「定着」による不法移民の合法化が再開

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年9月

2005年2月7日から3カ月間という期間限定で、不法移民の合法化が実施されたスペイン。期間終了後は、合法化を認められた移民たちが、身分証明書受け取りの呼び出しを受け、窓口に殺到した。この特別措置は、1)2004年8月7日以前からスペインに滞在(=合法化申請の時点で、スペインに6カ月以上滞在)しており、2)最低6カ月以上(期間は業種により異なる)の労働契約を締結している――移民の合法化を認めるもの。この特別措置の実施期間中には、ストップしていた「定着による合法化」が、2005年8月8日から再開した。

「定着による合法化」とは、「スペインにすでに在住して働いており、スペイン社会に定着している事実」に基づいて、不法移民を合法化するというもの。具体的な条件は、1)スペイン国内に2年以上在住していること、2)そのうち少なくとも1年間労働していたこと、3)スペイン及び出身国で犯罪前歴がないこと――の3点。

政府は、2005年2月から5月の「特別措置」で、合法化されなかった不法移民の数を、12万人前後とみているが、今後は、彼らにもこの「定着による合法化」の道が開かれることになる。そのため、移民労働者の中でも最も数の多い、モロッコ人労働者協会やエクアドル協会などは、「定着による合法化」の再開を歓迎している。

しかし、実際にこれらの条件を満たして合法化を申請するのは、それほど容易ではない。出身国での犯罪前歴については、これまでの合法化手続と同様、自国の総領事館を通じて、無犯罪証明を取得することが可能。しかし、問題は、不法移民が「スペインに一定期間住んでいること」、そして「1年以上働いていたこと」をどう証明するかである。

3カ月間の「特別措置による合法化」に際しては、スペインに在住している証明として、「市町村の住民登録証明書」の提出を求められたが、不法移民の中には、様々な理由で住民登録そのものができない者が多い。そのため、政府も、その他の書類を在住証明として受け入れざるを得なかった。

また、雇用関係の存在の跡を残さず、証明できるような書類が一切ない「不法な雇用」の形で、地下経済で働いている労働者に対して、雇い主との雇用関係の存在の証明を求めることは、ほぼ不可能である。政府は、不法移民労働者に対して、1)自分が雇用されている事実を裁判所に訴え、判事がこれを認める内容の文書を発行した場合、その文書を取得して提出する、2)自分を不法な形で雇用している雇用主を労働監査官に訴え、監査官が発行した証明書を取得して提出する――ことを求めている。しかしこの方法も実はあまり現実的でない。

もともと、労働監査が厳しく行われ、労働者を不法に働かせている雇用主が次々と摘発されているのであれば、不法移民労働者の問題自体が存在しないであろう。しかし、労働監査官の数、労働監査実施件数ともに圧倒的に不足しており、監査が実質的に奏効しているとは言いがたいというのが現実である。

労組や移民労働者団体は、不法移民労働者の存在を、「地下経済における労働者搾取」という現実と結びつけ、不法な労働を強要する雇用主側を追及しなければならないと主張している。しかし、個々のケースをみると、この問題は複雑な状況にあるといえる。確かに、もともと弱い立場にある労働者側が雇用主を訴えたところで、雇用主側はせいぜい罰金程度で終わり、訴えた方は解雇の危険にも曝されかねない。その一方で、移民労働者が自分を「不当に働かせている」雇用主を必ずしも悪く思っておらず、むしろ良好な労使関係を維持している場合もないわけではない(注1)。

「バカンス中」という時期的要因もあり、「定着による合法化」の再開に対する反響は、あまり大きくない。また、実際にどれほどの不法移民が合法化されるかについても、現在のところ予測不能である。いずれにせよ、スペインが「不法に入国しても時期を待てばいつかは合法化のチャンスがある国」であることに変わりはなく、今後も移民の流入は続くものと見られる。

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