社会保険庁の労使対立が決着、病院のスト回避される
メキシコの公的医療サービスは、社会保険庁(IMSS)が運営する社会保険制度により運営されている。しかしここ1年はIMSS職員の退職年金制度をめぐる労使の対立が続き、10月15日を労働協約の妥結期限とする医療機関のストライキも予告されていた。しかし期限前日の10月14日に労使の合意が成立したため、最悪の事態はひとまず回避された。
労使対立の争点となった退職年金制度(RJT)は、社会保険法で規定される年金制度のほかに、IMSS職員に対して付加的に設けられているものだ。社会保険法上の年金制度に比べて、受給要件となる勤続年数が短い(男27年、女28年)、年金額の算定基礎が広い、現役職員の昇給に合わせて増額されるなど、手厚いものとなっている。当初このRJTの財源は、一般労働者及び雇用主の払う保険料に大幅に依存していた。しかしこれが医療サービスの財源を圧迫し、サービスの低下にもつながっているとして問題視されるようになった。2004年8月には社会保険法が改正され、一般労働者の保険料をRJTの財源に充てないこととされ、また新規職員を採用するに当たっては、その年金財源を別途確保することが義務づけられた。
一方IMSSの労働組合はこれに反対し、法改正の撤回を求めていた。組合側の主張によれば、法改正はIMSS職員の保険料負担増、権利侵害につながるものである。また、新規職員の採用が事実上凍結されてサービスがますます低下する。社会保険の財政難はRJTよりも、保険料未納企業や賃金があがらないために保険料収入が増えないことが問題である、などとして、IMSS側を批判した。
このようにRJTをめぐり労使が対立し、約1年にわたり断続的に交渉が続いた。10月14日に妥結した最終合意では、組合側が職員の保険料の漸進的な増額、受給要件となる勤続年数の引きのばし(35年)、年金額の減額などを受け入れた形となった。(ただし、法改正については反対する権利を留保している。)これを受けて、10月15日にはフォックス大統領が訪問先のスペインで、今回の合意は歴史的なものであるとコメントした。大統領は、公的医療サービスの改善のために特別投資プランを策定することを表明している。
今年の9月に発表されたOECDの「エコノミック・サーベイ・イン・メキシコ2005」では、メキシコの政策課題として、医療サービスのほか社会的セーフティネット、初等・中等教育、輸送インフラ、立法制度といった、公共部門の強化とサービスの向上をあげている。今回のIMSSの年金制度に関する合意が、これから行われる様々な制度改革の端緒となるとの見方もある。
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