移民、送金および経済発展について
―国際ワークショップ「アジアにおける人の移動と労働市場(2005)」より

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年2月

労働政策研究研修機構(JILPT)、経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)との共催で国際ワークショップ「アジアにおける人の移動と労働市場(2005)」が東京で開催された。1994年に第1回目が開催されて以来、今年で11回目の開催である。このワークショップは、人の移動について、アジア諸国の政策、現状と国際協力等について、毎年情報を交換し、意見交換を行うことを主な目的として開催されている。

今回のワークショップでは、毎年の情報交換に加え、「移民、送金及び経済発展について」と題し、外国人労働者による海外送金が本国経済に与える影響についての議論がもたれた。海外送金の役割を高めるためには、どのような国際的な協力関係のあり方が必要なのか。活発な討論が展開された。

送金問題の重要性―OECD報告

OECDの報告によると、移民の増加により、2003年1年間で15億米ドルの海外送金が行われているという。送り出し国の中には、開発援助(ODA)や外国投資額より海外移住者からの送金が大きな比重を占めている国もある。また、送金により移住者やその家族の生活水準が向上し、送り出し国の経済発展の推進力としても良い影響を与えていることが明らかになっている。

送金の定義は、受入国に1年以上いるものからの送金と定義する場合のほかいくつかの指標をつかって定義する場合など実態に則してさまざまである。また、金額とその評価を正確に把握することは難しい。送金額を評価する場合、異なる数字がさまざまに出てくることになり、図ることが困難である。インド、パキスタンなどはハワラ(マネーロンダリング組織)などを利用していて、送金額の10%から30%は正式なチャネルを通じた送金が行われていないと指摘されている。マクロ経済の視点からみていえることは、まず低所得者層ほど送金額が多いということ、そして、インド、メキシコなどでは送金が輸出に影響を与えているということ、また、送金行為は、アジアに集中しており、世界中で均衡されているわけではないということである。

銀行制度の発達は、送金に重要な役割をしめている。OECD諸国の場合、ポルトガルやトルコのケースは、送金システムそのものは異なるが、移民労働者を顧客として信頼関係を築くことで、銀行は送金業務を通じて高利率貯蓄や金融商品の紹介なども行い、良好な成果を上げていることは注目すべきである。

特徴として、移住労働者による送金には多様性がある。移住者の送金を誘致するための特別な政策、たとえば銀行制度を持つことが重要であり、地域の発展戦略と絡めて検討することが重要である。

送金管理については、政府が送金を管理したいと考える場合、送金の原則は人から人へのものであることを認識し、信頼を確立することが重要である。送金が全国にランダムに分散された場合には、貧困対策となるが、実際には特定地域、特定家族に集中することが問題である。また、開発援助の効果的な運用の一環としてドナー国での送金額を考慮に入れることも考えられる。送金の資金の流れを調整することで、あわせて開発援助のあり方も調整するという考え方も一部にある。

送金問題の将来は、移民と貿易の関係が相互補完的なものであると考えた場合、たとえば、農産物の助成金などに欧米が何らかの助成金をだすことで途上国の状況がどのように変わるのかという世界貿易のひずみの問題やグローバリゼーションにおける貿易制度の仕組みそのもの、頭脳流出に関するプラス面、マイナス面についての問題等も考慮に入れて重点的に取り組む必要があると指摘している。

また、環境との関係、人口動態への影響、政治的変化、透明性の高い政治国家の成立がどのように移民の流れに影響するのかということも視野に入れる必要がある。

送金に関する各国の事例

  1. インドネシアの事例

    インドネシアでは、送金は家族や労働福祉の水準を高め、間接的、直接的にその出身地の経済発展を支援する。インドネシア中央銀行によると、年間送金額は2004年11月現在、1億8000万ドル。課題は、送金プログラムの整備により銀行口座振替えなどの支援制度がさらに整えられる必要がある。ナショナルバンクは香港、シンガポール、日本に支店を持ち海外、国内に送金プログラムを設置しているが、まだ最適に管理されているとはいえない。これにより生産的な活動のため、送金が使われるようになると思われる。送金チャネルは現状では、自分で自国に持ち帰るか友人を通じて持ち帰るかのいずれかになる。送金は、事業資本として、水田や少数の家畜の購入などに使われるほか、家族の日常的な消費に使われている。

  2. フィリピンの事例

    フィリピンでは、正規、非正規を含め750万人が海外移民している。29歳から39歳の移住フィリピン人の40%は大学卒の教育レベルである。送金総額は、2004年10月までですでに69億ドルに達しており、中央銀行の数字では9%の増加がさらに見込まれ、最終的には80億ドルの水準に達すると予想されている。送金元は、金額の多い順でみるとアメリカ、サウジアラビア、日本、イタリア、イギリスとなっている。送金チャネルは、銀行機関。政府の金融部門により管理され、ATM、デビットカード、電子マネーコンピューターベースのeバンキングがある。このうちインターネットベースの金融サービスが最も多く利用されており、2004年6月時点で42行が取り扱いをしている。この他にも信用組合や銀行認定の送金扱い業者、郵便サービスなどがある。非公式なものとしては、国際宅配便、人材斡旋業者、民族系店舗などでも送金は扱われるほか、帰国時に持参する場合がある。

    送金の影響は、経済成長の促進や消費レベルの向上にある。しかし一方で送金によって貧困層の生活水準は高まっていないという調査結果もあり、送金への依存体質が恒久化してしまうというマイナスの側面も指摘されている。現状のまま送金に依存しているとマクロ的視点からみて政府の構造改革が延期されていくという懸念もある。

  3. オーストラリアの事例

    オーストラリアは、第二次大戦後に労働力が不足して以来、管理された移住プログラムが導入された。政府は、このプログラムにより、技能に焦点をあて、家族配偶者との再会を可能にするなど人道的な義務に重点をおいた国益にプラスとなる移住を進める方針をとっている。一時的な就労者でも家族帯同が可能である点が特徴である。

    送金に関してはオーストラリアでは大きな問題は認識されていない。家族帯同が多いため、母国には送金先相手がいない場合が多いこともあり、送金の重要性は低い。

  4. ブラジルの事例

    日本からブラジルへの移住は、明治政府が移住政策をとったことから、ハワイ、カリフォルニア、ペルーとならび100年前から進んでいる。現在ブラジルにはブラジル人口の0.7%に相当する240万人の日系人がおり、コミュニティーを形成している。日系ブラジル人は、80年代バブル経済の中、日本人のやりたがらない、いわゆる3K「きつい、汚い、危険」労働にたずさわるため、労働力不足の日本へ呼び戻されている。

    現在、ブラジルでは、日本から10数億の送金が行われており、ブラジルから日本への輸入超過の貿易収支はここでバランスとられているといっても過言ではない。

    ブラジル銀行は今、東京に6行ある。在日ブラジル人にコンタクトをとり、彼らの送金や貯金を引き受けておっている。非公式な送金も多く問題となっている。ブラジルに送金された金額は、殆どが自宅や車の購入など個人消費にまわされている。基本的には日本の稼ぎ、ブラジルで消費し、また日本で稼ぐと言ったり来たりを繰り返す場合が多いが、10年も15年も日本に住むものも多く、子供の教育や年金など社会福祉が問題となっている。日本在住外国人の中では4番目にブラジル人による犯罪が多く、青少年非行においては、ブラジル人の子供が第一位であることは喫緊の課題となっている。

    世界的みると、ブラジル人支援のNPOがいくつかあり、そこでは、稼いだお金を耐久消費財や自宅購入などで消費せず、貯金や送金を元手に小規模企業や零細企業を起こす起業家の育成を促すように支援している。これは特に、米州開発銀行が提唱しているもので、MIF(Multilateral Investment Fund)とよばれ、ブラジル政府やNPOも積極的に参加して起業支援を行っている。

送金の意義と国際協力のあり方についての議論

上記の報告をふまえた議論では、今後の政策を検討する上でのいくつかの論点が提出された。以下に紹介したい。

  1. 送金者の意図が影響する。移動先に定住したいと考えた場合、送金額は少なくなる。又、送り出し元の自国経済が成長過程にある場合には、自国に経済機会が多くなるので自国への送金額は多くなる。
  2. 送金額の多寡は、熟練レベルが金額を左右するという説があるが、高度熟練労働者は金額ベースでは多いが、本人の報酬割合においては少ない、低熟練労働者は金額は少ないが本人報酬に占める割合は多いといえる。
  3. 頭脳流出については、送り出し国の経済発展段階を考慮にいれなければならない。自国に機会が多ければ高度熟練技能者の場合、報酬が受け入れ国の方が高くても自国に戻るといえる。
  4. 直接投資と送金の違いについて、境界線はどこにあるのか。経済開発の視点でみることで、考え方が変わってくる。ここで重要なことは、送金は強制的なものではないという原則を確認することである。
    たとえば、フィリピンでは、過去の送金は国際準備高の45%を占める。送金は投資ではなく、送金は90年代に入って直接投資(FDI)のネットフローより高くなっているが、大きな規模の投資ではなく、個人ベースが中心である。政府は収支として勘定にいれているので送金方法にも働きかけを行っている。
    また、ブラジルの場合は、国際開発銀行(IDB)のような国際金融機関がブラジル政府を支援し、送金を使って、人材育成や帰国した移民の起業を援助するプログラムや体系的制度の構築に協力している。送金の最適化も課題として認識している。

    メキシコでは、アメリカ移民がホームコミュニティーを形成し、地元自治体と協力して基金を設立し、インフラ、学校、橋などを建設している。

    インドネシアは、遠隔地では投資機会がないなどの理由があり、国レベルでは送金の地域還元計画があるにもかかわらず、実際には地域レベルでは特定地域へ集中している。正式なルートによる送金は手数料が高いなどのデメリットがある。受入国側も送金組織に規制をかけてはどうか。

    政府が送金所得をどのように使うかについて、政府は、送金の使途には原則的に干渉しない、労働者を奨励し、投資を呼びかけたり、家計の助けとすることをアドバイスすることが重要ではないか。

  5. 生活水準の向上や教育、文化レベルの向上に役立てる。

    中国や台湾では、送金は耐久消費財の購入や子供の教育費にあてられる。結果的に文化的レベルの向上に貢献している。人的資源の観点から見てこの視点は非常に重要であると考えられる。特に中国では、GDPの30%相当が出稼ぎによる送金である。訓練費用や人の技能向上のために役立てられ、地方の発展に貢献している。

  6. 経済発展の長期的戦略としては移民には依存しないということである。しかし、送金の持続性ということを考えると、投資環境だけではなく、全体的な政策や環境が重要である。送金を生産的に活用するためには、少なくとも送り出し国、受け入れ国の2国間ベースで考えていかなければならない。送金の活用で、良い人材の育成やビジネス機会の創出など外国人労働者が夢や希望をもって働ける環境を提示できるようにすることが重要である。

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