労働市場改革をめぐる社会対話、政労使が合意

カテゴリー:非正規雇用労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年6月

2006年5月9日、スペイン政府、労働者総同盟(UGT)と労働者委員会(CC.OO.)の二大労組、そして中小企業連合(Cepyme)の代表が、労働市場改革に関する合意にサインした。2004年に発足した社会労働党(PSOE)政権下で初となる労働市場改革は、14カ月に及ぶ交渉の末、ようやく実現の見通しにこぎつけたといえる。

政労使の三者間で最後まで議論が続いたのは、高い有期雇用率(注1)に代表される「雇用の不安定」の解決に関する問題。労組側が有期雇用の濫用に対する規制強化を求めるのに対し、使用者側は無期雇用における高い解雇コストの低減を強く要求していた。双方の溝のあまりの深さに、一時は、労使間の合意のないまま政府が改革のイニシャティブをとらなければならないのではないかと懸念されるほどであった。しかし、2006年4月頃から労使間で、交渉の行き詰まりを打開しようとする動きが出始め、ようやく合意に至った。

労働省では、今回の合意に基づく労働改革を7月1日から施行するため、勅令法(注2)という形で処理する予定である。合意の主な内容は以下の通り。

  1. 有期雇用の濫用への規制

    2年以上にわたり、有期契約を2回以上繰り返す形で雇われ、同じポストで働いている労働者は、30カ月以内に無期雇用労働者とすることが義務づけられる。この措置は労働者憲章にも取り入れられる。

  2. 有期雇用を早期に減少させるための緊急措置

    2006年12月31日までに実施される有期雇用の無期雇用への転換に対し、一件当たり年額800ユーロを助成する(最高3年まで)。また、2008年までは有期雇用を「雇用促進契約」という形で無期雇用に転換することができる。同契約では、雇用者の負担を軽減するため、解雇に際して支払わなければならない解雇金を「賃金33日分×勤続年数」とする(注3)。

  3. 無期雇用契約への助成

    無期雇用の場合のみ助成金を支給する。額については、保険料の一定割合でなく定額制とする。対象となる労働者(女性、若年者、障害者、訓練契約労働者等)により、雇用者は年500~3200ユーロを受給できる。期間についても、現在の2年から4年に延長される。

  4. 社会保険料の雇用者側負担分の軽減

    失業保険および賃金保証基金(Fogasa=会社が倒産した際に、労働者への賃金の支払いを保証する基金)の財源に当てられる保険料の雇用者側負担分を軽減する。

  5. Fogasaによる給付の向上

    Fogasaの給付額を増額する。また、対象を現在の無期労働者のみから、有期労働者にも広げる。

今回の労働市場改革の財源は、そのほとんどが国家一般予算でなく社会保障制度財源から支出される。総額は、年間約40億ユーロ。そのうち27億ユーロは、無期雇用契約の助成に充てられる予定である。

こうした今回の合意について、サパテロ首相は「1年以上にわたる労使間の社会対話は何度も危機に直面したが、労使が忍耐強くこれを乗り越え、雇用の安定と質の改善という野心的な目的を追求する合意に達した」として、「歴史的な合意」と高く評価。さらに、「有期雇用を減らし、企業における人材の忠誠化と蓄積をはかることで、生産性の向上が期待できる」、「雇用の安定に支えられてこそ、経済成長も安定する」などとし、労働市場改革への大きな期待を語った。

一方、労組は今回の合意を「スペインにおける生産モデルの変革につなげるべき」と主張。CC.OO.のフィダルゴ書記長は、「有期雇用の濫用という雇用の質の問題の根元は、あくまでもスペインの生産組識にあるということを忘れてはいけない」と強調し、UGTのメンデス書記長もほぼ同様の見解を示した。

それに対し使用者側は、社会保険料の企業側負担分の軽減措置を重視(注4)。CEOEのクエバス会長は、今回の改革で相当数の有期雇用が無期雇用に転換できるという見通しを明らかにした。

また、今回の合意と日を同じくして、建設部門における下請契約を規制する法律も下院で可決。上院での可決を経て、年内にも施行される見通しとなった。同法では、下請企業が一定割合の無期雇用の正社員を持つことを義務づけている(注5)。建設部門において下請契約の濫用が数多くみられるスペインでは(注6)、これこそが雇用の不安定と労災の元凶であると考えられており、同法は、今回の労働市場改革をめぐる合意を補完するものとして、二大労組も高く評価している。

長い道程を経て、労働市場改革をめぐる社会対話がようやく合意に達したスペイン。しかし、合意といっても労使でその受けとめ方には温度差がみられる。今後は、今回の合意を基に改革をどう実現していくかということが大きな課題となる。

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