不法移民合法化申請期間の終了
2005年5月7日、不法移民労働者合法化プロセスが、3カ月の期限を迎え終了したスペイン。同プロセスは、外国人法施行規則(同年1月発効)に従い、2月7日に開始されたもの。カルデラ労働大臣は、今回の不法移民合法化により、「大規模な地下経済の浮上を可能にした」という側面を高く評価したが、その一方で、かねてから懸念されていた「将来の合法化を期待してあえて不法な形でスペインへの入国を試みる移民の増加(いわゆる「呼び寄せ効果」)」についての問題は手付かずのままに終わった。
不法移民労働者合法化プロセス最終日の2005年5月7日、合法化申請手続窓口となった社会保険事務所では、例外的に午後9時まで申請を受け付けたが、窓口閉鎖後も3時間期限を延長し、各自治州の中央政府代表部・副代表部が窓口となって夜中まで対応が続けられた。
カルデラ労働大臣の報告(同年5月9日)によると、合法化を申請した不法移民の数は69万人を越え、1985年以来行われた過去7回の合法化プロセスの合計を上回る数値となった。
国別で見ると、最も多かったのがエクアドル人で、約13万6000人。次いで、ルーマニア人が約10万9000人で、第3位のモロッコ人の約7万7300人を大きく上回った。4位以下の国籍は、コロンビア、ボリビア、ブルガリア、アルゼンチン、ウクライナとなっている。
職業別では家事労働者(ハウスキーパー等)が約21万8000人で最も多く、次いで建設労働者(14万3000人)、農業労働者(10万人)、ホテル業(7万1200人)となっている。全申請件数のうち、すでに30%は合法化手続が完了。なお、申請却下は、全体の7%程度にとどまるのではないかと政府はみている。
また、今回の「正規の雇用契約を有する不法移民の合法化」により、彼らの家族として不法滞在していた移民(配偶者、未成年の子供、65歳以上の高齢者等)も、「合法移民の家族」として合法化を申請できるようなり、その数は、40万人近くにのぼるとの見通し。
同労働大臣は、今回の不法移民合法化により、大規模な地下経済の浮上を可能にしたという側面を高く評価。その一方で、いわゆる「呼び寄せ効果」――将来の合法化を期待してあえて不法な形でスペインへの入国を試みる移民の増加――の問題については手付かずのままに終わったといえる。
今回は、何カ月も前から合法化プロセスの可能性を政府が公表していたため、プロセス開始までの間に不法移民が流入する時間をより長く与えてしまうことになった。合法化の条件として「2004年8月7日以前からスペインに滞在していたこと」――つまり、「合法化申請の時点でスペインに6カ月以上滞在していること」――が求められたため、その後に入国した移民が合法化される可能性は理論的にはありえない。それでも一旦入国した不法移民がそのまま国内にとどまり、地下経済等に潜ることは、これまでの経験からも想定される。結局、不法移民の合法化を目的としているはずの政策によって、かえって新たな不法移民の増加を招いてしまうことになり、こうした状況を、エル・ムンド紙の社説では「問題の解決を目指しながら、より大きな問題を生み出してしまった」と指摘している。
2005年5月5日、カタルーニャ州の代表的な雇用者連合の1つであるCecotのガルフェー会長は、保守系の前政権、現社労党政権のどちらにおいても、明確な移民政策が存在しなかったことを遺憾とした上で、「移民問題は、圧力鍋のようなもの。合法化でバルブを開き蒸気を逃したが、(合法化措置を終えて)また鍋の蓋を閉じてしまったら、実はこれにかわる移民政策はなく、時間がたてばまたバルブを開いてガス抜きしなければならなくなるかもしれない」と語った。
スペインでは少子高齢化による様々な影響を短期間的に緩和するものとして、移民労働者の増加を歓迎し、「不法移民の合法化をより積極的に進めるべき」とする要求がある一方で、「寛大」ともとれる移民政策に引き付けられて流入する不法移民の悪循環を、どこかで断ち切らなければならないとの声も強まっている。この両方からの圧力の間で、移民問題に対する根本的な姿勢そのものを明確に示すことができずにいるというのが実情といえる。
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