メキシコで炭坑事故発生

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年4月

メキシコ北部コアウイラ州パスタ・デ・コンチョスの炭坑で2月19日未明、メタンガス爆発事故が発生し、炭坑労働者65人が坑内に閉じ込められた。同炭坑を所有するグルーポ・メキシコ社は25日、米の専門家が実施した検査の結果から坑内がほぼ酸欠状態となり、生存者が見込めないことを明らかにした。またメタンガス濃度の上昇により新たな爆発の恐れが出たため、捜索作業は24日夜に打ち切られたまま、遺体回収作業の見通しはたっていない。

事故の原因としては、会社側による安全義務の遂行に重大な怠りがあった可能性が指摘されている。イエズス会系の労働問題調査機関であるシリアル社が行った調査によると、この鉱山では2004年7月に労働当局の監査が行われ、1年後には34の安全措置の実行が命じられたが、会社側が措置遂行日程を含む回答を送ったのはさらにその7カ月後であり、しかも実際には何ら措置が実行されなかったとしている。また現場の労働者の証言から、坑内は換気に重大な問題があり、ガスが溜まっていた上、緊急時の非常口や脱出ルートが確保されておらず、担架、救急箱、消火栓、消火器等もなかったとされる。事故前日にも労働者がガスのレベルが非常に高くなっていることに気づき、夜勤当番が換気をするよう求めていたという。

グルーポ・メキシコ社の2005年の売上げは51億9300万ドル、前年比で23.5%の増加である。しかし、社員1万9143人の75%に当たる鉱山労働者の賃金は低水準に抑えられている。平均週給は約400ペソ(1メキシコペソ=約11円)で、米国の鉱山労働者の18分の1というデータもある。こうした低賃金により会社が大きな利益をあげていたとみられている。

なぜ当局がこのような状況を黙認していたのかという疑問も呈されている。しかも、メタンガス爆発では温度が600度にも達するにも関わらず、政府は当初労働者生存の可能性があるようなメッセージを流し、家族に誤った期待を抱かせてしまったという。コアウイラ州では20世紀を通じて炭坑事故が相次ぎ、そのたびに遺体の回収をめぐる問題が生じてきた。今回の調査を担当したシリアル社は独立の調査委員会を設け、検事局が責任解明に乗り出すべきだとしている。こうした悲劇的な事故の再発を防ぐために、徹底した責任追及と原因の解明、安全管理の抜本的な改善が必要であろう。

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