米国におけるメキシコ不法移民取り締まりの動き

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年7月

メキシコと国境を接する米国アリゾナ州では、4月からメキシコ人不法移民の監視パトロールが開始されている。「ミニット・マン(民兵)」と呼ばれるそれは不法移民の取り締まりを目的とした私的な自警団のようなもので、武器も携行している。人権擁護団体からは批判もあるが、同種の活動はテキサス州にも広がりつつある。同州では10月から国境監視活動を始めるために市民の間で呼びかけが行われており、200人~300人の「ミニット・マン」が集められるものと見られる。

テキサス州で「ミニット・マン」の推進に当たっている関係者らは、その活動の意図は国境における不法移民流入の現状に政府の目を向けさせることだと述べた。不法移民対策のための国境封鎖が無理であることは理解できるものの、「政府は、我が国に病気、犯罪、潜在的なテロをもたらす不法移民の流入から我々を守るという義務がある」とした。具体的な活動内容としては国境付近の監視・パトロールを行い、不法移民の国境越えを発見したら携帯電話で国境警備当局に通知するとしている。

一方、ハリウッドスターとして有名なカリフォルニアのシュワルツェネッガー知事も、4月末には不法移民流入対策としてメキシコ国境封鎖を求める発言を行い、「人種差別」「ファシスト」等の批判を浴びたうえ、アリゾナ州の「ミニット・マン」を支持する発言でさらにひんしゅくを買った。行政担当者としてこの種の活動に対する支持を表明したケースはシュワルツェネッガー知事が初めてであるが、同知事の支持率が1月の60%から4月には45%まで下がっており、人気回復を狙った発言とも見られる。

テキサス州のペリー州知事のもとには、民主党の上下両院議員らから「ミニット・マン」の活動に反対するよう求める書簡が届いている。この種のパトロールが個人の所有地にも立ち入るものであるため問題を起こしやすく、また国境での通商・観光活動にも影響を与えかねないというのが、その理由である。しかしペリー州知事は、不法移民の流入に対する市民の不快感は理解できると述べ、このような動きが出てくるのは政府が不法移民撲滅の努力を十分に尽くさないためであるとからであるとして、「ミニット・マン」の存在を事実上正当化している。これに対し、在米ラテンアメリカ市民連盟(LULAC)のフロレス会長は、法的手段に訴えてでも「ミニット・マン」の活動を阻止する構えを見せている。

メキシコ国境ではこれまでにも、米国側の厳しい不法移民取り締まり政策の中で、国境越えを試みる多くのメキシコ人が命を落とすケースが発生しており、今年に入ってからもすでに111人が亡くなっている。5月30日から6月5日にかけて、移民の人権擁護を掲げる米国の複数のNGO関係者ら200名余りがアリゾナ州の砂漠地帯で、120kmにわたり抗議の行進を行った。

メキシコ側議員の見解

6月11日に米国で終了した第4回米墨議員会合でも メキシコ人移民の問題が取上げられた。米国側の議員代表団によれば、9.11事件以降、米国では移民は国家の安全保障に係わる問題となっている。国境を越えてくる不法移民や麻薬密売者の中にテロリストが混在する可能性がある。したがって「(米国内に在住する)何百万というメキシコ人不法移民を合法化するコンセンサスが得られるとは考えにくい」と彼らは述べた。

またアリゾナ州選出の共和党議員は、不法移民の増加が市町村の公共サービス、学校、病院の財政を圧迫しているとして、メキシコ側が移民の社会保障コストの支出に協力すべきであると述べた。

一方メキシコ側代表団は、与党の国民行動党(PAN)議員が移民問題をめぐる米国との交渉に満足を表明し、近いうちに何らかの成果がもたらされると期待するとしたのに対し、野党議員は「具体的な前進はなかった」としており、意見が分かれている。

野党の民主革命党(PRD)のカマチョ下院議員は、6月13日付エル・ウニベルサル紙掲載の寄稿記事でこの問題について取上げ、米国では不法移民のみならず合法的に滞在しているメキシコ人移民に対しても排斥の気運が高まっているとして、このような「反墨主義」に対してどのような政策をとるべきかを論じた。同議員によれば反墨主義に対して反米主義を煽るのは全くの誤りで、逆効果なだけである。米国に住むメキシコ人に対する反感を弱め、米国社会の中でメキシコ人市民が影響力を持つことを目指すうような政策が必要とした。また、米国にメキシコの政治責任者やオピニオンリーダーらの声に耳を傾けさせるためには、まずメキシコという国そのものの信頼性を高めなければならず、こうした政策はどの政党が政権を有するかに係わらず必要であるとした。

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