインの動向に注目している(注3)。

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