後を絶たない医師や看護師の海外流出
―5年間で閉鎖に追い込まれた私立病院は1,000カ所

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年12月

フィリピン私立病院協会(PHAP)のチャン会長は、2005年11月22日、マニラ市内のホテルで開催された年次大会で、海外での賃金や就業環境の良さを求めて国を去る医師や看護師が後を絶たず、この5年間で、1,000カ所の私立病院が閉鎖に追い込まれたと述べた。現在、国内の私立病院は、わずかに700カ所。同会長は、特に、地方での医療体制の崩壊と住民の健康に対する危惧を示した。

PHAPのチャン会長によれば、2000年に1,700あった国内の私立病院は、現在700カ所にまで激減。この5年間で閉鎖されたのは、1,000カ所にもなる。さらに、2005年10月の11カ所閉鎖に続き、11月も12カ所閉鎖しており、私立病院の閉鎖は続いている。原因は、人員不足。

国内での低賃金等の就業環境の悪さから、高賃金を求めて海外へ移住する医師や看護師や後を絶たず、多くの病院が、常勤の医師や看護師、助産婦が不足し、閉鎖に追い込まれているという。同会長は、特に地方では深刻な状況であるとし、地方の医療体制の崩壊及び住民の健康に対する危惧を示した。

同会長はさらに、国内の医師や看護師等の医療関係従事者が継続的に海外へ移住することにより、フィリピン国内が深刻な医療危機に陥っていると主張。外国へ去った医師や看護師のポジションを満たすために、各病院が医療の専門家を募集できるようなシステムを構築し、医療機関の存続に向けて努力するよう、PHAPが保健省に強く求めていることを明らかにした。

PHAPによれば、国内の私立病院における医師の月給は、15,000~18,000ペソ(約279~335ドル)。看護婦にいたっては、8,000ペソ(約148ドル)という低さである。看護師の場合、米国で4,000ドル、英国の2,000ドルが平均月給とされ、PHAPは、国内の状況とあまりにも差がありすぎて、比較することすら無意味であるとしている。同会長は、こうした状況への対処として、多くの病院が、病院を去ってしまった看護師の穴を埋められるように、医療の専門家による介護士資格取得者へのトレーニングを開始していることを明らかにした。

国立衛生研究所(NIH)の元長官であるガルベス博士によれば、現在、フィリピンは、世界第1位の看護師輸出国。医師についても、世界で第2位の輸出国である。1994年から2003年にかけて、国を去った看護師は、およそ10万人。2004年には、約2万5,000人の看護師が海外へ渡り、その一方で、2005年には、約4,000人の医師が、看護師養成コースを受講している。医学コースに進学する学生は減少し、数校の医学校が閉鎖に追い込まれた。同氏は、この現象を「頭脳流出ではなく脳出血である」と評し、フィリピン国内の医療体制の崩壊への危惧を示している。

政府は、外貨獲得手段のひとつとして、医師や看護師等の専門職の海外での就労を促進している。しかし、年々国内の状況は悪化している。この状況にどう対処するのか。政府は、国内の経済と医療体制の維持・発展という、大きな二つの課題に同時に立ち向かうことが求められている。

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