雇用増も中流の生活水準は改善せず

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2006年4月

雇用増は世界三位

ブラジル政府はこのほど、労働党政権が発足してからの3年間で340万人の新規雇用を創出したと発表した。政府によれば、これに非公式雇用も加えると雇用増は500万人以上にものぼるとみており、これは中国、インドに次ぐ世界3番目の雇用増大数であるという。就任以来雇用増大を最優先課題と位置付けてきたルーラ大統領にとって、3年間の労働党政権の成果をアピールする絶好の機会となったようだ。政府はこの発表を労働省とブラジル地理統計資料院(IBGE)のデータを基に作成したものとしている。しかし一部アナリストの間では、この発表は10月の総選挙に向けたプロパガンダに過ぎないとする向きもある。

中流の減少、貧困化すすむ

一方、政治色が薄く、データのみを学問的に分析することで知られるカンピーナス総合大学のマルシオ・ポシマン教授ら3人のエコノミストは、中流層(注1)の動向を分析した結果中流層以下の生活は上向いていないことを明らかにした。1980年に都市圏では経済活動人口の31.7%を占めた中流が、2000年には27.1%へ低下し、国民全体の消費水準はむしろ下がっているという。1990年は、1970年代の高度経済成長と都市の工業化の余波が残っていて、都市部ではまだ中流が高い消費を維持していた。2000年以降の中流はさらに減少、或いは2000年並に維持された程度と予想している。

80年から2000年までの20年間に、人数にしておよそ1000万人の経済活動人口が中流の定義から外れることとなった。少なくともこのうちの70%は、生活の質を悪化させている。この20年間とられた、貿易と金融、技術、生産部門の開放を行ったネオリベラリズム政策によって、中流が最も影響を受けたというのが同エコノミストの分析である。この期間に中流のなかで、公職や民間部門の管理職の水準にある中流の中クラスの平均収入は、都市圏の中流就労者の総収入に占める割合が、32.2%から23.1%へ低下した。中流の上クラスの収入割合も、23.3%から22.8%へ下がっている。反面、中流の下クラスの割合は、44.5%から54.1%へ増加しており、中流が貧困化していることをはっきりと証明した。中流の収入を2005年11月の通貨価値に修正すると、2005年11月に中流は全国世帯数の31.7%に当る1540万世帯だった。

中流の収入と消費

中流の消費は、1987年の調査だと、月収の24.5%が食費、11%が衣料費だったが、2003年には食費が15.9%、衣料費が5%に下がり、反対に住宅費は17.6%が29.5%へ、交通費は8.7%から16.9%へ、教育費は2.2%から3.6%へ増加した。現在の中流は、電話、治安、学校など、不可欠なサービス支払いに拘束されるような生活水準に変わっている。この要求を賄うような公共サービスは提供されていないために、民間サービスに依存して、個人的支出が増大し、生活費を圧迫してきた。

中流の収入形式も変わった。1980年に都市圏の中流の64.6%は給与生活者であったものが、2000年には55.8%へ低下し、反面都市圏の中流の不動産所有者は35.4%から44.2%へ増加した。20年前まではまだ余裕のある生活ができたために、中流といっても、一般労働者の中の高給取りと言った感じであったが、現在では自営、企業家など多岐に渡っており、不動産取得が生活安定の基本と考えられるようになっている。なお中流の57%は南東地方に集中している。

参考レート

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