障害年金不正受給問題への対応
9月12日付ニュー・ストレイツ・タイムズ紙の報道によると、社会保障機構(Social Security Organization: SOCSO)(注1)が給付を行う障害年金に関し、障害のない者の不正受給が多数行われていることが明らかになった。具体的事例として、ペラ州において仲介者に5000リンギ(約15万円)支払い、その見返りとして就労に適さないとの不正な診断書を入手し、障害認定を受けたとする例が紹介されている。この問題に関し、人的資源省は9月14日、SOCSOに対し(1)原因究明に向けた不正受給の徹底調査、(2)障害認定を行う審査委員会制度(注2)の再検討、(3)3~6カ月のリハビリを受けさせた後の障害等級の確定――を命じた。人的資源大臣が14日ニュー・ストレイツ・タイムズ紙に語ったところによると、これに併せ障害年金の請求手続きの見直しも行う予定とのことである。
SOCSOは今年の年初から7カ月間に102件の障害年金を認定している。ちなみに昨年は約2万7000人に対し、1億7350万リンギ(約52億5080万円)の障害年金が支払われた。9月16日付ニュー・ストレイツ・タイムズの報道によると、医師や、SOCSOが認可する審査委員会で障害が認定された労働者の10人に1人は不正受給であると推定され、年間で少なくとも430万リンギ(約1億3000万円)が彼らに支払われている。SOSCOは9月16日、ホットラインの電話連絡先とメールアドレスを公表し、不正受給についての情報提供を国民に呼びかけた。また同日付で、就労不能と認定された労働者は受給を受ける前にSOCSOが実施するリハビリのプログラムを受けることが義務付けられた。リハビリセンターでは、リハビリを受ける労働者の障害の程度に関して詳細なレポートを作成し、給付が適切に行われているか判断する材料として人的資源省に提供する。
9月15日付ニュー・ストレイツ・タイムズ紙によると、人的資源省は不正受給削減に向けて、ケースマネジャーを100人以上採用することにした。ケースマネジャーは、個々の事例に応じてリハビリの後の雇用の確保を行うほか、請求者の家族に対するカウンセリングも行う。職場復帰が不可能と診断された労働者については、ケースマネジャーは少なくとも1年に一度は現況を確認し、受給が適当かどうかを判断しなければならない。また人的資源大臣は、不正に加担した使用者、医師、審査委員会に対し訴訟を起こす可能性についても言及した。
この件に関し、マレーシア経営者連盟(MEF)のシャムシディン事務局長は、経営者はこの事態に困惑しているとし、労働者は労働者のために作られた組織を自ら欺いていると指摘。こうした不正のため、本来受けるべきはずの労働者に十分給付が行き渡っていないことを憂慮している。一方マレーシア労働組合会議(MTUC)のシャヒル委員長は、SOCSOを不正利用した労働者の行いを許さない、とした上で、労働者は制度の網をかいくぐるような真似をすべきではないと述べ、SOCSOに対し、不正受給者に対する訴訟を起こすよう求めた。
注
- SOCSOは1969年雇用者社会保障法に基づき、1971年に設立された。労使双方の拠出金により運営され、民間企業従業員の労働災害保険、不治の疾病により労働不能になった人への年金保険に携わる。運営は政労使三者構成の委員会が行う。
- 審査委員会は、厚生省の協力のもと公立の病院内に設置される。委員は院内の経験豊富な医師や専門家から任命される。
参考
- 9月12日、14日、15日、16日付ニュー・ストレイツ・タイムズ
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